入寮
オンディーヌ学園は全寮制である。
王族は別棟で、侍女や側近の部屋も完備されている。
―入学式の前日―
小さな頃からついている侍女、メアリとマーサ。
側近で同学年のルーカス。ベテラン執事のトルソーを連れて入寮した。
魔力のある者は、上手く制御し効率よく使う為、学園で学ぶのだ。
ひと段落つき、ルーカスを連れ学園に隣接している林を散歩している時だった。
木々の間を気持ちの良い風が吹き、小さな湖が見えた。
(光る湖面…綺麗…!)
―その瞬間―
「「「…やっときたねぇ…まっていたよ…」」」
「「「……ウフフ…あはは…」」」
湖から輝く球体が幾つも飛び交い、こちらに向かって来た。
(怖っ!!!眩しい!!)
その光達は私の中へ入って来た。
恐怖が消え全身が温かくなり、重力が無くなったかのようにふわふわ柔らかい何かに包まれた。
眩しさが消え、怖々と目を開けた。
慌てて駆け寄って来た、ルーカスの驚愕に満ちた顔が目の前にあった。
え?何?なんかヤバイの?
「シャルル様!?…な、のか?」
肩からフサッと、見慣れたプラチナブロンドの髪が流れ落ちた。
え?確かボブ位の長さだったよね、髪。
超ロングになってるんですけどー!!
しかも、前世でちゃんとあった胸の膨らみがっ!
慌てて湖面に自分を映して確認する。
女…だっ!
しかも全身光ってる?
顔や服装は殆ど変化は無い。無いんだけど…今度は女性になっちゃったっっ!
油の切れたブリキのロボットの様に、ギギギっとルーカスへ振り返った。
そうだよねー、そんな顔になっちゃうよねー。
ハハ…渇いた笑いがでてしまった。
…………………………………………………
ルーカスは7歳の時に城へやってきた。
トルソーの流行り病で亡くなった妹の忘形見で、後見人となり引き取って育てる事にしたそうだ。
同い年の私の良き遊び相手になるだろうと、城に仕えることになった。
心優しいルーカスは、兄であり弟でもあり、誰よりも大切な、大切な友になった。
自分に厳しく、私には激甘な…ね。
そんなルーカスの驚愕の表情に、何とも言えない不安が募ってきた。
「ねえ、この姿って?何?」
思わず問うてしまう。
「………見た目はシャルル様…ですが。私には女性に見えています。そして…王城の最奥の間に飾られている女神様の写絵からでてきた様なお姿です。全身に七色の魔力が纏われています。」
「そうなのか…」
困った。
これでは明日の入学式に出られないではないか。
ルーカスは手を顎に当て何か考えているみたいだ。
そして…
「先日倒れられた時、何が有ったのか話して下さい。」
と、美しい顔でじっと見詰めてくる。
うっ!美形って、破壊力すごいな。
何だか全てを見透かされているようだ。
こういう場合、前世の記憶の事とか言っちゃっていいのかなぁ?何か変なルールとか有ったら…。言った途端に死んじゃうとか…。
でも、所詮ただのおばちゃんだった私の頭じゃ、こんなファンタジー的な世界についていけない。
覚悟を決めよう。
ルーカスを信じるっ!
―そして、私は前世の記憶を話していった―




