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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

貴方が何者であろうとかまわなかった。

作者: 初見です。

ただ、あなたの傍にいたかった。

たとえ、貴方がどんなになっても、傍に。

彼を知る人は、ものすごく忌み嫌い避けて通るか、盲目的に好意を抱き近づいていくか、その2つしか選べない。

そのくらい、強烈な引力を持ったひとだった。


私は、病気で高校を中退後、リハビリもかねて、コーヒーの味だけは自信があるとゆう古びた喫茶店で

ウエイトレスとして働いていて、彼はそこのお客さんだった。


たまにきては、初老の店長と話し、毎回アメリカンを頼み、PCで時に難しい顔をしながら、時に心底楽しそうに、なにかを打っていた。


そんな彼をウエイトレスとして働きながら、観察するのが日常になってた。

(なんで、初夏にウエスタンブーツ?)

(煙草吸いすぎ。。。)

(たまに一人でブツブツ言ってる。)

(雰囲気あってかっこいいけど、かなり変で怖そうなひと!)


近づいたらあかん奴!と脳内で決定したところで、


お呼びがかかった。その男から。

しごと!しごと!と瞬時に笑顔を貼り付け

「はーい。お待たせ致しましたー。」とにっこりと注文を聞く。

「ひまわりみたいやな。」

「?」

「いや、笑うとな、君、ひまわりみたいやな。ってな。それだけや。カプチーノひとつ。」

注文の復唱もできず、赤面して逃げた私に「俺は好きやな。」と笑って追い討ちをかける。


17才の、男に全く免疫のない小娘でしかなかった私に、愚かであろうが、恋に落ちるなとは無理な話だった。


男は洋平と名乗り、29歳で家具屋で働いていて、空いた時間で小説を書いているらしい。

小説家になりたいんよ。と男は言った。

「で、ひまわりちゃんの名前は?」

「柚希…」



いつものように、喫茶店でウエイトレスとして働いてるとき、洋平さんがCDを渡してきて、

「これ、いまの俺の気持ちやねん。やるわ。」とくれて、


仕事終わり、CDケースを空けたら、一枚の紙が入っていて、詩が書かれてあった。

読んでしまったらもう、身も世もなく、完璧に心をわしづかみにされてしまった。


心臓がばくばく言うし、赤面しまくって涙も流してぐちゃぐちゃになっているところへ、

「ゆーずき」いたずらっぽく、にやにやと洋平さんが現れた。

「で、返事は?」 拒めるはずがなかった。


洋平さんといると、世界が色鮮やかになっていく。物の見方。考えかた。

なにもかも彼といると面白かったし、彼がすべて教えてくれた。


ある日、彼が魚釣りに行こう!と言い出し、近くの川辺で魚釣りをした。

洋平さんは慣れた様子で、釣具屋さんで、生きた餌を買う。

私は、魚釣りすることもはじめての経験で、生きた餌の白を釣り針につけるのも初めての経験だった。


白はウネウネと動くし、気持ち悪いし、嫌だったんだけど、洋平さんが余裕の表情で

飄々と白を釣り針につけて、釣りを始めたので、私も負けじとがんばって白を釣り針につけて、釣りをはじめた。はじめて、魚がつれたときはものすごく嬉しい。意外と簡単に釣れた。

