決死のダイヴ
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
山間に響き渡る悲鳴は、下り坂になっている山道を猛スピードで走り抜ける荷車からお送りしています!
「誰よぉぉぉぉっぉぉぉぉぉ!!!荷車で坂道下った方が速いって言ったのぉぉぉぉぉ!!」
「ジェシーだって、それ名案ねって言ったじゃないですかぁぁぁぁ!!」
だって、天界ランドからこちらの世界に来る時に乗ったジェットコースターはあんまり怖くはなかったんですもん!!
余りのスピードの速さと一歩間違ったら大事故というスリルに、一同困惑の色を隠しもしません。
山荘を出る時に見つけてしまった荷車。そうだ、これに乗って降りれば誰も疲れないし速いんじゃね?私1回荷車乗ったことあるし!とか思ってしまった訳で。今思えば誰一人止める人が居なかったあたり、皆大バカやろうですよ。これは私だけのせいじゃなくて立派な 共 同 責 任 ですよ!!!
ふと、後ろを振り返ると、ロバートが荷車の端を掴んで浮いた状態になっており、今にも後ろに飛ばされそうになっていました。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!ロバーーーーートーーーーーーーぉぉぉ!!!」
私は必死でロバートの腕?を掴みました。ロバートも力を振り絞ってもう一本の腕で私の腕を掴みました。
・・・抜けたりしないかな?これ。
「アニキっ!アッシはこの手を死んでも離しませんからっ!!!」
気付いたらロバートの腕だけが残ってたって事になったらやだなぁぁ。
「ちょっ!!!リリーッ!!!前っ!前!ブレーキ!!!それかハンドルきって!!!」
「そんなもん無いですよ!ってぎゃぁぁぁぁ!!!」
目の前は崖です。荷車は所詮何の変哲もない、只の荷車です。ハンドルも無ければブレーキも無いです。
あれ?しくじりました。下まで一直線だと思っていたのですが、途中から凄いカーブがあるじゃないですか!
「あ、アレです!向心力で曲がるです!皆、内側に体重かけて!」
「ひぃぃ、こ、こう?」
「そ、外側に引っ張られるのだ!」
「アニキっ!アッシはどうとも出来ないですっ!」
全員でなんとか内側に体重を移動させると、外側の車輪が浮いた状態になりました。
荷車は徐々にカーブをしていきます。ところが、皆の全体重が片輪だけじゃ支えきれなかったみたいでガガガッと音を立てて外れてしまいました。うぉぉ・・・っ!すごい衝撃です。
そして遠心力で皆外側に・・・つまり崖側に飛ばされてしまいました。
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」
中を舞う荷車と私達。南無三!!!!!
「オールバリアー!!オールバリアー!!オールバリアーーー!!!」
私は夢中で呪文を叫びました。皆、あの世で会いましょう・・・。あぁ。でも私だけは助かってしまいますね・・・。
これは・・・意識を手放した方が怖くないかもですかね・・・なんて思っていたらふいに腕をぐいっと引っ張られました。
「リリーシュカッ!」
「ソフィアス・・・様?」
ソフィアス様が私を腕の中へと引き寄せました。
「え?危ないですよ!?」
「いいのだ。リリーシュカは私が守るのだ!!」
ぎゅっと私を包み込むように抱いて衝撃に備えようとしています。
「あ、あぶないですよ!!」
「いいから。大丈夫なのだ」
「でも!」
「いいから!!!黙って私に格好つけさせてくれ!!」
「っ!?」
ビッ・・・クリしました。ソフィアス様が怒鳴るなんて・・・。
「リリーシュカ、少し衝撃があるかもしれないから、しっかり捕まってるのだ」
地面がすぐそこまで迫っています。岩肌がゴツゴツしているので、落下ダメージは相当なものだと推測されます。
皆・・・無事で居て!!
「オールッバリアァァァァァァァァ!!!」
私は渾身の力を込めて、呪文を唱えました。すると、何ていう事でしょう!私から広範囲に渡って水色の光が眩しい光を放っています。今までに無いくらい光っています。
バスッ!!
身体に鈍い衝撃が走りました。落下の衝撃でしょうか?
私のすぐ下にソフィアス様が居ます。本当に私を庇ってくれました。
ソフィアス様は目を瞑ったままピクリともしません。
「ソフィアス・・・様?」
「・・・・・・」
返事がありません。
「ソフィアス様ぁっ!死んじゃ駄目ですっ!!」
私はソフィアス様に向かって叫びました。大変です・・・。
「ん・・・。リリー・・・シュカ?」
「ソフィアス様っ!どこか痛いとこ無いですか?」
ソフィアス様はムクリと起きて、自分の身体をさわさわと触って確認しました。
「どこも、痛くない・・・のだ!!」
「本当ですか!?良かった!ジェシーとロバートは!?」
「ここよぉ〜!」
向こうの方からジェシーが手を振りながら走ってきました。見た感じどこも怪我などしていない様です。
「ロバートは!?」
何気にロバートの腕を握り締めていた方の手を見ると、ロバートの腕だけがプランプランとぶら下がっていました。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!こ、こっ、これっ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!腕抜けてる!!」
「ひぃぃぃぃ!怖いのだっ!」
「ろ、ロバートはどこに・・・」
辺りを見回すと、少し小高い岩の上にロバートが倒れています。
「ロバートぉぉぉ!!」
私は必死に叫びました。
「う・・・うぅ・・・」
ムクリと立ち上がったロバートが、こちらに気付いてピョイッと飛び降りてきました。
「おーい、アニキ~!助かりましたね!」
「いや、ロバート、腕が・・・痛くないんですか?」
「え?あぁ~!抜けちゃいましたか!これね、また生えてくるんで大丈夫ですよ!我々タマタンには痛覚はありませんので!」
「え?生え・・・?これ・・・は?」
私は抜けた腕を見せました。
「これは、スープの出汁に使えるのでとっておいてください!」
「ひぇっ!!嫌です!」
まさか、さっきのキノコスープはこいつの出汁だったのでしょうか・・・。
そうモヤモヤと考えている内にいつの間にかロバートの抜けた方の腕が生えていました。早っ!!
「いやでも、皆さん無事で本当に良かったです!・・・私、もう二度と荷車には乗りません!!」
「そうね」「その方がいいのだ」「アニキ・・・無茶しますよね」
バラバラになった無残な荷車の残骸を見て、一同ほっと溜息をつきました。
「しかし、リリーシュカの魔法はどんどん威力上がってない?さっきすんごい光ってたじゃない」
「熟練度とかあるんですかね?やっぱり」
「あっ、ねぇ、サラマッティの街ってすぐそこに見えるとこじゃない?」
「え、ああ、そうかもしれませんね」
ジェシーの眺めている方向を見ると、確かにカジノとかかれた派手な建物が建っている街がありました。
その街はカジノがあるせいか、観光色の強そうな派手な町並みでした。その中でも一際目立っている建物がカジノです。
「ほ、ほらぁ。近道出来たじゃないですか!」
「・・・アンタの辞書には反省と懲りるって文字はないの!?」
ジェシーが呆れた感じでこちらを見て溜息混じりに言いました。
何はともあれ、怪我の功名です。滅茶苦茶予定時間よりも早くつきましたからね。
今回もお読みくださり、ありがとうございました(^^)