第5話 姫様は勉強する 「私の魔法は氷と白です。」
この世界には魔法がある。
体内や周りにある魔素を操り、観測できるエネルギーや物質に変換する。
大気中や地中など、密度の違いはあるものの、ほぼ全ての物質、空間内に魔素は存在する。
周囲より魔素を取り込んで体内に保管し、扱う事が出来る人が魔法士と呼ばれている。
基本的な魔法発動工程は以下の通り。
1.体内の魔素を把握、集約し、変換に使用する量の魔素を抽出。(魔素抽出)
2.抽出した魔素を発動させる魔法の分類に対応する色魔素に変換。(色付け)
3.色魔素を魔法発動させる領域に分散。(領域指定)
4.各色の色魔素に魔法発動指示を記録。(プログラミング)
5.プログラムを作動させ、所望のエネルギーや物質に色魔素を変換。(事象改変)
人により変換できる色魔素の種類は決まっている。魔法士は技術開発、訓練により一度に扱える魔素量や発動速度を向上させている。
体内に保有する魔素の最大量を魔素容量と呼ぶ。
体内の魔素は魔法を使うと減少し、時間が経つと回復する。
基本的に魔素容量が大きい者ほど強い魔法を使用することが出来る。
えっと、魔素容量の単位はタイスであり、ルタニア王国の魔法院の学院に入学するには500タイスが目安となる。だっけ?
「そこは200タイスですね。500タイスを持つ人となると数千人に一人くらいになってしまいます。」
「ここは200っと。」
次はどれどれ。
魔素容量、魔法能力の測定にはマガリーの花を用いる。
マガリーの花のついた枝を握ると、測定者の能力によって花びら色が変わる。
変色した花びらは時間が経つと元の白色に戻る。
また、色が戻りきる前に別の魔法士が枝を握ると色は上書きされる。
1センチの花を完全に色付け出来れば100タイス、2センチ で400タイス、3センチ で900タイス、10センチだと10000タイスになる。
複数色の魔法能力を保有する者の場合は、花びらの色も複数色を示す。
だったよね。
今、私は魔法学院の教室で補習中だ。
隣の教本をちらちら見ながら課題をこなしてる。
「でも、エマ先生。私、この測定っていうのやってないんですけど。」
「そうですね。レティシアは自分の魔法能力は何色だと思っていますか?」
「私の魔法は氷と白です。」
そう、私が使える魔法は氷の魔法と白の魔法だ。
氷の魔法は母から、白の魔法はお父様から受け継いだ。
私の自慢の魔法だ。
「魔法色は青と白ですね。では白の魔法能力を持つ人がマガリーの花を握るとどうなるでしょう。」
「花が白くなるんじゃないですかね。あっ、でも、もともと白いですね。」
「そうです。白の魔法士の魔素容量を測るには普通の方法では無く、あらかじめ他の魔法士が別の色に染めた花を使う必要があります。しかし、その魔法士よりも白の魔法士が魔素容量が大きい場合は測ることができません。レティシアの魔素容量は非常に大きいので測るのが難しいというのが正しいですね。それに、白の魔法はまだ不明な点も多くあります。」
「そう言えば、お父様もそんなことを仰っていたような。」
「レティシアの御父上、リオ様とプラシェンヌ王国が白の魔法を公表するまで、白の魔法の存在を知る者は極わずかでした。今でもほとんどの者はその名を知っているといった程度です。」
「白の魔法を使っているかどうかなんて、普通分からないですしね。」
白の魔素は魔法士の体内から外に出せない。
せいぜい着ている服や手にした道具に魔法の影響を与えることができるくらいだ。
まあ、私にとってはそれで十分なんだけどね。
「リオ様は御自身の強化だけでは無く、魔素を他の方にお渡しするといったこともされておりましたよ。」
「それはお父様ですし。」
お父様は、白の魔素を他の人に渡すことができる。
白の魔素は受け取った人の体内ですぐに別の色の魔素に変わるんだけど、単にその人の魔素が回復するだけでは無く、その人の魔素容量も増える。
普通、魔総容量を増やすには魔法訓練を重ねて何年もかける必要があるのに、この能力は結構ずるい。
でも、受け取る人の方にも適正みたいなものが必要らしく、私は駄目だった。
与える側としても上手くいった試しは無い。
もともと白の魔素を扱えるので当然と言えば当然だけど。
ちなみにお母さまはお父様の魔素を受け取れる。ずるい。
「これはまだ仮説段階ですけど、白の魔素は他の色の魔素より原始的な状態の魔素だと思います。他の色の魔素と混じり合い、色を変えることができる。これは特別な事なのですよ。」
「はーい。分かってます。」
エマ先生は研究家だから、この話になると長い。
「また、他人事みたいに。せっかくレティシアは白を引き継いだというのに。」
私も自分が使っている魔法の事だから興味がないわけでは無いけど、実際良く分からないけど白を使えているからね。いわゆる実践派だ。
この世界には魔法がある。
魔法の種類は古代の研究者によって分類分けされており、魔法種ごとに魔法士が認識する色が異なる。
