暗闇、そして・・・
闇に飲み込まれる瞬間にギュッと目を瞑りました。再び目を開けたら、そこは・・・。
あ、あれ?お城の中?闇に飲み込まれたはずでは?私は闇に飲み込まれる前となんら変わりのない謁見の間に座っていました。
「そ、ソフィアス様?ニーヴェン様?」
二人が居ないです。大変だ!探しに行かなくちゃ!
バンッっと音を立てて謁見室の外に出た所で、向こうから歩いてくるソフィアス様に声をかけられました。
「そんなに急いでどうしたのですか?父上なら今不在ですけど」
「えっ?ソフィアス様とニーヴェン様を探しに・・・。無事で良かったです!」
「え・・・?私とニーヴェンをですか?何の御用でしょうか?(ニコッ)」
「ソフィアス様・・・?」
「どちら様でしょうか?こんな可愛い子なら一度会えば忘れないんですけどね!(ニコッ)」
「え・・・?こんな時に冗談やめてくださいよ!ソフィアス様!」
ですが、私をからかっている様には見えません。
「あっ!ソフィアス兄様っ!向こうでファレルお兄様が呼んでますよ」
「あぁ、ニーヴェン。この方が私とニーヴェンに用事があるみたいなんだけど、ニーヴェンの知り合いかい?」
「えっ!あの・・・初めまして、ですよね?」
パタパタと無邪気に走ってきたニーヴェン様はソフィアス様の後ろに隠れてこちらを怪訝な表情で見ています。
「あれ、でも・・・このお姉さん王家のオーラを纏っていますよ」
「本当かい?ニーヴェン。それじゃぁ、この子は私たちの親族なのかな?」
「いえ、七色のオーラなので転生者です。転生者が王家のオーラを纏う方法は婚姻か養子縁組しか無い筈ですが・・・。あなたは一体・・・?」
嘘、ですよね・・・。二人とも私の事を忘れてしまったのでしょうか?せっかく元に戻ったのに・・・。
もしかしたら、知らない内に虹の子の力でも使っていて、世界を元に戻す代償として、私の事は皆の記憶から消えるとかでしょうか?
・・・だとしたら、それは仕方のない事ですね。
「いえ、私の勘違いでした。お騒がせしてすみません。失礼致します」
「あ、ちょっと、君!」
私は二人にお辞儀をしてその場を離れました。城の外に出てみても以前となんら変わりの無い景色でした。
街の外に向かいがてら宿屋に寄ってみましたが、サリエラさんも私の事がわからないみたいで他人行儀な態度でした。
じゃぁ、次は冒険者ギルドに行ってみましょうか。ジェシーやアミュールさんにリジットさんが居るかもしれません。
カランカラン・・・
冒険者ギルドを覗いてみました。酒場スペースのいつものテーブルでジェシーとアミュールさんとリジットさんが談笑しています。良かった。みんな無事で。
それだけ確認できれば充分です。さて、次は小鳥ちゃんを探しにいきましょうかね。
アイテムボックスは殆ど闇に飲み込まれてしまったのか、小鳥ちゃんのご両親から頂いた笛もありませんでした。
それどころか、ステータス画面が空白になっていて、スキルもリリーシュカという名前すらもありませんでした。私の、この世界の情報が抹消されているみたいです。
は・・・ハハハ。それじゃぁ、この世界の誰もが私の事を認識出来るはずが無いですよね。
じゃぁ、これからは名無しの勇者とか名乗って旅をするのもいいかもしれませんね。
神に背きし闇に堕ちた子とか、記憶の迷い仔とかいうのはどうです?あは、あはは・・・。
はは・・・。
・・・・・・。
あれ?やだな。なんだか視界がぼやけます。おかしいな。目から涙が溢れてきます。
私は堪らなくなって、思い切り走り出しました。星が浜近くの崖の上まで駆け上がり、そのまま海へダイブしました。いっそ、このまま海の底に広がる闇に飲み込まれればいい・・・。
流れに逆らわず海の流れに身を任せていると、アイテムボックスからソフィアス様人形が勝手に飛び出しました。
『リリーシュカ!リリーシュカ!』
ソフィアス様人形の手も握っていないのに、喋っています。私の存在が抹消されている筈なのに、もう名前すらも無いのに、目の前で私と一緒に海中を漂うソフィアス様人形は私を“リリーシュカ”と呼びます。
優しい声で。愛しい人の声で。私の名を繰り返し呼びます。
『リリーシュカ!リリーシュカ!』
私はソフィアス様人形に手を伸ばし、引き寄せるとギュッと抱きしめました。きっと、この世界でこの人形だけが私の存在を知っている。私がリリーシュカだって知っている。
「リリーシュカ!しっかりするのだ!」
あぁ、またリアルな感じで喋りますね。この人形。さっきお城で会ったソフィアス様よりもリアルな口調です。そういや、さっきのソフィアス様の口調おかしくなかったですか?やけに軽いというか。出来るソフィアス様モードはもっと丁寧語というよりは謙譲語に近い話し方の様な気がします。
「リリーシュカ!目を覚ますのだ!!」
え?目を覚ます・・・?そう疑問に感じるのと同時に海の流れが急に激しくなって渦を巻き、私はその流れに乗って渦潮の中へと巻き込まれていった。
今回もお読み下さり、ありがとうございました┏○ ペコリ