女神の写絵
重厚感のある両開きの扉―。
ルーカスが前に出て扉に触れる。
それを合図としたのか、扉に一気に紋様が浮き出てくる。
何かが発動したのだろう。
ルーカスは服の中から自身の首に掛かっていた、細いチェーンを取り出した。チェーンには華奢な指輪が通っている。
サイズ的に女性の物だと思われるその指輪を、紋様の一部にはめ込む。
ギギギっと、勝手に扉が開いた。
大理石の床が広がり、豪華なシャンデリア。少ないインテリア…然程広くはない部屋だ。
その先に…
(―――これはっ…!?)
写絵と言っていたので、肖像画やそれに近い物を写した絵だと思っていた。
大きな額の中に、鏡?それとも硝子だろうか?
後ろからの光を通して輝いているそれに描かれている…
いや、これはまるで3D写真だ!
しかも、顔は私?でも、風貌は湖に写したあの時の私。
女神…?え…その女神の手には――
剣がしっかり握られている…?
(女神って普通剣使わないよね?)
恐る恐る正面まで行くと、なんとなく写絵の剣に触れた。
瞬間―――!
その額の中から眩い光が放たれた。
っ!飲み込まれるっ!
そして、部屋には静寂が広がった。
…………………………………………………
「…行ったのか。」
独り言かの呟きが聞こえた。
ルーカスが背後からの言葉に振り返る。
「…王…。」
片膝をつき胸に手を当て頭を垂れる。
「ルーカス…あの子は行ってしまったか。
口伝は本当だったんだねぇ。我が代にその時がやって来てしまうのか…。子供達は…、皆男の子だったから安心していたのだが…」
運命の流れには些細な事だったんだね、と。
優しい父の顔で悲しみを滲ませた。
ふーっと息を吐くと、威厳に満ちた王の顔に戻る。
有無を言わさない声で指示をだす。
「ルーカスよ、学園の湖に戻りシャルルを待て!」
「は!」と、返事をし走り去る。
マントを翻し、王の影の存在に向けて命令する。
―「教会の監視を強めよ。奴等も復活するであろう。」―
影の気配が消えた。
閉まった扉を暫く見つめ…
重い足取りでパーティー会場に向かった。