押してダメでも押してみる
私の口に指を当てて私の言葉を制したソフィアス様は、こう告げた。
「私はお前がどんなに断りの言葉をこの可愛い口で囀ったとしても、決して諦めはしない。だから、断ったって無駄だぞ?」
「・・・・・・っ(喋れない)」
「だから、な?もう諦めろ。私を傍に置くと、誓わなくてもいいから認めろ」
ひぃぃ、この人無茶苦茶です。一貫してこっちに選択肢をくれません。むぅ。この人の相手をしていたら、約束の時間に遅れてしまいます。
こ、こくん?
私は納得の行っていない体を醸し出しつつ、頷いてやりすごそうとしましたが
「そうか!ならば、早速父上に挨拶に行こう!」
「ちょまっ!!」
なんだか思いもよらない事態になってしまいました。
で、ソフィアス様に引きずられ城までやってきました。
ゔわー。もう、なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ。
「よくぞ参ったな、光の子よ。そして我が息子ソフィアスよ」
「はっ。先程リリーシュカより、私が傍に居る事の許可を頂きました故ここに馳せ参じました」
「そうか!リリーちゃんに想いが通じたか」
「はいっ。私達は幸せになります」
「えっ!?」
「デュフフフ。リリーちゃんがワシの娘に・・・出かしたぞ!我が息子よ!」
「フフフ。私とリリーシュカの二人なら、幸せになる未来しか描けない。式の日取りは後程リリーシュカと相談したいと思っています」
「いやいやいやいやいやいや!ちょーっと待ってくださいよ?私は結婚などしませんからねっ?」
「「えっ!?」」
えっ!?はこっちのセリフなんですけど!なんで親子してそんなの想定外だ、みたいな顔してるんですか?!
「あのー、ソフィアス様が私のお傍に居てくださるのは『仲間』としてだと思いましたので・・・結婚となるとまた話が違うかと・・・」
「そんな・・・ばかな・・・」
「いや、断らせなかったのはソフィアス様ですし。私が何を言ったとしても私から離れない、断っても無駄だ、と言っていたので仕方なく頷くしかなかったじゃないですか」
「くっ・・・。私とした事が、リリーシュカを相手だとこうも計算が狂ってしまうとは・・・」
「それに、王様。第一王子様が王国の仕事を放り出して冒険に行くなんて国民に対して不誠実では?」
「あぁ、いいのいいの。ソフィアスはアホの子だから、元々第二、第三王子に後を継がせようと思ってたし」
「えっ!?」
私は微妙な気持ちでソフィアス様を見てしまいました。私と目が合い、なんか照れてます。おーい、アホの子とか要らない子みたいに言われてますよ〜!
もうさ、この何1つ思い通りに行かない世界でがんじがらめな私。その上余計なお荷物を押し付けられてしまいそうな状況ですが。
「・・・そこまで言うのなら、仕方がありませんね。今後一切王国、国王に頼らない。そうお約束くださるなら付いてきてもいいです」
「もちろんだとも!で式は・・・」
「あ・げ・ま・せ・ん。人の話聞いてましたか?・・・結婚は、ソフィアス様を心から信頼出来た時に考えさせて頂けたらと思います」
「そ、そうか。少し気が早すぎたな。では、リリーシュカの気持ちが固まるまで待とう」
ほっ。とりあえずこの件は当面の間保留でいけますね。気持ちが固まらないとのらりくらりしてればいいんですから。
ソフィアス様がアホの子というなら、その剣技、利用させてもらうまでよっ!
「ホッホッホ。話はまとまったようじゃな。では、ソフィアスよ、一刻も早くリリーちゃんの気持ちを掴むよう精進せよ」
おい、おっさん。けしかけんなや。・・・うぅ、口調が乱れてしまいました。心が荒む一方です。
「はっ。承知いたしました」
どうだろう。親も親だし、ソフィアス様の印象がマイナスからのスタートですから、かなりの事が無い限りはプラスにはならないと思いますよ。
謁見の間を後にした私達は、ソフィアス様が旅のお供に持っていきたいものがあるというので、ソフィアス様の部屋にやってきました。
部屋の扉を開けると、テーブルの上に私そっくりなお人形さんとソフィアス様にそっくりなお人形さんが並んで置いてありました。ひぃっ!!
「昨日帰ってからばぁやに作ってもらったんだ」
えぇー・・・何の為にですか?いや、可愛らしいのですが。
しかし、何故ここまで精巧に私のお人形さんを作れたのでしょうか。私ばぁやさんとはお会いしたことが無いのに・・・。
「なんと、この人形は手を繋ぐ事が出来るんだぞ!」
無駄に凝ってますね。まぁ、お人形さん遊びで満足してくれれば問題はありませんね。キモいけど。
「私の人形をリリーシュカに持っていてほしいのだが」
「えっ?(嫌だ!)」
「お互いの人形を持ち合うのは、こ、恋人っぽくないか?」
「ま、まぁ。じゃぁ、汚したら困るのでアイテムボックスに入れて大切に持っていますね」
ソフィアス様が満面の笑みで私にご自分の分身のお人形さんをくださいました。
ソッコーでアイテムボックスに入れました。・・・大切なものカテゴリーに入っちゃいましたので、今後捨てる事も売る事も出来ません。なんだか呪いの人形みたいで怖いです。
「あの、皆さんにご挨拶とかはいいんですか?」
「問題無い。父上以外の家族には今朝既に済ませてある。父上にはリリーシュカと二人で挨拶したかったから相談だけに留めておいた。で、今に至るのだ」
「へぇ・・・」
じゃぁ、私がなんて言おうが引く気はさらさら無かったんじゃないですか。道理で私に断りの言葉を言わせない訳ですよ。皆に挨拶した手前、後に引けないんですもんね。
というよりも、先程の様子だと、私に断られる事は真面目に想定外だったんですね。
私はこれからの事を考えると一寸先は闇、闇、闇しかないなと思いました。・・・光の子っていうのは何かの間違いじゃないのかな?