ギルドホール《スキル発覚》
「ふぅー、随分と暗くなったな」
ソフィアさんと家に帰った後にソフィアさんをお風呂に入れているうちに暗くなってしまった、
通常の欠損奴隷は腕1本や足1、多くてその両方だがソフィアさんは手足を全て失ってしまっているため日常生活すら一人でできない、売られていた時は事情を知っているあのスキンヘッドの店員にご飯などの世話をしてもらっていたそうだ
見かけによらずいい人もいるって本当なんだな〜
「エルフェ様…その、大変申し訳ないのですが服を着せて頂けないでしょうか」
「は!す、すみません僕としたことが!!!」
まずは下着…はぁ…これを仕入れるのは本当に骨が折れた、
そりゃそうだよな、男一人が女性物の下着を物色してるんだから
「あんた…何やってんの…?」
あぁ!看板娘のミーシャちゃんのゴミを見る目が思い出せる!!
「エルフェ様、関心を寄せるのも結構ですが…そうまじまじ見られると…その」
なんやかんだでなんとか着替えは終わったけど、キツイ!
いやさ?面倒とか思ってるわけじゃないよ?ただね?
向こうも女性だから健全な男の僕には色々ナニかある訳だ
最後なんてソフィアさん目を瞑りながら
「っ………ん……!」
ただシャツを着せただけなのにこの反応だからなぁ
「じゃあ晩御飯にしましょうか、作り置きのシチューで良いですか?」
「暖かい物ならなんでもありがたいです、ですがいいのですか?奴隷にそのように優しく接して…」
「…ソフィアさん、確かに僕はソフィアさんと奴隷契約を交わしましたが、僕はソフィアさんを奴隷なんて思ってないですよ?恩人で、今は家族ですよ」
「ですが…!」
「ならこれは命令です、今日からあなたは僕の家族になってください」
そう言って優しく微笑みかける
その笑顔には一切の曇りや翳りがない
エルフェ自体は特別容姿が良いわけではない、だが、その笑顔は一人の奴隷の心を照らし、温め、温もりで満たした
「っ……!はい…はい!!」
そう言うとソフィアは顔を下に向けた
己が主人…いや、家族に顔を見せまいために
その強く閉じた瞳からは金色の雫が垂れ、細い方は震えていた
自分はまだ…こんな顔で笑えたのか
忘れていたはずの感情が込み上げてくる
行く度も連鎖した絶望、悲しみ、憎悪…
それらを包み込み、断ち切ってくれる新たな感情…
今できる精一杯の笑顔を浮かべながら
「はい…エルフェ…!」
私は生まれ変わった、もう前のように剣は持てないし日常生活もエルフェ無しには出来ない…
でも、剣を持て、日常生活に難がなかった頃には得難かった感覚が心を満たしてくれる
栄光を捨て奴隷に落ちた今が、一番安心している
「じゃあシチューあっためてきますね!…あれ?今ソフィアさん僕の事名前で…!?」
この新しい日常が…ずっと続きますように
そう強く、強く願った
〜〜〜
「じゃあソフィアさん、昨日説明した通り、今日から迷宮に入って大丈夫ですか?」
「問題ない…私は光魔法でアシストしか出来ない…それでも…必要ですか?」
「勿論!!…というか、今の階層はソフィアさんがいないとクリアできないので」
「どこで詰まっているのでしょうか」
「スペクターの階層ですよ…光魔法が使える人がいないと厳しくて」
「まさか…その階層までソロで…?」
「?はい、そうですよ?僕人付き合いが苦手で…仲間ができにくいんですよね…あはは」
おかしい…普通の冒険者ならソロで潜れるのは精々2階層まで…その下になれば圧倒的に上がる数と強さに阻まれ、複数人でなければまともに戦えない筈
奴隷契約した時に見せていただいた冒険者カードに異常は無かった…
「あの、冒険者カードのステータス欄を最後に更新したのはいつですか…?」
「えっと…作ってから更新してなかったや」
テヘペロ♪
そんな表現が似合いすぎる
「はぁ…今日ギルドによって冒険者カードを更新しましょう」
「え?何か問題がありますか?」
「まぁ問題もありますが……異常です」
「!?」
「まぁとりあえずいきましょう」
エルフェはソフィアを背負うとソフィアの胴体とエルフェの胴体を強固な革紐で縛り、さらにその上から胴当てを当てがう
「じゃあ、行きますか!!」
ドアを開け、鍵を掛けるとギルドホールに向かい駆け出した
「ちょ、エルフェ…重く無いのですか!?」
「え?何がです?」
アーマーと、軽いとはいえ女性を一人背負って全力疾走して息も切れない…この人は一体?
「着きましたね、えーっと…カーミラさんの窓口は…あった、あそこだ、カーミラさーん!」
「この声はエルフェさん!……見損ないましたよ」
「え?」
「その背中に背負ってらっしゃるのは…奴隷とはいえ命を捨てさせる事前提で買うなど…最低ですっ!!」
「いやいやいや、誤解だから」
「え?」
「カーミラ殿、私は確かに奴隷ですがエルフェ様には大変良くしてもらっている…そのような事は無い、とおもう」
「…そうなんですか?」
そうだよ…そうだからジト目をやめてくれ
「で、そんなエルフェさんは今日は何をしに?」
「冒険者カードの更新をしに、そういや1回も更新してなかったなって」
「そうですか…ではこの石板の上にカードを置いて、その上に手を翳してください」
エルフェがカードを置き、その上にカードをかざす
小さい光が点滅し、最後に大きな光が瞬いた
「…!この光は!!アナザースキル!?」
「へ?」
「出ましたよエルフェさん!…孤高の暴君!?」
「なっ…!?」
え?なんだろう、ギルドホールがざわざわしてる、カーミラさーん?それにソフィアさーん?僕何かしたのかな
「おいおい…マジかよ」
「可哀想にな」
「えっとー…何故俺は皆から憐れまれているのでしょうか?」
「それはですね……孤高の暴君は確かに強いんです、ですが副作用で…」
「副作用?」
「パーティーが組めなくなるんです」
「はぁ!?」
「と、言っても奴隷はパーティーに含まれませんし、暴君も強いので問題は無いと思いますよ!」
「えっと…ざっくりと性能なんか教えて頂けませんか…?」
「それがですね…」
「エルフェ様、暴君のスキルは持つ者によって変わる、ただ変わらない事がひとつだけあります」
「変わらない事?」
「暴君は、副作用の他、その代償に“何か”を奪っていくのです、」
「何か?」
「はい…それは小物だったり、時には切った爪や髪、そして…命すらも」
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