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氷姫の絶対領域  作者: 団子魚
第一章 ルタニア王国の氷姫
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第1話 姫様は迷子 「ここはいったい何処なのよ!」


ここは緑と雪の国、ルタニア王国。

緑の季節には、一面が草原で埋め尽くされ、様々な花が咲く。

雪の季節には、大地は真っ白な雪で覆われ光り輝く。

人々は自然の中で助け合い生き抜いてきた。


「ここはいったい何処なのよ!」


今は緑の季節。

周りには大きな針葉樹がそびえ立ち、青々とした葉がやわらかな風に揺れている。

葉の隙間からはわずかな木漏れ日が地面に模様を描く。


「ルタニアの西の森ですね。」


「そんなことは分かっているわよ。道はどっちで街はどっちよ!」


「先頭を走っていったのはお嬢様ですよ。」


「あんたたちだって止めなかったじゃない。」


私、ルタニア王国のレティシアはサン・クリストの街からルタニア王国の首都であるオルシエールに向かっていた。その道のりの途中、アントレーグの街で食事をしているときに魔獣襲来の知らせを聞いた。と言っても魔獣が来たという警備兵の声を耳にしただけだが。


「止めたら、追うのをやめて頂けましたか?」


「そんなのやってみないと分からないじゃない!」


「あの、お嬢様もお姉ちゃんもその話は昨日からもう3回目で…。」


そう魔獣がアントレーグに現れたのは昨日の話で、警備兵が言う魔獣の元へ駆けつけると、2匹の黒い魔獣が荷車を引く馬に襲い掛かろうかとしているところだった。

氷の礫を魔獣に打ち込むと魔獣は街の外へ一度は逃げたが、遠くからこちらの様子を窺っている。ああいう魔獣は、隙を見せると再び襲いにやってくる。退治しないといけない。だから私は追いかけた。


「今日も野宿ですね。」


私の従者でありお目付け役でもある双子姉妹の姉であるアニエスがつぶやく。


「今日のご飯はどうしましょう?」


妹のルシールはこんなところでもおいしい料理を作ってくれる。

二人ともに、私が物心ついた頃から共に生活している、よく知った間柄だ。


「まずは居場所を確認するのが先よ。あそこの高いとこまで早く行くわよ。」


高い場所から見渡せば、此処がどこ辺りなのかわかるかもしれない。

火が傾きかけた頃、小高い丘の頂にたどり着く。

遠くの方に街が見えて。というかあれは。


「わあ。お嬢様。お城が見えますよ。」


「何だ。ずいぶんの北の方まで来てたじゃないの。急げば今日中に帰れるわね。」


森をさまよっている間の帰る場所であるオルシエールの方に知らないうちに近づいていたようだった。

私の行いが良いおかげよね。


「お嬢様、あれを。」


アニエスは未だ緊張した面持ちで一点を指さす。


「あれは!」


魔獣だ。昨日追いかけた魔獣は結局のところ見失ってしまっていたのだった。


「行くわよ!」


今度こそ逃がさない。

急いで斜面を駆け降りる。

行く手をさえぎる茂みや木の枝のも構わず進む。

いつも通り、白の長袖のシャツと黒地に白のラインが入ったスカートの恰好だが、自分の体や服は魔法で強化している。そう簡単に傷つくことは無い。

いた。今度こそ外さない。風下から近づいていく。

魔獣は岩肌の斜面を降りていき、そこに空いていた岩穴に入っていった。

ここが魔獣の巣ね。


ふと周りを見渡すと、アニエス達の姿は何処にも無い。まあいつものことだ。

こぶし大の氷の礫を空に打ち上げ、上空で破裂させる。

キンという高い音が周囲に響く。音は小さいが二人ならこれに気付いてくれる。

先ほどいた丘の方角から上空に青い球が二つ打ちあがり、そして上空で霧散する。二人の水の魔法だ。結構近くに来ていたからすぐに合流できるだろう。その場で、魔獣の巣の入り口を見張りながら待つことにした。


「お嬢様。また迷子になりますよ。」


「そんな子供じゃないんだから!」


「いやどう見てもお子様ですよ。」


年齢は二人より3つ下で、あと数カ月で14歳になる。まあ、低い身長のせいで、さらに年下に見られることが多いのは不満だ。


「それより、魔獣はあの穴の中に入っていっては。たぶんあれが巣ね。」


「そのようですね。でも結構大きそうですよ。まあお嬢様は突入する気なんでしょうけど。」


「当り前じゃない。何のために追ってきたのよ。それにここはオルシエールとも近いんだから。」


「分かりました。それでは明るいうちに片付けた方が良いでしょう。ルシールは穴のそばで監視をお願い。ここに戻ってくる魔獣がいるかもしれない。」


「うん。任せて。」


アニエスはランプを用意して火を灯す。


「それじゃ、行くわよ。」


アニエスと二人で岩穴に入る。先行するのはもちろん私だ。ランプを持っていてはとっさの対処が難しくなるし、何より私には最強の防御がある。


「結構広いわね。おお、声が響く。」


中に入って少し進むと、高さ3メートル、幅10メートルくらいはあるかの広い空間があった。後ろのアニエスが明かりを持っているので、私の影が前に大きく見える。手を広げてみた。


