プロローグという名の終わり 表
塩漬です。よろしくお願いします!
高校生活はダイ・オア・サバイブ。
「どうもこんにちは。ゲームにラノベ、アニメが大好きなオタク、如月翔。15歳童貞です」
と、誰に言っているのかもわからない自己紹介を呟き、そしてその事実に軽く絶望して蹲る。
この行為に対して適当な理由をこじつけるならば、まずは誰に対するものかというのは正しく俺自身、如月翔に対してだ。そして、何のためにというのは——自分を見失わないように? というところだろう。
まあ、今回は自分を見失ったほうがいいのかもしれない、とも思っている。
自分の中に生じているその矛盾に苦笑いすら出ないが、頑張ってやる気を出して、定時までには学校に行かねばならない。それが、現代の学生というものだった。
つい数年前までは何とも思わなかったのに最近やけに重たく感じる玄関扉を開けて、春の日差しが眩しい外の世界へと歩き出す。今日は清々しいほどの快晴だった。
いつまでも鬱々とはしていられない。この作戦が成功するかどうかで、今後の俺の高校生活が決まる。
入学式から一週間の時が経った今日。「俺も高校生になったわけだし、いっちょここらで女子とフラグを立てるべきだ」などという浅ましい考えの元、『遅刻組十字路衝突事故フラグ作戦(俺命名)』を決行する。今度こそ、青春を謳歌するために!
そして、今回の戦場である十字路に辿り着いた。
俺のリサーチによれば、色々な通学路の中でこの道は学校まで最短かつ人通りが少ない。しかし、この十字路から先は、人がよく通る道と合流しており、遅刻者たちを狩りやすいのだ。
車は滅多に走っていない。
誰も通らなければ明日でいい。
男とぶつかればそれは仕方ないだろう。
女子とぶつかれば、ましてや美少女だったならば、そこからはバラ色の高校生活を送ることができる! ……ハズ!
「……覚悟を決めろ、俺。以前までの翔を捨てるんだろう? 俺だって人だ。変わろうと思えばいくらでも変われるはずなんだ……! さあ、行くぞ!」
俺は人生で最大の覚悟を決め、クラウチングスタートの姿勢から、十字路に向けて猛然と突っ込む。ブレーキなど初めから付いていない暴走列車は、右手の方の通りから現れた影と、物の見事に衝突した。
衝撃で両方とも飛び、俺はケツを強打した。
「っつぅ〜〜!」
「いてててて……」
正面を見ると、うつ伏せの状態から起き上がろうとしている女の子が見えた。おまけに結構かわいい。
天に運を任せた結果、女の子にぶつかる事は出来たわけだ。素直に嬉しかった。現実にもテンプレはあるんやなって、救われた気分だった。
――しかし。
「だ、大丈――」
「ってぇなあ、オイ」
「……へ?」
そんな、ドスの効いた女の声が聞こえた。
想像以上の衝撃を受けた俺は、尻餅をついたまま見上げることしかできなかった。
スカートの下にスパッツを履き、制服の上から龍の刺繍が入ったパーカーを着ており、そして何故か鉄パイプを握っている黒髪ロングの美少女。
彼女から溢れ出るオーラに、俺の本能が警鐘を鳴らしている。
その時にハッと気付いた。
この女、見たことがある。クラスは違えど、たった一週間で学校では知らぬ者なしと言われるほどにまで有名になった高校一年生。
どうやら、三輪車に乗った俺は戦車と交通事故を起こしたらしい。
やっぱり、現実は非情だった。隣に幼馴染が住んでいないように、テンプレなんてやっぱり存在しなかったのだ。
「あ゛あ゛ん? 誰だお前?」
「ヒィッ!? 番長……!?」
「おい、どうしてくれるんだ……顔が汚れたじゃねぇかよ……」
前任の番長をたった一週間で倒し、この地域の番長になったスケ番、姫柳さんだった。
(あ、終わった)
高校生活どころではなく、人生終了のお知らせだった。
そんな、プロローグと言うよりエンディングと言った方が正しいような気がしないでもない出逢いを経て、黒髪ヤンキーと俺の高校生活が始まったのだった。
——華々しい俺の青春はどこ!? どうしてこんなに血生臭いんですか!?