旅立ちのバラッド
「ちょっと、リリー!耳寄りな情報が入ったわよ!」
お馴染みギルドの酒場スペースのテーブルにて。鼻の穴を広げて興奮気味なジェシーが、顔を寄せてきました。うぅ、慣れたとはいえ少しキツイです。
「耳寄り情報、とは?」
「なんと、アンタとアタシの設定したキャラに似た人を見かけたって人が居たのよ」
「えっ!!!ど、どこどこ!?どこですっ!?」
「ぐっ!」
私は思わずガタッと音を立てて立ち上がりました。すぐ後ろに立っていたらしいソフィアス様に椅子がぶち当たったようですが気にしません!
「それが、この街から少し離れたとこの山を越えた先にあるサラマッティって名前の街にあるカジノで見かけたらしいの」
「カジノですかぁ!私行ったことないです!憧れです〜」
私は再び着席しました。ソフィアス様は懲りずに私の後ろに立っています。座ったらいいのに。
「行った事あったら大問題よ。必要な物を準備して明日にでもこの街を出ましょうよ。山を越えないといけないから、数日かかっちゃうもの」
「まぁ、私一人でしたら半日位で行けちゃいそうですけど、初めての遠征なのにマッハダッシュで移動なんて邪道ですよ!私一度宿屋に向かって荷物をまとめて来ます」
「リリーシュカ、私も手伝うのだ!」
「要りませんよ。私はいいのでご自分の準備をなさってください」
「私はいつでも二人で暮らせる様に準備は万端なのだ!」
「もう、いい加減キモいですよ?」
「笑顔で毒を吐くリリーシュカ・・・堪らないのだっ」
「ていうか、ソフィアス様いつもどこで寝てるんですか?」
「私はリリーシュカが泊まっている宿の向いの宿でリリーシュカを見て・・・ゲフン。寝ているのだ」
「ひぇっ!今迄外からこちらの様子を伺ってる黒子と、向いの宿の部屋の中からと二重監視体制でした!!ここずっと寝付きが悪いと思っていたら・・・」
次の街ではお向かいに建物が無い所に泊まろう。
「っていうか、黒子の人ちゃんと寝てます?ずーーーっと近くに居ますけど。有給とか無いんですか?」
「大丈夫なのだ。三交代制なのだ!」
「一人じゃないんですか!?もう、皆かわいそうですよ!通常のお仕事させてあげてください!元はお城の騎士様かなんかなんでしょう?私年上の癖に自立出来てない人とはお付き合いすら考えられないんですけど」
「わ、わかったのだ!私は自立した立派な大人になるのだ!!」
「ちょっとリリー、坊や今迄一人で生活した事無いんじゃないの?」
「そもそもの、パーティーに入る時の条件ですからね。嫌ならついてこなければいいんですよ」
「ドライすぎない?カラッカラになってるわよ。とか言って坊やが本当についてこなくなったら寂しいんじゃない?」
ジェシーが私の方をポンと叩きました。が、力が強いのでガクンって肩が外れそうになりました。
「ひぃっ!」
「あっごめん!リリー」
ソフィアス様がついてこなくたってジェシーのこの怪力さえあれば大丈夫ですよ。寂しくなんて、ありません。
寂しくなんて・・・ありませんから。
宿に戻って、サリエラさんに明日旅立つ旨を伝えて今夜分の宿代を払いました。
「そっか。明日行っちまうのかい。最初の印象は明日にでも死にそうな感じだったけど、ちゃんと仲間も見っけて逞しくなったもんだよ」
「サリエラさん・・・よかったです。そんな辛気臭い印象を払拭出来て」
「ま、落ち着いたらまた戻ってくるんだろ?王子に気に入られてるみたいだし」
「そうですね。私、サリエラさんの事をお母さんみたいに思ってるので」
「やだよぉ。嬉しい事言ってくれちゃって。よぉし、今夜の晩御飯は特別メニューにしてあげる」
「やった!ありがとう!サリエラさん。じゃぁ、私荷物をまとめてきます」
「あいよ。忘れ物するんじゃないよ」
サリエラさんは私にヒラヒラと手を振ってキッチンへ入っていきました。
さてと。荷物をまとめると言っても元々私物はあまり無いですからアイテムボックスに入れたら終わりなんですけどね。
転生してから2週間ちょい。この部屋にはお世話になりました。
何気なく私は感傷に浸り、窓から見える景色を焼き付けようとカーテンを開けましたが向いの宿の真ん前の部屋からソフィアス様が満面の笑みでこちらに向かって手を振っているのが見えたので、そっとカーテンを閉めました。
あっぶなー!すっかり忘れてました。あの人本当に私の部屋の前の部屋借りてたんですね。
晩御飯はサリエラさんの宣言通り、サリエラさん特製のミートローフとラザニアとローストチキンの乗ったサラダとアップルパイのアイス乗せでした。今まで夕食に出てきたものの中で、私が特に美味しいって言ったものばかりです。サリエラさん、覚えててくれたんですね!
「おっ、おいひぃぃぃ!むぐむぐ、はふはふ!あちち・・・」
「リリーのこのハムスター食いも見納めねぇ。アタシ明日早出だからこれでお別れね。はい、餞別」
「これは・・・リンダさんのとお揃いのバレッタ!」
「そう。アタシのと色違い。髪が伸びたら使って」
「あ、ありがとうございます」
「おっ、じゃぁ、俺もこれやるよ。元気でな!」
「じゃぁ俺も」「私も」
宿に泊まってるみなさんがそれぞれ色々な餞別をくださいました。あったかいなぁ。この宿も、サリエラさんも、お客さんも。
「みっみなさんっ、あっありっ、ありがどうございまず〜!!うわーーーん!!」
「泣かないでよ〜!アタシもなんか貰い泣きしちゃっ・・・ぐすっ!」
その晩は夜遅くまで皆で宿屋の食事スペースで飲み明かしました。(私はジンジャーエールでしたが)
今回もありがとうございました。(^^)