一般的によく知られている魔法種、魔法の色は、
・火の赤
・水の水色
・氷の青
・土の茶色
・風の緑
・光の黄色
・闇の黒
の7色だ。
この中で、闇の黒魔法は魔獣や魔族が使うので、人に害をなす魔法として恐れられている。
私の場合は魔族にも親しい人がいるし、黒魔法を見せて貰ったこともあるので、黒魔法が人に害のある魔法ではないと知っている。
あと、この他に使える者が非常に限られているために一般的ではないが、
・空間の灰色
・白の白色
の魔法がある。
私が知っているのはこの9種だ。
「白の白色」というのはおかしい感じがするが、まだ原理が良く分かっていないのだから仕方がない。
お父様からそう聞いた。
「レティ。午後は野外実習、出れるんでしょう?」
声をかけてきたのは魔法学院で同い年のユメミ・オルテノ。
ルタニア王国、レンヌの街の侯爵の令嬢だ。
魔法学院が開いている時期、緑の季節の最初一カ月と最後一カ月の間だけここオルシエールの街に滞在し、授業を受けている。それ以外の時期に会う事も多いけど。
「ユメミちゃんはレティちゃんが戻るのを楽しみに待っていたんですから。」
この娘はコロナ・ニュート。
ユメミと同じく魔法学院で一緒に居ることが多い。
ニュート財閥っていう大きな商会(?)の娘さんだ。
「ちょっとコロナ。何言ってんのよ。あたしはただレティがまた無茶して、迷子になってるんじゃないかって心配してただけよ。」
うっ。道に迷ったのは確かだけど。魔獣を倒せたから良いの。
「ユメミちゃんは素直じゃないんですから。」
コロナは笑顔で私とユメミとの間に入り、それぞれと腕を組む。
今は午前の補習が終わり、迎えに来たユメミたちと食堂に行くところだ。
「ちょっと魔獣を退治してたから遅くなったのよ。」
「魔獣って、ケガしてないでしょうね。そっか、また出たんだー。」
「そう簡単に怪我なんてしないわよ。アニエス達も一緒だったし。それより、またって、他に出てるの?魔獣。」
「レンヌの近くでも出たし、こっちに来るときにもいくつか噂を聞いたわ。」
「商会でも襲われた人がいるみたいです。それに盗賊の被害も最近増えてますね。護衛が必要な経路がいくつか増えてました。」
コロナは困った風にそう言う。
ユメミもコロナも別々の情報経路を持っており、時には王国に上がってこない噂話も知っている。
「それで、今度はどんな魔物だったのよ。強かった?」
ユメミは魔獣と聞いて目を輝かせている。
去年はこの三人で魔獣を討伐しているからね。
あの時も色々あった。
「今回は初めて見る魔獣ね。何かおっきなヘビの形だったわ。」
それにこれまで見つけた魔獣で一番強かったかも。
「ヘビ。それは聞いたことないわね。そうね、ヘビならどう戦うかしらね。」
「いや、ユメミは相手がどんなでもその剣と風の刃で向かっていくだけでしょ。」
ユメミは風の魔法士だ。そして腰に刺している剣も使う。
不可視で飛んでくる刃と風をまとった高速剣がユメミの得意技だ。
「それはそうかもしれないけど、眼を狙うとか色々あるでしょ。それにそれを言ったらレティだって、氷の剣で切るか、氷漬けにするかでしょ。」
「それは、剣の技術が重要なのよ。」
「相手の攻撃を受けても無視するのに?」
それもまた技術。
「私もヘビの魔獣は聞いた事が無いですねー。」
コロナも聞いた事が無いようだ。
ちなみにコロナは火と光の2色魔法士だ。
何か特別な魔法具を使い、光る剣を生み出して戦う。火の球と光の球を混ぜて打ち出す遠距離攻撃も得意だ。
私、ユメミ、コロナの全員が遠距離魔法も打てる近接型だね。
あれ、能力だけ見るとコロナが一番かっこよくて、主役っぽい?
「コロナも知らないのね。魔法研究院も知らなかったみたいだし、新種かもしれない。」
「新種ねー。発見者は名前を付けれたりするのかしら。」
また、ユメミは変なところに悩んでいる。
「アニエスさん達も戻っていらっしゃるのでしたら、今日は温泉ですね。」
「コロナ。それ良いわね。レティ、今日大丈夫?」
この二人は朝霜荘の皆にも良く知られていて、私の部屋に泊まりに来ることも多い。
「うん、大丈夫。あ、でも、一度お城に行かなきゃ。」
「それなら夜に朝霜荘に行くね。」
「私もそうしますね。」
久々のお泊り会になりそうだ。
アニエスとお母さまに伝えておかなきゃ。
あとがき
(ユメミ)祝、初登場~。まあ、今回は説明回だけどね。
(コロナ)この章は私たち3人が主役になりそうですね。
(レティ)そうなるのかしら。2週間っていう期限はあるけどね。
(コロナ)1年が1話だったり、1日で100話費やしたりすることもあるので大丈夫です。
(ユメミ)東の調査とやらに私たちがついて行くこともありよね。
(コロナ)それも良いですね。レティちゃんとユメミちゃんとの旅なんて素敵です。
(ユメミ)どうしてもって言うならついて行ってあげても良いんだからね。
(レティ、コロナ)・・・