ミランダの日記
―それはルーカスの母ミランダの日記だった―
ミランダはトルソーの妹で、明るく元気な娘だった。小さい頃から家族が大好きで、家族と離れたくなくて魔力が視れる能力を隠し続けていた。
詳しくは知らないが、その力があると王宮へ連れて行かれると噂で聞いたそうだ。
15年前、ミランダはこの地方にしかない珍しいフルーツを採りに来ていた。
婚約者であるベルゼ・グレイ男爵に教えて貰ったのだ。
魅力的なベルゼに喜んでもらいたくて、結婚式でのサプライズにと…。
夢中で採っていたら、急に雲行きが怪しくなり嵐になった。
真っ暗になり雷も鳴り出して、慌てて近くの教会に入った。
入ってしまってから気がついた。
其処には怪しげな数人の人影があった。纏っている魔力の感じから、不安が込み上げる。
その禍々しさから、頭の中で警鐘が鳴った。
逃げようとした瞬間に、稲妻が光り一人の男の顔が見えた。
それは、自分がよく知っている…将来を誓ったはずの相手。ベルゼが不気味な笑みを浮かべていた。
息を殺し身動き出来ずにいると、誰かが入ってきて男達は慌ただしく動きだした。
何か話しているが、聞き取れない。
「王……色の……が………産まれ…と!?」
王家に何かあったのだろうか?
ベルゼ達は一人を残して立ち去った。残された男は何かを見張っている様だ。目を凝らすと、十字架の下に魔法陣が描かれている。その中央には身動きしない赤ん坊が―――!
あれは、生贄…!?
ゾワリと背筋が寒くなる。
『……助けないと!』ただ、それだけだった。
自分の魔力を放ち男に体当たりして赤ん坊を連れ去った…。
男によって射たれた魔力で背中に傷を負うが、兎に角必死で走った。森の中を無我夢中で走り続け、この納屋に辿り着いた。
どうにか、追っ手は撒けた。
赤ん坊の様子も息もあり大丈夫そうだ。ミランダは背中の痛みに耐えながら考える。あの集団の中に、ベルゼが居た。このまま家に戻ったら、私も赤ん坊も殺される…。
もう、戻れない…。
ここでこの子と暮らそう――ミランダは決意した。
そして、赤ん坊をルーカスと名付け、数年間この納屋で親子として暮らした。
ルーカスは、不思議な事に自分と魔力の波長が合った。つまり、魔力の流れが視れる者だったのだ。それも、ミランダより強力な…。
背中に負った傷により、自分の命が長くないと悟ったミランダは意を決して、誰よりも信頼していた兄トルソーにルーカスを託す事にした。
王家に仕えられれば、グレイ男爵家でも手を出せないはずだから。
念のため、ルーカスに自分の最後の魔力を流し込みミランダの魔力の色に染めて、本来の魔力を隠した。
そうして、二人はこの納屋を出る。
【息子にはきっと出生の秘密があるのだろう。この手記をルーカスと共に埋めよう。いつか大切な我が子の助けになるように。】
―最後にそう記されていた。―




