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昨夜感じた疑問について、朝食の時に聞いて見た。
「森林蜘蛛はねぇ、人を襲う事は滅多に無いし、素材の糸を出してくれるしで、有難い魔物なんだよ~」
ミリィが言うには、解体した魔物の残骸を処理してくれたりと、意外に身近な魔物なのだそうだ。
「でもさ、ルビーちゃんって、普通の子より小さいよね?子供なのかな?」
ミリィが草の葉で、ルビーをあやしながら訪ねる。
「どうやら、上位種見たいなんですよ。ルビー、大きくなってごらん」
ルビーが淡く光り、ユウタと初めて会った時の大きさになった。昨夜のうちに森林蜘蛛程度の大きさまでは、見せようと決めていた。
「おぉ!ルビーちゃん凄い!」
ミリィは、大きくなったルビーを怖がる事もなく手を伸ばす。ルビーは、今度は逃げなかった。
「うわぁ、ふかふかだぁ」
存外に優しく撫でるミリィに、ルビーも気持ち良さそうに見える。
「包帯を作ったって事は、お裁縫も出来るのでしょうか?」
小首を傾げるアマンダに、機織りと手芸が出来ると教えると、吃驚しながらも感心していた。
「凄いですね、ルビーさん。ミリィより、女子力が高いです!」
「なにをぉ。ルビーちゃんなんて、ちょっと肌触りが良くて、お裁縫が出来て・・・・!?ま・・・・負けてる・・・・だと!?」
そこを問題にする辺りが、そもそも女子力が云々では無いんじゃ無かろうか。ユウタはそう思ったが、口にはしない。口は災いの元なのである。昨夜そう学んだのである。
「ユウタちゃん。何か言いたい事でも?」
「いえ、別に」
睨んで来るミリィから目を逸らし、ユウタはお茶を啜った。
朝食を摂り終え、街道を町へと歩き出す。エリィの傷は薬が効いたのか、あまり痛まない様だ。今は先頭をミリィと歩き、なにやら話している。サラとアマンダは隊列の後方についている。ユウタが護衛対象だからと、真ん中だ。自分が言い出したのだから、仕方がない。仕方がないのではあるが、居たたまれない。思春期には色々あるのである。
「ねぇユウタちゃん。ルビーちゃん怒ってるみたいだけど、どうしたの?」
いつの間に隣に並んだミリィが、ルビーを不思議そうに見る。
「僕に運ばれるのが、嫌みたいなんですよ。大きくなって、自分で歩きたいみたいです」
『当たり前です!私は従魔なのです!』
念話で文句を言うルビーを、指先であやしながらユウタが答える。ルビーは怒った様に前足を振り回しているが、ユウタの指先を避けようとはしない。
「そうは言ってもルビーちゃん?なんか嬉しそうよねぇ?」
笑いを堪えながらミリィがそう言うと、ルビーがミリィの頭の上に飛び乗った。
「痛いっ!なんかこう、チクチクって!」
『ミリィ様は、口が過ぎます!天誅です!』
連打を叩き込みながら、ルビーがミリィを断罪する。
仲良きことは美しきかな。そんな事を考えながら微笑ましく見ていたユウタに、ルビーが念話で叫ぶ。
『マスター、何か来ます!』
「サラ!右後方から魔物。数は4。恐らくウルフだと思う」
ルビィの念話とほぼ同時に、ミリィがサラに告げる。振り返ると、まだ距離はあるが何かが此方に向かっている。
「ミリィ、矢はまだあるね?初手は左。その後はユウタのカバー。アマンダは右を。エリィ、行けるね?」
サラの指示が飛び、それぞれが行動を起こす。ユウタは一人おろおろしている。
「―――ギャンッ」
左端の魔物が、ミリィの矢を受け転げ回る。ユウタはおろおろしている。
「燃え盛る炎を以て壁と成さん、ファイアウォール」
突然立ち上がった炎の壁に、右の二匹がまきこまれる。勢いをなくした魔物にサラが駆ける。ユウタはおろおろしている。
「―――フッ」
鋭く息を吐き、魔物の突進を受け止め手斧を叩き付けるエリィ。ユウタはおろおろしている。
『マスター。落ち着いて下さい』