憧れの馬車移動
「それじゃ、気をつけて行って来るんだよ!いつでも戻って来なよ!」
「はい!お世話になりました!行ってきます!」
「あ、ちょい待ち!これ持ってきな」
「これは・・・わぁ!サンドウィッチだ!」
「お腹空いたら食べなね」
「ありがとうございます!では、改めて行ってきます!」
「行ってらっしゃい。いい旅になります様に」
朝が来て、私はサリエラさんに見送られながら宿屋を後にしました。最初は国家権力を使って無理やり後払いに持ち込んでしまいましたがこの宿屋を選んで本当に良かったです。
紙袋に入った卵とレタスとハムが挟んであるサリエラさんの愛情たっぷりのサンドウィッチ、後でゆっくり味わって食べましょう。アイテムボックスに入れたら、“大切な物カテゴリー”に入ったのがまた、泣けました。
お向かいの宿でも何やら別れを惜しむやり取りがなされていましたが、せっかくの良い一日のスタートなのに余計なものを見せられて朝から嫌な気分になりたくないのでジェシーと待ち合わせしている冒険者ギルドに急ぐ事にしました。
・・・チラッと視界に入りましたがソフィアス様、5人の黒子に囲まれて別れを惜しまれていました。・・・黒い人、5人、居ました。大事な労力をこんな小娘の監視に使わせてしまってすいませんでした。
「もう分かったから離すのだ!大丈夫なのだ!一人で出来るのだ!リリーシュカが行ってしまうではないか!!」
「ソフィアス様、忘れ物は・・・消毒液と絆創膏と・・・」
「リリーシュカが居るから要らないのだ!」
「ソフィアス様はお腹が弱いから・・・」
「リリーシュカが居るから大丈夫なのだー」
「ご家族と離れてお寂しゅう・・・」
「リリーシュカとリリーちゃんと、ついでにジェシーが居るから寂しくないのだー!!あぁ、もうっ!じゃあな!行くからな!!」
「「「「「行ってらっしゃいませ〜(泣)」」」」」
「リリーシュカァァァァ!!待ってなのだぁぁぁ!!」
そんなやりとりがあった頃私はゾワリと全身に鳥肌が立ち、ソフィアス様が息を切らせてギルドに来るまでずっとカタカタと悪寒が止まりませんでした。
「坊やも来たことだし、早速行きましょうか。ここから山道まで馬車移動になるわね」
「馬車!?うわー!うわー!!憧れの・・・馬車!」
「ふふ、はしゃいじゃって。まーアタシも馬車に乗るのは初めてだけど」
「荷車には乗った事ありますけどね(遠い目)」
「馬車にもアタリハズレがあるのだ」
「「えっ?」」
「・・・で、アタシ達は“ハズレ”のやつに乗ってしまった訳ね・・・ヴォェェッ」
「うぅ、ぎぼぢわるぃぃ・・・」
「二人とも大丈夫か?」
私とジェシーはガタゴト揺れまくる馬車に酔ってしまい完全にグロッキー状態です。日常生活における状態異常はバリアしてくれないんですかね・・・うっぷ。
ソフィアス様は平気な様で、ケロリとしています。なんかこの人って痛覚とかそういう感覚が一切ないんじゃないかなって気がします。
「うっ!もうダメ・・・オェェェエエッ」
「ちょっと!リリー!つられちゃうじゃ・・・エロエロエロッ」
「うわぁ!吐いてるリリーシュカも可愛いのだ」
最早ソフィアス様の言葉にツッコむ元気もありません。
序盤の方でキュアなるものを唱えてみた所、酔いや吐き気は治まりましたが、結局馬車から降りない限りはすぐまた酔うのでキリがありません。
ジェシーとともに胃の中をすっかり軽くしてぐったりと窓の外を眺める事にしました。
「はぁー・・・。出だしから散々ね」
「馬車から降りたらソッコーでヒールかけるからそれまで頑張ってください」
「後30分くらいなのだ」
「「・・・・・・・・・・・・(まだそんなに乗るの?)」」
遠くに見える山を見て、私とジェシーはげんなりするのでした。
憧れていた馬車。某RPGで乗りまくってましたが、ひょっとしたら馬車酔いしてるキャラが居たかもしれませんね。
外を見ていると、私のパスポートに刻まれた王国の刻印と同じ物が刻まれた立派な馬車が反対側からやってきました。
「ソフィアス様、あれって王家の馬車なんですか?」
「どれー?あっ!あの旗の色はニーヴェンなのだ」
馬車の正面に掲げられている旗の色は水色。ニーヴェンって確か末っ子王子様だったよね?
「おーい!ニーヴェン〜!!」
「ちょっ!ソフィアス様恥ずかしいですよ」
仮にも一国の王子があんな立派な馬車の人をこんなみすぼらしい馬車から呼ぶなんて。
王家の馬車は、私達の馬車のすぐ脇に止まりました。あーぁ。止めちゃったよこの人。
「兄様?兄様の声がしましたが・・・」
「ニーヴェン、私なのだ〜!」
ソフィアス様はみすぼらしい馬車から降りて、王家の馬車に駆け寄りました。
とりあえず、止まってしまったものは仕方がないので、一応私とジェシーにキュア+ヒールをかけておきましょう。
馬車から降りてきたのはまだ幼い、小学生低学年くらいの男の子でした。
えっ?ニーヴェン様ってこんなにちっちゃい子だったの?次期国王の素質があるって言ってなかったっけ?
「やっぱり兄様でしたか。兄様はどこかへ向かわれる途中ですか?」
「そうなのだ!リリーシュカと、ジェシーと一緒にサラマッティに向かっている途中なのだ」
「そうでしたか。こちらがリリーシュカお姉様ですね?初めまして。ソフィアス兄様の弟のニーヴェンと申します」
小さな王子様は、とても立派な口調で話し、優雅にペコリとお辞儀をしました。
今回も読んでくださり、ありがとうございました(^^)