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冒険している横で編集者と言うか筆者。てか、ここまで口出ししてきたらスポンサーレベルの奴がおる 3

 『ホウド』の『イッカ』村から始まった冒険は、多数の依頼と感謝を足跡の様に残しながら、この大陸の中心都市にまでたどり着いていた。


「さて、現在。我々はこの大陸の中心部とも言える国。『トウキ』に来ている訳ですが…

「此処までの冒険譚も凄かったよな。『アルモリ』じゃ、雪玉の怪物に遭遇するし。『キーアタ』じゃ鬼みたいな化物に出会うし。『ギミャ』じゃ隻眼のドラゴンと戦う羽目になるし」

「全部。不意打ちで殺していたんで、盛り上がりもクソも無かったですけれどね」


 実際にこれまでの冒険は敵に出くわさない様に行動した上で、先にボスと思しき者を見つけては不意打ちで終わらせてきた為、これまでの足跡を物語としてまとめると。スタイリッシュさよりも卑劣さの方が目立つ仕上がりになっていた。


「それでも、沢山の人から感謝されたじゃないですか! それに、私。ブラックさんのセリフに感動したんですよ!」

「えっと。どのセリフ?」

「ほら。『チギート』に寄った時に子供が『兄ちゃんみたいな勇者になりたい!』って言った時に『兄ちゃんみたいな勇者が必要のない世界の方が良い』って言ったじゃないですか」

「そこは次の勇者は君だ! っていう所でしょうが!?」

「皆を守るために勇者になったのに。守るべき皆に同戦場に来てくれって言うのはおかしくない? 危険な目に遭って欲しくないから、体張ってんのに」

「それらしいこと言って『オードー』の逆張りばっかりしてからに。叙事詩を書く側の負担も考えて下さいよ」


 ミノ子が笑いながら語るのに対して、イディエルは憤っていた。これまでの冒険譚は叙事詩として記すには、あまりにも型破りであったからだ。


「でも、それはそれで人気が出るかもしれませんよ? 破天荒な勇者! ってことで」

「皆の心に勇気と希望を与える物はですね。ある程度の決まった型にハマっていないと広がりにくいんですよ!」


 ぶつくさ文句を言うイディエルの後を付けながら、この大陸一の大国である『トウキ』に辿り着いた。堅牢な城壁と大勢の兵に守られたこの国は、これまでの魔物の侵攻を全て退けていた。

 故に、入国検査は非常に厳しいものであった。関門の前には多くのテントが張られ、厳重な検査が行われていた。ブラック達も近づいた所で、豪壮な鎧に身を包んだ女性騎士によって止められた。


「止まれ。お前達」

「あ。何でしょうか?」


 軽薄に答えたが、ブラックはいつでも戦闘に入れる体制を取っていた。大陸の中心の国を守る騎士とあるだけに、その佇まいには一部の隙も見当たらない。背後に控えているイディエルもミノ子も息を呑んでいた。


「お前達の活躍は我が王の耳にも届いている。話を聞きたいとのことだ」

「おぉ。歓迎されているね」

「凄い。『トウキ』の国に入れる人間なんて本当に限られているっていうのに…」

「勇者冥利に尽きますね!」


 許可が出るや、イディエルだけが調子には乗っていたが。ブラックとミノ子の顔は案内されている間もずっと緊張に包まれていた。やがて、大勢の兵士達に囲まれながら謁見した時、3人は膝を着きながら対面していた。


「『ようこそ、『トウキ』へ! 歓迎するよ。俺の名前はジャック。楽にしてくれて構わない」

「いえ、そんな。この大陸一の国王の前ですから。然るべき佇まいのほうが、逆に落ち着くというものです」

「そうか。じゃあ、単刀直入に用件を言おう。俺も君達の冒険譚に1枚噛ませて欲しい」

「といいますと?」


 イディエルが疑問を発すると同時に。近くの兵士達が麻袋を持ってきた。その中身を確認すると、大量の貨幣が収められていた。


「君達の冒険譚を我々に寄越して欲しいと言うことだ。勿論、報酬や支援を用意する。そして、君がこの旅の最中に書き続けていると言う叙事詩を広く拡げる手伝いもしよう!」

「お言葉ですが。我々が今作成している冒険譚は遍く人々の為の物であって。特定の人間の利益の為にある訳ではありません!」

「散々キャストの変更だの展開だのに口を挟んでいた奴が何か言っていますね……」


 始めて出会ったときにキャストの変更だの。道中では、展開云々に口を挟んできたり。無理矢理エピソードを作ろうとした彼女の言動を鑑みると、白々しいと言う他なく。ミノ子は怪訝な視線を向けるばかりだった。そんな勇ましい意見を吐くイディエルとは裏腹に、ブラックはこれまた軽薄に返事した。


