予定変更
ミランダの日記を読み、ルーカスをあの教会へ近付けてはいけない気がした…。
時間も余り無くなってきたので、今回は学園へ戻る事にする。
森を出て、もと来た道を馬車で帰る。
ルーカスは申し訳なさそうにしたが、ミランダの日記のおかげで調べなければいけない人物がはっきりした。
ベルゼ・グレイ男爵…ミアの父親。
そして、ミア・グレイ本人も…。
日記の通りなら、時系列が少々おかしいのだ。
事柄を頭の中で整理していく…。
ミランダとベルゼは婚約していた。
その時点で、ベルゼに子供はいないはず。妹想いのトルソーが妹の婚約者について身辺は洗っているはずだから。
ルーカスはその時、0〜1歳で今15歳。
ミランダとベルゼの婚約破棄はミランダが行方不明になった1年後。その時点でルーカスは1〜2歳。
ベルゼが婚約破棄後に結婚し、子供が出来たとしても早くて0歳。
婚約破棄前に子を作る事はないはずだ。
ミランダが見つかった場合、その状況は宜しくない。
トルソーだって、失踪の件でベルゼを怪しんでかも知れない。きっと監視していただろう。
では、ここで問題だ。
なぜ、ミア・グレイは15歳なのか?
(本当にベルゼの娘なのだろうか?)
「……様。シャルル様?」
あ、呼ばれている?
ハッと顔をあげると、ルーカスに心配そうに私の顔を窺う。
「ちょっと、考え事していたの。」
「…日記の事でしょうか?」
複雑な表情を見せた。
ルーカスに嘘は意味を成さない。考えていた事をそのまま伝える。
「まずは伯父、トルソーに確認致しましょう。」
それから…と、顎に手を置いたままルーカスは考える。
「あの教会に、何か有るのかが気になりますね。私はグレイ男爵を調べます―。」
私に向かった視線に、涙に濡らした迷いの眼はもう無い。
何かを決め突き進もうとする、強い意志が瞳に宿っていた。
(漢らしくなったね…。)
思わず微笑んでしまった。
………………………………………
寮の部屋に着くと、侍女達に驚かれてしまった。
そういえば…鬱蒼とした森を歩き、あの廃屋の中に暫く居たのだから。二人とも埃まみれだった。
早々に湯浴みをさせられ、素の姿に戻った。もちろん、湯浴み前に男に戻ったが。
濡れた短い髪のままガウンを着て、刺繍の施された豪奢なソファーにゆったり腰を下ろす。王宮から運び込んだ物だ。
自室からやって来たルーカスが、私を見た途端に目を逸らした。
「……。」
はて?どうしたのだろう?
後ろから執事トルソーと、侍女達が紅茶を準備して入ってきた。




