トカゲ男がやらかしました
手足があるためトカゲ寄りのリザードマンと呼ばれますが、私の作中ではヘビの特性も持たせてます。
・ ・ ・
リザードマン。
戦場の死神、湿地帯の悪魔、ゲリラ戦最強種族。
堅い天然の鎧を身に纏ってなお機動力は健在。
湿地帯だろうと森林地帯だろうとその走力が落ちることはない。
最も厄介な能力は熱源探知による索敵だろう。
隠れても、闇に紛れても、リザードマンからは逃げられない。
それが戦闘種族たる所以。
それがリザードマン。
…
………
……………
【喫茶アンズ】【休業中】
店内で床を削らんばかりに土下座するトカゲ男、カブト。
リザードマンの鱗が床に当たるから本当にガリガリ音が鳴る。
話は少しだけさかのぼる。
結論から言おう、夕方から開いた喫茶店は大繁盛した。
特に告知はしていなかったのだがソマリの客引能力が凄まじかった。
ソマリの透き通った歌声に導かれ、道行く人々が次々と入ってくるのだ。
心地よいソプラノが耳を通り脳に染み込む。
焼き魚と水とミルクしか置いてないのに誰も文句一つ言わない。
魚とミルクの在庫が無くなり、もう水を売るだけの店になっていた。
まぁ、元々在庫は少なかったらしい。
ソマリの歌声を肴に水を飲む客たち。
見た目には酒を飲んでるようにしか見えないだろう。
本当は酒なんじゃないのか?と疑うほどに盛り上がっていた。
「水1杯で居座る気かニャ?ソマリの歌が聴きたいならもう1杯買えニャ」
「アンズちゃーん!水おかわり!」
「こっちも水おかわりだ!」
「とりあえず水!ジョッキで!」
元手がタダの井戸水が飛ぶように売れてアンズは上機嫌。
しかし次の出来事で快進撃はあっけなく終わりを告げることとなる。
ソマリがアップテンポな曲を歌いながら踊りだす。
弾けるようなスタッカートに合わせて手足をパタパタ。
アイドル?いやいやどっちかというとお遊戯会を思わせる振り付け。
少女のようにあどけない猫族がやると実に可愛い、実にハマっている。
手足を揃えて右へ左へ、手拍子パンッパンッ、ターンしてウインク!
興奮して立ち上がるロリコ…猫好きたち。
スタンディングオベーションの大喝采。
「今!今俺にウインクした!」
「はぁ!?バカ言ってんなよ!?俺だ!」
「ソマリちゃーーん!!結婚してくれー!」
そして感極まった客が一人、机に足を乗せて雄叫びを上げる。
そう、入店を許された猫大好きなトカゲ野郎だ。
ただでさえヒビの入った机は豪快に割れ、客たちの視線を一身に浴びる。
「うおおぉぉぉおおお!!ソーーマーーリーーちゃーーーん!!今の!今のウインク俺にだろ!?イオリの旦那ぁ!今ソマリちゃんこっち向いてたよな!」
いつの間にか呼び方が「兄ちゃん」から「旦那」に変わってるのは敬意の現れだろうか。
いや、今はそんな事はどうでも良い。
リザードマンがどういう認識で見られているのか、よく分かる結果が訪れる。
「うわあぁぁ!リザードマンだ!戦場の死神だ!」
「なんか興奮してるぞ!やべぇ!机壊して暴れてる!」
「ひいぃぃい!!逃げろぉぉー!!」
「こ…、殺されるぅ!」
一目散に退散する客たち。
出口の扉はパンパンのすし詰め状態、みんな我先にと飛び出していく。
我に反ったリザードマン、カブトが土下座して今に至る。
「これは…しばらく悪い噂が流れるだろうなぁ」
「どうするニャ!客来なくなっちゃうニャ!」
「すまねぇ!ほんとにすまねぇ!」
めり込む程に頭を床に付けての渾身の土下座。
本当に心からの土下座というものを産まれて初めて見た気がする。
「どうしようかな…」
「カブトさん出入り禁止ナァ?」
ソマリの一言にビクッと体を震わせて狼狽える戦闘種族。
懇願する目で僕を見るエリート戦闘種族。
女の子の一言に怯えて泣きそうになってる戦場の死神。
なるほど、確かに落ちこぼれだ。
「じゃあ、こうしようか。カブトさんにこの喫茶店の内装工事全額負担してもらうとか」
「イ…イオリの旦那ぁ…、流石に全額は…」
「じゃあ出禁だニャ」
「出入り禁止ナァ」
「これからもっと猫も増えて行くんだけどなぁ」
「待って!払う!払うよ!!ここ以外に俺を受け入れてくれそうな猫族なんていないんだよ!…やっと手に入れたオアシスなんだ」
「はい、じゃあ契約成立ってことで」
「どうせならお店広くしたいニャ」
「可愛い家具欲しいナァ」
アンズもソマリも搾り取れるだけ搾り取る気満々で少しだけカブトが気の毒になる。
まぁ、自業自得だ。カブトには泣いていただこう。
リザードマン、RPGとかだと亜人種の中でも弱い扱い受けてるけど、ほんとはかなり強いはずなんですよね。
まぁ、私の作中でカブトが戦うかどうかは分かりませんが。
おそらく搾取され続けます(笑)