「あ、いや。俺は賛成です。支援やスポンサーが付いてくれるなら、これ以上にありがたい事はありませんから」

「そっちの勇者くんは話が分かるじゃないか!物資以外にも、我が軍団の兵もつけよう。平民上がりの優秀な者がいるんだ。入ってこい」


 ジャックの掛け声と共に入ってきたのはミノ子に負けず劣らずの体躯を持った女性だった。特筆すべきは、顎まで含んだ顔の長さで。縦長の面持ちは馬を彷彿とさせる物だった。


「私の名前は『レイカ』。国王の仰せのままに」

「国王様。出来れば、もうちょっと美少女を」

「レイカは凄いんだぞ! この間なんて、虎型の魔獣を引き裂いていたからな!」

「その。出来れば回復役とか後方とかでいいんで、美少女を…」


 先程までの美辞麗句は何処にか。早速、普及率の為のキャスティングの変更を求め始めた所で、ブラックは特段気にせずにレイカと握手を交わしていた。


「よろしくね、レイカちゃん」

「えぇ、よろしく。勇者の一団に加われるだなんて、光栄だわ。そちらに居るミノ娘は『ホウド』国一の狩人だと聞くわ」

「お褒めに預かり光栄です!」

「よぅし。それじゃ、未来の英雄たちを饗すとしよう!」


 ジャックの計らいにより、ブラック達は絢爛豪華な晩餐を楽しみ、この街で一番格式高い宿に泊まることになった。そして、全員が寝静まった深夜のことである。


~~



 王城の一角。多数の警備兵達の目を掻い潜りながら、ブラックは就寝しようとしていた王と対面していた。


「で、国王様。何で俺を呼び出したんですか?」

「腹を割って話そうじゃないか。実は、俺は今回の魔王騒動についての真相をある程度把握している」

「それは随分情報通な事ですね。裏で通じているってことですか?」

「そういうこった。結論から言おう。今回の魔王騒動は君達の手で必ず解決できる問題だ。そして、問題はその後なんだ。君は横に居た彼女の様なバカじゃないだろうから分かるだろうが。魔王を倒すことで起きる弊害は簡単に想像できるだろう?」

「人類共通の敵が居なくなり、お互いが矛先を向け合う時代が来る。ですか?」


 それは彼としても分かっている事だった。むしろ、その近似的なケースを体験してきた身としては、分からぬわけがなかった。人類共通の敵が居なくなった後の人々がどういった振る舞いを取るかという事が。


「そうだ。魔王がいて魔物がいる間は大手を振って軍備増強が出来る。他所に武器や兵士を売ることが出来る。周りが困っている時ほど、俺達は美味い思いが出来るわけだ」

「まるで、死の商人みたいですね。それで、俺にやって欲しいことってなんです? まさか、魔王を倒さないでくれと?」

「それは倒して欲しいんだ。そんで、これは誰にも言わないでほしいんだが……『魔王』を倒した所で十数年後。復活する」

「相当深い所で絡んでいるみたいですね」

「だから、俺はこの国を発展させることが出来た。事前に『魔王』との戦争が予想できるから、それに向けての準備が何処の国よりも早く出来た」


 そして、その準備の良さがここまでの発展を呼び込んだ。商売に必要なのは時流を読み解くセンスだが、それが予め入手できるのなら、勝利と発展は約束されている様な物だった。


「マッチポンプとはちょっと違いますが。大分きな臭い所ですね。そんで、次のクールが決まったって訳ですか」

「その通りだ。君には我が国専属の『勇者』になって欲しい。十数年年後にかけて現れる魔王を倒すために。幸い君はまだ若い。その頃でも、まだまだ戦えるだろう?」

「将来の予約っすか。どうしようかな」


 ブラックの脳内には、これまでの冒険で出会って来た人々の顔が思い浮かんだ。その誰もが復活した魔王の生み出した眷属により、被害を被っていた。悲しみに包まれていた。

 もしも、そう言った被害を事前に防げるなら。と考えたが、それはどう考えても一人で出来る事ではない。ならば、大きな力に与するのは順当な方法とも思い、彼はジャックの提案に頷いた。その決定に彼は大いに喜んだ。


「いやいや。君は本当に話が分かる。君達の旅路の幸運を願っているよ。良き旅を…」


 そう言うと、ブラックは部屋から退出した。最後まで軽快な表情を浮かべていた所に並々ならぬ物を感じていた。あそこまで知っているとなれば、相当に根深い所に絡んでいるのだろうと。

 自分が勇者ならば義憤あらかた始末するべきかと考えたが、そんな事をしても徒に社会を困惑させるだけで、それこそレッドの二の舞になると考えた。


「(イディエルが居たら。真相を暴くべきです! とか言うかもしれねぇけれど。俺にはそこまで面倒見切れねぇ)」


 踵を返して。王城から去ろうとした一瞬、彼はスーツ内のセンサーを起動させた。そして、それは幾つもの反応を示した。風景としては、そこには何の異物も無いが。赤外線スコープを通して見れば、そこら中に軽装の兵士達が身構えていた。


「(油断ならねぇなホント)」


 必要なのは正義感ではなく、時に謝辞を受け取りながら。それで満足する程度の浅い器で良い。底なしの正義感の末路を見ていた彼は、絶対にそうはならない為にも。合理的に、打算的に生きて行く事を胸に誓っていた。それでも、心の端では今まで助けて来た人々の笑顔が引っかかるばかりであった。

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