白を釣り針につけるのもだんだん慣れてきて、釣りが終わり、洋平さんによると

この辺の魚は食べれないから、釣った魚を川に放流するらしい。


「キャッチ&リリースって言うねんで。」と聞いて、なるほどーと思っていたら、

「ゆずきって、根性あるよな。」洋平さんに言われた。

「なんで?」

「白って、実はさ、うじ虫のことやねんで。」

「うん。なんとなくは、わかってたよ。」

「うわっ!やっぱ、ゆずき、根性あるわっ!」って洋平さんに大爆笑された。



寝物語に、

洋平さんの昔の話を聞くのもすごく好き。


洋平さんは、家庭の事情で高校へ行ってなくて、すぐ働きにでて、工場で働いているときに、物作りの楽しさに目覚めたらしい。

絵を描いていたこともあり、ライブペインティングとゆうものをよくやっていたらしい。

ただ、絵は金がかかるから、才能もなかったし、辞めたけどな。と言っていた。


あとは、旅の話。夏に日銭を稼いで、冬に寝袋を担いで日本中を旅した話。

「どうして、夏には旅に出なかったの?」と洋平さんに聞いたら、すごく嫌な顔をされた。

「夏は、虫に刺されまくるぞ。あと、臭うんや。貧乏旅やったしな。風呂になかなか入れんかったし。一回で懲りたわ」


洋平さんは昔から雰囲気のある人だったらしく、街を歩いているときに海外の写真家に写真を撮らせてほしいと言われて、写真を撮ってもらった時の話。

「変なおっさんに全部脱がされそうになったけどな」と上半身裸のポートレイトを見せてもらって、奇麗だなと思った。



彼はよく、夜に小説を書いていた。

人がいると書けなくなるらしく、喫茶店でPCを開いてるときは、アイデアだけを書き溜めているらしい。

二人で布団に入り、話をして、私がウトウトしだす頃に、洋平さんは小説を書きに行く。

ウトウトしながら、隣の部屋から聴こえてくる、キーボードの打つ音がとても心地よい。

また、煮詰まっていらいらしたら、あのいつも怒っているかのような煙草の消し方するのかな。

洋平さんのことを考えながら眠るのがとても幸せだった。


洋平さんと映画を見に行った。植物園。動物園。美術館。写真展。はじめての旅行。

どこへいっても何をしても楽しかった。

洋平さんの感性が。すごく好き。

たくさんの物を見て、感じて、触れて。感想を言い合えるのが楽しすぎる!


洋平さんに教えてもらったのはたくさんあるけど、特にファッションのこと。

彼はアメリカンカジュアルが好き。このご時勢に信念持ってウエスタンブーツ履く人。

そして、それがなぜか似合っちゃう人。

彼はやたら、私に服を買ってくれる。べつに洋平さんはお金持ちじゃない。

理由は私が服に興味なく、無頓着でださいからだと思う。

ゆずきは細いし、身長もあるから、大抵なんでも着こなせるのに勿体ないと言う。

足出せ足!って洋平さんによく言われる。

ある時は、俺が着れたから、着れるかな?と思ってと、ワンピースをくれたことがあった。

店員さんにお願いして、試着してる洋平さんの姿を想像したら、大爆笑した。


一緒に服を見にいくことも多かったけど、彼がこれが似合うといって選んでくれたものは

大抵、よく褒められて、長く着れた。



洋平さんの世界はまばゆくて、楽しすぎて、私は夢中だった。

でも私の体はついていけなかったらしく、39度の熱が、1週間続き2週間過ぎ、入院。

家族は激怒していた。洋平さんに。


入院して、次の日に洋平さんが会いに着てくれた。

病室のカーテンを閉めるなり、ベットの上で洋平さんにきつく抱き止められた。

「柚希、死なないでくれ。」気弱な声で言う。

「別にこれくらいで、死なんよ。ただ、ウィルスが体に入っただけやって。お医者さんも言うてたし。」

抱き止められたまま、洋平さんが、離れないから、髪をなでて、何かあった?って聞いたら、なんもないて言う。

「柚希は俺の向日葵やから、柚希が元気ないと俺も元気でんだけや。」


あさって、また見舞い来るわ。と言って洋平さんは帰っていった。


2日に一度、必ず洋平さんがお見舞いに来てくれるのが、ただただ嬉しかった。

熱もだんだん下がってきてし、顔の病的なむくみもましになった。

あれだけ激怒してた家族も、まめに顔をだし、娘が嬉しそうな顔をしているのを見て、元々過保護気味で、娘に甘かった両親は、洋平さんが着てくれるように、バスカードやら、交通電子カードなど渡すようになってた。


