魔王
魔王は、視線を敵に戻しサッと手を翳す。反逆者と呼ばれたカミラに向かって、蒼黒の鎖が飛び出した。グルグル巻きにされたカミラはゴロンと床に転がる。
…一瞬の出来事だった。
そのままドンっ!と蒼黒の魔力の塊を魔物や死霊の上に落とし、消し飛ばす。
そして、門を抑え込んでいるこちらに向かい…ゆっくりと歩いてきた。
(………!)
背後から手を回し、一緒に剣を握らせる。
「シャルル、行くよ。」
耳元で囁いた。
次の瞬間、捕われたカミラの肉体から魔を司る者が離れ実態を見せ、勢いよく襲い掛かってくる。
―――――!
魔王の剣に二人の魔力を注ぎ、魔を司る者に向かい撃ち放つ。
絡み合う七色の光と蒼黒の魔力―!
―全てを飲み込んだ。―
「これで本当にさよならだ、神への反逆者…前魔王」
反逆者は塵となり、魔界への門が閉じた…。
(…全部思い出した…)
約700年前、魔界の前王は全ての世界を手に入れようと、女神を討ち人間界を恐怖と闇で支配しようとした。
創造者の神は怒り、新しい魔王を誕生させた。魔王は魔界を、女神は人間界を守るため、二人は出逢った。そしていつしか、恋に落ち愛し合った。
そして、神に反逆した前王を倒すため共に戦ったが、まだ二人は未熟だったのだ。完全には倒せず封印はできたが、魔王も致命傷を負った。反逆者として、いつか復活する為の呪いが残った事を知り、魔王自身の魂を魔剣に封じ長い眠りについた。
いずれ反逆者の封印が解かれる時、女神と共に戦う為に復活すると誓った。
女神は何度生まれ変わってもまた出逢えるよう、自分の光の魔力を魔王の蒼黒の魔力で染めたのだ。
だから、女神は生まれ変わっても湖のような水色の魔力を持つ。
魔王は女神を見つけるため、魔力の流れを視る力を継承する。
そんな目印の魔法をかけた。
――魔王。
嘗て、女神が愛した魔王…。
女神としての記憶にある、大切な人。女神が心の奥底から求めている唯一の魔王…。
魔王は心底嬉しそうに…私を見る。
「永い時を経て、やっとまた逢えた。」
深い闇の色の瞳で見つめ、自分の首にかかっていたチェーンから指輪を取り外す。
そして、私の左手を取り薬指にはめた。
わかっている。
――わかっているけど――!
(今の女神の中身が…私…おばちゃんなんです…。記憶はあるのに、感情がついて行けてない…。ああぁぁ、どうしよう…。)




