ともだち
ファルシを森の外へと連れて行く事を決めた私達でしたが、それを見たシルフがお礼にと力を貸してくれました。
とりあえず、ファルシがこの、原住民ルックのままで居るのはアレなので女物ですが、私の服を着せようとした所で驚愕の事実が発覚しました。
なんと、ファルシは 女 の 子 だったのです。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!ファルシ、あ、あ、あなた今までずっと上半身裸だったんですか!?」
「・・・・・・?」
「・・・フーッ。洋服とは無縁の動物に育てられたんですもんね。腰ミノだけでも上等ですよ」
しかし、ここで私達が保護せず育っていたらと思うと恐ろしいです。
一旦ファルシを女の子だと認識すると、なるほど私のワンピースを着せたらちゃんと女の子に見えますね。
「まぁぁぁ!!可愛いじゃない!まさか女の子だったなんてね」
「洋服・・・。初めて着た・・・」
「初めて!?・・・という事はファルシは物心着く前に森に・・・っ!おーいおいおいおい」
ファルシは嬉しそうにくるくる回ってワンピースの裾をヒラヒラとさせています。うう、本当に泣けてきますね。
「さー、ファルシ。行こうか?」
アミュールさんがファルシと手を繋ぎました。
「ちょっと待って。・・・母ちゃんにお別れする・・・」
「そうだね。それはとっても大事だね!」
「うん!」
「私もファルシのお母さんに挨拶したいな」
「いいよ!こっち!」
アミュールさんの手を引いてファルシが湖の方へと向かいました。
ファルシの後を着いていった先は、薄暗く人目を避けるような目立たない場所でした。私の頭に「景観保護法」がよぎりました。
ひっそりと詰まれた小さな石・・・。唯一の家族が無くなっても先ほどの法律があった為、堂々とお墓を立てる事が出来なかったのでしょう。
「母ちゃん、オレ、この人たちと一緒に森を出て行くよ。そして、友達作って家族になってもらうよ。ちょっぴり怖いけど、大丈夫だよ。オレ、母ちゃんのこどもだから!母ちゃん・・・また来るからね!」
ファルシがポロポロ涙をこぼしながらお母さんに挨拶をしています。・・・うぉぉぉぉ!!もらい泣きしそうです!ヤバイです!
「森の・・・皆はオレが居なくなったら安心するかな・・・。邪魔者が居なくなって安心するかな・・・」
“そんな事ないですよ”
「え・・・?」
いつの間にか動物達が私達を囲んでいました。その中心にロバギルが誇らしげに立っています。やりましたね!
“ファルシ・・・私達があなたに森を出た方がいいと言ったのは決してあなたが邪魔だからではありません”
「う・・・嘘だ!!」
“あなたは今みたいに私達の話を最後まで聞いてくれませんでしたから誤解がずっと解けないままでした”
大きな角が生えたシカが喋っています。あれ・・・私にも聞こえますね。もしかしたら風の子になった時に動物の声スキルが付与されたのかもしれません。
“ちゃんと最後まで聞いてください。私達があなたをどう思っているのかを”
小鳥はファルシの頭や肩に乗り、ウサギやシカや猿など色んな動物がファルシの近くに寄り添いました。
“私達があなたに人間に戻りなさいと言ったのは、あなたを大切に思っているからです。ノーラが死んだ時にあなたはノーラのお墓を作りました。しかし、私達は動物なのですから、お墓などつくりません。あなたの心には人間らしさがあるのです。それはとてもいい事です。ですが、そういう我々と人間の違いの積み重ねであなたは成長するにつれて次第に私達とはわかりあえないと、孤立していくでしょう。私達はあなたが大好きです。大切に思っています。でもあなたが死んでも私達はあなたのお墓をつくりません。動物は動物、人間には人間のそれぞれの居場所があるのです。私達は家族ではなくて友達です。外の世界に出て同じ人間の家族を作ってください”
「皆、オレが邪魔じゃない?嫌いじゃないって事?」
“大好きですよ、ファルシ。だから家族が出来たら、家族を連れて遊びに来てください”
「オレ、オレも皆が大好きだよ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
“ほら、ファルシは泣き虫だ”“ファルシ、元気でね”“ファルシ”“ファルシ”“ファルシ大好き”
森の動物達がそれぞれファルシに語りかけます。ファルシ、良かったですねぇ・・・。
「さすがアニキッスね!こうなる事がわかってたんスか?」
「いえ、お母さん亡き後も、こうして森の動物達がファルシをここまで育ててきたのですから、嫌っているはずが無いと思いまして。何事も片方の言葉だけを鵜呑みにするのは良くないですからね」
「でも、お師匠様が森の動物にリサーチしてこいなんて言うのは先見の明があったからですよね!“本当に邪魔者にしているのならすぐ戻って来い、そうじゃないならファルシのお見送りに来てもらいなさい”って。憧れるな~」
「ちょ、ちょっと!黙ってください!それは内緒だって言ったじゃないですか!!」
「リリー・・・。アンタいい所もちゃんとあったのね・・・」
「どういう意味ですか!?」
「リリーシュカは世界一いい女なのだー!!ふふん、そんな世界一のいい女は私が世界一愛している私の奥さんなのだ♪」
「ソフィアス様も訳のわからない事言ってないで、小鳥ちゃんと今の内に餌探しをしてきてください!」
少し離れた場所でアミュールさんとリジットさんがこちらの様子を見ていました。
「リジット・・・。リリーシュカちゃんならきっと変えてくれるんじゃない?」
「あぁ・・・。そうかもしれないな」
「ようやく、信用出来る人に会えた気がするよ」
「あぁ・・・」
何か話しているようですが、兄弟同士、込み入った話もあるでしょう。
私達は暫くファルシと動物達の別れを見守っていました。
今回もお読みくださり、ありがとうございました(^^)