<人生において、ある人にとっては、とても幸せで幸福な時間のとき、ときに別の人にとってはとても苦しい時を過ごしていることがある。>


私はそのことを、退院するまで気づけなかった。

洋平さんが、とても苦しんでいたことに。



退院してから、洋平さんと会っていたとき、洋平さんはよく私にこう聞くようになった。

「柚希、親と俺、どっちが大切?」

私は選ぶことができなかった。

「どっちも大切で選べない。」震えながら、正直にそういうと、

洋平さんは、ふーん。と不機嫌そうに毎回言う。


元々飲む人だったけど、洋平さんのお酒の飲む量がどんどん増えていった。

夜の街へ出かけていき、他の女の人の匂いをさせてくることも多くなった。

一緒に布団で眠ることは前から少なかったけど、洋平さんは私を抱かなくなった。

洋平さんの家で一人で眠り、洋平さんがPCの前でお酒を飲んだり、煙草を吸ってる気配を感じてた。

ただ、洋平さんのそばにいたかった。

洋平さんは、ほとんど眠らなくなってしまった。


洋平さんは、PCの前で動かないまま、呆然としてることが多くなってきた。

PCの前で呆然としている、洋平さんを後ろから抱きしめて、

横になるだけでも布団に入ったほうがいいよ。と言う。

濁った目。それすらも愛おしかった。

洋平さんの手を握って、布団のある部屋へ連れて行く。

抱きしめて、一緒に布団に入る。

「柚希にずっといえんかったことがある。」

うん。

「昔、親に暴力振るわれてた。母親も暴力を振るわれてて、それで、父親を刺して。」

「死んだ。こんなに簡単に人間て死ぬんやな。って思った。」

「刺したときの感触が忘れられん。この手で、殺した。」

うん。

「柚希が病気になったとき、柚希は死ぬんやなと思った。人間は簡単に死ぬから。」

「柚希の親も嫌いやった。俺のことが嫌いやのに、いろんなもん渡してきて。」

「愛されて当たり前のように笑っとる柚希のことも憎いと思った。」

「柚希の事が好きやのに、憎んでまう。また殺してしまいそうで怖いんや」

うん。

「っ!なんで俺から逃げへんのんやっ!逃げろやっ!!親んとこ帰れやっ!」

「絶対、いやっやっ!」泣き叫ぶように言った。


「私は洋平さんのことが、人殺しだろうが、何者であろうが好きや。殺されてもたぶん好きや。もうこれは仕方ない。引力みたいなもんにやられてしまった。」


「洋平さんか親かなんて、選べっても選べへん問題や。両方私にはいるからな。」


「洋平さんの書く小説も好きや!感性が好きや。最近書けてないやろ?洋平さん、物書きは恥かきってよく言うてたやろ!?じゃあ、今までの人生丸ごと、全部書きーや!

痛みにのたうち回ろうが、血反吐吐こうが、書けやっっっ!

書きたくとも書けなくて死ぬほど悔しくて苦しい気持ちとか、

PCに何十時間も向かってても、ずっと何も浮かんでこない気持ち書き殴れや!」


「そしたら…なにか変わるかもしれへんやろ…。涙」


泣きながら言いたいだけ言いきったら、眠くなってきた。

洋平さんもうつらうつらしてる。届いたかはわからない。それでもいい。

吐息が聞こえる。

安心できる音。大好きな音。布団に包まって眠る。



END

本当に拙い作品ですが、これはある小説家だったとても大切な人に向けて書きました。

一部分は、私小説でもあります。



大勢のつまづいてる人に読んでもらいたいと願います。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の細い心理描写が良かったと思います。 恋に落ちるところや日常の描写など、よく伝わってきました。 最後は切なくなりました。 2人に幸せになってほしいです。
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