「お嬢様、遊ばないでください。魔獣に気付かれますよ。」


「もう、とっくに気付かれてるわよ。ほら。」


前方の私の影の中にさらに濃い黒色の塊が3つ、いや4つかな。

先手必勝。小指ほどの大きさの氷の針を10個作り、まずは中央の一番大きい魔獣に飛ばす。ここは穴の中だから、あまり派手な魔法を使うと視界が悪くなる。この前の反省だ。

氷の針の何本かは刺さったが、そのほかは魔獣の体表面で弾かれてしまう。


「硬いわね。」


魔獣はこちらを包囲するように近づいてくる。


「アニエス、水頂戴。」


アニエスに声をかけると、すぐに私の目の前に水の塊が出現する。横に細長い水の塊はそのまま宙に浮いている。

私はその右端に右手を触れて、一瞬で氷の剣を作り出す。


「行くわよ。」


そのまま、正面の大きな魔獣に向かい飛び出して、剣を振り下ろす。

魔獣は剣をかみ砕こうと牙をむいたが。その牙ごと、魔獣の頭を二つに割った。

この氷の剣には別の魔法も付加しており、砕かれる心配は無いだろう。

音を立てて崩れ落ちる魔獣。

すぐに隣の魔獣に切りかかる。

魔獣もバカではない。ランプの明かりで輝く剣を避けて退く。そして私の斜め後ろから一匹が飛びついて足にかみついてきた。

そのまま足をかませて、動きが止まった頭に剣を突き刺す。

魔獣の牙は私に届いていないし、服には汚れすらついていないだろう。

奥の退いた魔獣に目標を戻し、近づいていく。横に飛ぼうとした魔獣を横薙ぎで切り付ける。


「お嬢様。わざとなのは分かっていますが、お嬢様が魔獣に噛まれるというのは、あまり見ていて気持ちの良いものではないのですよ。」


「あれ、もう一匹は?」


「そこです。お嬢様を後ろから襲おうとしていましたよ。」


黒い塊が横たわっており、昇華を始めている。


「万が一のこともありますから、わざと襲われるのはおやめください。良いですね。」


まあ、私もアニエスやルシールが襲われる姿は想像したくない。


「分かったわよ。それより、早いとこ核を潰すわよ。」


魔獣の亡骸の後には黒い石が残る。これを潰しておかないと、再び魔獣が復活するらしい。あまり手で触りたくないから足で踏みつぶす。

アニエスも踏んで潰していた。


「まだ、奥があるわね。」


「そうですね。ちょっと待ってください。入り口に魔獣が一匹戻って来たそうです。」


アニエスとルシールはお互いの魔法を使って少しなら離れていても会話ができる。なんでも細い水の糸を繋げているのだそうだ。


「ルシール一人で大丈夫?」


「もう倒したから大丈夫だそうです。奥へ行きましょう。」


「そう。ルシールもさすがね。」


「お嬢様と一緒にいれば、魔獣にも慣れてきます。」


「なにそれ。もともと二人の魔素量はルタニアのトップクラスじゃないの。」


「最強のお嬢様には負けますけどね。」


私にはお母さまから引き継いだ氷の魔法と、お父様から引き継いだ大きな魔素容量ともう一つの魔法がある。


「こないだの魔法院の模擬戦で、私負けたんですけど。」


「練習では、魔法か武器を相手に当てれば勝ちですから。お嬢様はもっと魔法の精度と相手の攻撃を回避することを覚えてください。」


模擬戦のルールが悪い。

そんな弱い魔法を受けたところで、私には何ともない。


「お嬢様。」


「何。次は勝つわよ。」


「いえ、そうではなく。奥に何かいます。」


奥の方には大きな窪みがある。真っ黒なので下の方に向かう穴かと思ったが、動いている?

あっ、赤い目がこっちを向いた。



あとがき

(レティ)この話って、今流行りの異世界転生ものじゃないのよね。

(コロナ)最初はそっちを書いていたのに、いつの間にかレティちゃんが勝手に動きすぎてこうなったようです。

(レティ)やっぱり私には魅力があるってことなのね。

(ユメミ)いや、さっそく迷子になってるし、トラブルに好かれるキャラってところかしら。ちなみに模擬戦でレティに勝ったのあたしだからね。

(コロナ)ちなみに、レティちゃんはユメミちゃんにも好かれてますね。

(レティ、ユメミ)何言ってんのよっ。



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