メメントモリ
渦潮のその先ってどうなっているんでしょうか。
何もかもが夢だったりして。キリエが見た永い永い夢。全てが私の願望で、こうだったらいいなって結末。
リアルな私は病弱で、病院のベッドが私の聖域だった。
ベッドの上で本を読んだりPCでゲームをしたりと、出来る事はそんな事くらいしか無かった。
思い切り走り回ることも
誰かと一緒に旅をする事も
恋をして、結婚する事も
全部諦めていた事だった。
リリーシュカ・ラティシエはそんな自分の願望を全て叶えてくれた。最初はなかなか思い通りには行かなかったけど、毎日が初めての事尽くしで、新鮮で楽しくて幸せだった。
でも、こんなエンディングは嫌だなぁ。最後の最後に自分の存在が無になるなんて。夢ならば、やっぱりハッピーエンドじゃないと嫌だなぁ。
「リリーシュカッ!私を置いて逝かないでくれ!ずっと傍に居てほしいのだ!リリーシュカッ!」
何かポツリと頬に冷たい水が落ちました。雨、かなぁ。
重たい瞼を開くと、ソフィアス様がボロボロ涙を流して私を見下ろして居ました。
「リリーシュカ!!やった!目を覚ましたのだぁぁぁぁ」
ぎゅぅぅぅぅっと抱きしめられ、かなり苦しいです。あれ?私海に身投げをした筈では?
辺りを見回すと、そこはお城の謁見室でした。
「ちょ、ちょっと苦しいですよ!あの、状況を説明してもらえますか?」
私はソフィアス様の背中をタップして、私の身体の解放を促した。
「闇に飲み込まれると思った瞬間、リリーシュカが光り出したのだ。リリーシュカの光が闇を押し返したのだが、リリーシュカが目を覚まさなくて・・・ニーヴェンが言うには一度リリーシュカの魂が闇に連れて行かれたと」
「はい。僕達を飲み込めなかったから、せめてお姉様だけでもと連れて行こうとしたのではないかと思われます」
「ニーヴェン様も無事で・・・。えぇっ!て事は私死んでたんですか!?」
「全く息をしていなかったのだ」
「オーラも消えて、脈も止まっていました。つい先程一瞬で魂が戻ってきましたけど」
こっわー。闇こっわー!!じゃぁ、あの世界は何だったのでしょうか?冥界?誰も私の事を知らない世界・・・。今思い出しても背中がゾワリとします。
グリーンアースでは「死」というものがそんなに重要じゃないんですよね。生き返らせる方法があるから。
だからって、ホイホイと魂が出たり入ったりするのは私からすると普通じゃないです。
慌ててステータスを確認したら、闇に飲み込まれる前と同じでした。ステータスも、名前も・・・。私がソフィアス様の妻だと言う事も全て。
これが例え夢でも、いつまた闇に飲み込まれたりして命を失うかわかりません。だからこそ、私が今居る世界を救いたい。不安な人が居れば、大丈夫だよって寄り添いたい。
今の私なら出来そうな気がする。ううん、絶対に日常を取り戻さなくてはなりません。
私は心の中で念じました。
小鳥ちゃん。ジェシー。アミュールさん。リジットさん。ロバート。ギルバート。リリアスに姫様にファレル・・・。
そしてお世話になった人達。
「あれ?リリー?ここどこよ?」
ジェシー!
「あっ!ハニィ!やったぁ!ハニィの傍に居たいって願ってたら叶ったよぉ」
アミュールさん!
「助かった・・・のか?」
リジットさん!
「だから言ったじゃないですか!ロバートさんはどっちかって言ったらジャッキーチュンの方だって」
「アホか!アッシはどう見てもブルー3っスよ!ホアチョー!!・・・あ、あれ?アニキ?え?」
ロバート&ギルバート!え?こいつら世界が終わりそうって時に何の話してんの?
「おっ、お姉様!?よくぞご無事で!」
プリンセス姫様!
「リリーシュカ?何してるの?あれ?ここはどこ?」
ファレル・・・。
私が念じた人達が続々とこの場に現れました。
小鳥ちゃん、小鳥ちゃんは?
“ママ!パパ!!また会えて良かった!”
「っ!小鳥ちゃんっ!皆!!」
ざわざわ
「あれ?リリーシュカ様じゃないか?」
「ソフィアス様もニーヴェン様も居る!」
「ちょっ・・・俺達もクーデターに巻き込まれるんじゃ?」
「リリーシュカ様の髪の毛の色が虹色だぞ・・・!王様は?王様はどこに行ったんだ!?ニーヴェン様は人質なんじゃないか?」
そ、そうですよね。いきなり私の前に召喚されてもそんな反応ですよね。私とソフィアス様は国家に仇をなす存在、と思われているんですから。
「皆さん、それは誤解です。全ては我が父モルゾヴァが企てたシナリオでした。リリーシュカお姉様とソフィアス兄様はそれに利用されてしまっただけです。自分が国民にとって絶対的な存在になる様にと」
ニーヴェン様が小さな身体で両手を広げて国民の皆さんに説明をしています。
「父上はこれまで、自分の考えに異論を唱えたり、自分の気に入らない人達を抹消してきました。リリーシュカお姉様はそんな父上を諌め、この世界の再生を願ってくれていました。なのに・・・。国がこんな時に父上が城に居ないのが答えです・・・。父が、ごめんなさいっ」
ニーヴェン様は涙をポロポロとこぼしながら皆に謝罪をしました。若干七歳のこどもがする事ではありません。
私達夫婦も、決して大人ではないですが、それでもこの小さな肩を震わせている勇敢な子よりは歳上です。私達がしっかりしなくてどうするって話ですよ!
私はニーヴェン様の肩にポン、と手を乗せました。
「お姉様・・・?」
「皆さん、今しがた義弟の言った通り私達夫婦は国王に謀られ、地位も名誉も失いました。しかし、いくら口で言ったとしても信用出来ないかもしれません。ですのでこれから私はこの世界を国王から救ってみせます!」
信用とか信頼は築くのに時間も手間もかかるのに、無くなる時は一瞬で無くなってしまうものだ。
無くなったらまた一から築けばいい。
私は虹の子。神と同等の力を持つ子なんです!私だってやられっぱなしな訳にはいきません。
今回もお読み下さり、ありがとうございました┏○ ペコリ