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結論から言うと、サラ達は強かった。ほぼ瞬殺とも言える勢いで、魔物を倒し切ったのである。
「サラさん達って、強いんですねぇ」
「草原狼程度ならどうって事ないよ。しかし、ユウタ君はもう少し落ち着いたほうが良いね」
※草原狼※
メッセチーナの草原に出没する魔物。肉は食用に向く。
「アマンダさんも、魔法凄いじゃないですか」
「この程度なら大した事はないですよ。それとユウタさんは、もう少し落ち着かれたほうが良いですね」
「ミリィさんの弓は、百発百中じゃないですか」
「でしょでしょー?ユウタちゃんは、もっと落ち着こうねー?」
「エリィさん、傷の具合は大丈夫ですか?」
「問題無い。痛みもないしな。ユウタはもっと落ち着か無いと駄目だな」
最後の望みを託したエリィにまで、戦闘時の落ち着きのなさを指摘されたユウタは、遠く雲を見上げる。戦闘に慣れたと思っていたが、そんな事は無かったようだ。
魔物の素材を採り終えた一行は、ユウタがエリィの傷の具合を気にしたので、治療のついでにと休憩することにした。
包帯を解き傷口を洗った所で、アマンダが感心した様に口を開く。
「ユウタさんの薬は、凄いですねぇ。もう殆んど治ってるじゃないですか」
ユウタは傷薬を塗りながら、傷の具合を確かめる。あれ程深かった傷は塞がり掛け、これなら痕も残らないで治るだろう。
「良かったですよ。これなら、痕も分からないくらいには治りそうですね」
新しく包帯を巻きながら話しかけるユウタに、エリィが嬉しそうに肯きを返す。
「良かったねぇユウタちゃん。エリィの『綺麗な足』に傷跡が残らないでぇ。これで後は、チュってして貰えば完璧だね!」
「もういい加減に勘弁して下さい、ミリィさん・・・」
「・・・・・ミリィ?」
げんなりするユウタと上目遣いに睨むエリィに、ニヤリと笑いかけミリィが逃げていく。後に残された二人は、お互いに顔を見合わせるのであった。
「はぁ・・・。ミリィさんも、困ったものですねぇ」
苦笑いを浮かべながらユウタが語り掛けると、にっこりと微笑みながらエリィが答える。
「ユウタがして欲しいなら、チュってする?」
どこの世界でも、年上のお姉さんは侮れない。沸騰しそうなほど赤面しながら、そんな事を思うユウタだった。
もう一日だけ夜営をした一行は、街道を歩いている。時々馬車などとすれ違う事も増え、どうやら町が近いようだ。
「そう言えば、町に入るのにお金って必要なんですか?」
「ああ、十日程度なら構わないよ。それを過ぎるようなら人頭税を払うようになるだろうね」
「そうなんですね。じゃぁ、後は宿代をなんとかしないとだなぁ」
「ああ、それは草原狼の素材を売った分を渡すよ。一週間分の宿代くらいにはなるだろう」
「それは・・・。さすがに全部は、申し訳ないですよ」
「いや、せめてこれ位はさせてくれないかな?。このままでは、此方のほうが申し訳ないよ」
サラの言葉に、しばし考え込む。背嚢の中には薬草等もあり、これを売れば当座は凌げるかも知れない。
それでも、サラの好意を無碍にするのも悪いとも思い、ユウタはサラに答えた。
「分かりました。有り難く頂きます」
「うん、それで良いよ。貰ってばかりじゃ、私達も心苦しいしね」
そんな話をしていると、遠くに町が見えてきた。
「ああ、見えて来たね。あれが私達が拠点にしている町、『バンセ』だよ」
「よう、サラ。早かったじゃないか、探索はうまく行ったのかい?」
「いやぁ、夜営中に魔物に襲われちまってね。とんだ赤字だよ」
「はっはっは、そいつは災難だったな。まぁ、命があっただけ儲けものだと思っておきなよ」
サラと親しげに話す門番が、ユウタを訝し気に見る。
「ところで、そいつは誰だい?」
「ああ、この子はね・・・・・」
サラがこれ迄の経緯を門番に説明すると、門番は親し気な笑みを浮かべてユウタに頭を下げた。
「冒険者とは言えど、この町の住人を助けてくれてありがとう。申し訳ないが、犯罪確認やら手続きがあるんだが良いかな?」
「あ、はい。勿論構いません。それと従魔がいるんですけど、大丈夫でしょうか?」
「おや、従魔持ちとは珍しい。見せてもらえるかな?」
「はい、ルビー出ておいで」
呼ばれてルビーがユウタの肩に上る。
「森林蜘蛛かい?小さいからまだ子供なのかな?」
「上位種らしくて、大きさが変えられるみたいなんですよ」
ユウタが促すとルビーは肩から飛び降り、大きさを普通の森林蜘蛛ほどに変えた。
「おお!こりゃ驚いた。珍しい物を見たよ。従魔には特別な手続きはいらないが、トラブルの責任は持ち主にあるから、気を付けるように。小さく為れるなら、普段は小さいままの方が良いだろうね」
「分かりました。有難う御座います」
小さくなったルビーを肩に乗せ、ユウタは門番に礼を言う。ルビーは前足をワキャワキャさせて、アピールしているようだ。
「ふふ、こうして見ると可愛いもんだね。さて、とりあえず手続きをしてしまおう」
門番に促されて、ユウタは詰め所に入って行った。
「此れで手続きは、殆ど終わりだね。最後に、此れに手を翳して貰えるかな?」
「これは何です?」
「教会からの支給品でね。なんでも、度を越した潜在的な悪意に反応するらしいよ。真偽確認に使った魔道具みたいなもんさ」
「色々あるんですねぇ」
「まぁ、余程の悪人や犯罪者でもなければ反応しないよ。あとは、神の理に叛いている者とかだね。君は大丈夫だろう。もう少し色々隠しても良いくらいだよ」
「あはは、そんなに判りやすいですかね?」
「魔道具が要らない位にはね?。さぁ、此れで手続きは終わりだよ。」
門番に礼を言い詰め所をでると、門前がなにやら騒がしい。
「仲間が西の沼地でポイズントードにやられた!持っていった毒消しが効かないんだ、治療出来る奴を頼む!」