森の中
目的の場所までは、馬車での移動になる。
王族御用達ではない、商人や金持ちの平民でも使える質素な馬車だ。
乗り心地が良くないのは当たり前。
(車酔いならぬ、馬車酔いしそう……うっぷ…。)
農村近くまで行ったら徒歩にする。それ迄我慢だ!
こんな状況ではデートどころではなく、会話すら儘ならないない。
だいぶ遠くまで来た―――
ふと見ると、窓からの風景を見ていたルーカスの表情が、強張っている様に見える。
視線の先には森?
「…………!?」
突然、眼を見開き馬車を止めて外へ飛び出した!
(何ごと!?)
慌てて後を追う。
「此処はっ…!」
「どうしたのっ!?」
動揺しているルーカスに尋ねる。
「この森…憶えているのです――――!」
「え?」
「たぶん…私はこの森の奥で暮らして居ました…母と…」
消え入りそうな声だった…。
ルーカスの様子が気になり、そこへ行ってみる事を提案した。
自分の為に予定を変更する事に躊躇したルーカスだったが、何故だかそこへ行かなければいけない気がした。
―森の中へと入っていく。
やはりルーカスには道が分かるらしい。
迷わず細い道をどんどんと奥へ進む。だいぶ行った所で急に道が開けた。
「…ここ…です。」
その先には…ボロボロの、家とは言えない納屋のような廃墟があった。
だいぶ年数が経っている筈だが、それにしても酷い惨状だ。
本当にこんな所で暮らして居たのだろうか?
ルーカスは徐に、中に入らず納屋の裏へ向かう。
目的の場所でもあったかの様に、唐突にしゃがみ込み両手を地面につける。
小さな魔法陣が現れ、そこにポッカリと穴が空いた。
……………!
その穴の中にはブリキの箱があった。
(もしや、タイムカプセル?)
箱を取り出し、中を開けると文字の書かれた紙が綴られた、ノートの様な物が入っていた。
その紙の綴を読んだルーカスは、
「これは……。日記ですね。」
と、呟いた。
空模様が怪しくなってきたので、薄暗い納屋の中で読む事にした。




