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不審なトカゲがいました

猫の大集会、それは猫の王が現れた知らせ。

その知らせは猫以外にも知れ渡る。


───


美味しいミルクを召し上がれ、最後は生きた保存食。


生かしておけば腐らない?

ノンノン腐る、腐り落ちるの心がポトリ。



ああ、愛し愛される存在、猫の王。

ああ、猫の王、猫の王猫の王猫の王。


その可愛い尻尾を噛みちぎりたい。

おそろいね。


その可愛い目玉が欲しい。

私のをあげる。



私は家畜、卑しい家畜。家畜の王。


祝福受けぬ悪魔の獣。


もう少し、もう少し待ってて猫の王。

愛くるしい猫の王。

可愛い可愛い猫の王。


絶対に、絶対に会いに行く。


───────────────



 ・ ・ ・


「おおふ、なんか寒気が」

元居た町に戻ってきた猫族3人、僕とアンズに加えてソマリも一緒に居る。

ソマリは違う町に住んでいるのだがアンズと一緒に城を出る事で同じ場所へ出れるようだ。


「イオリ王さま大丈夫ナァ?」

「うん、大丈夫。あと王様なんて柄じゃないよ、イオリで良いよ」

「ナァ?じゃあ…イオリ…さん?」

「まぁ、呼びやすければなんでもいいや」

「イオリさんナァ」


ソマリはアンズに比べるとだいぶ育ちが良さそうなお嬢さんだ。

血統書付きと雑種くらい品格に差がある。

なんて、そんな考えを見透かされたのかアンズの視線が痛い。


「イオリ!ソマリに手ぇ出すニャよ?」

「え、そんなことしないよ!」

「私にキスさせようとしたくせによく言うニャ。ソマリは可愛いからニャ、心配ニャ」

「あれは、ちょっと試してみたくて」

「私はそんなお手軽なのかニャ!?」

「う…、反省しております」


「分かればいいニャ、こうして大通りを歩けるのもイオリのおかげだしニャ」


ここは僕が最初に居た場所だ、この町の大通りだったのか。

そんな所を無防備に歩いていた僕をアンズは心配して駆け付けてくれた。

アンズには世話になりっぱなしだなとつくづく思う。


世話になった人と言えば最初に会った猫好きのトカゲ男。

そのトカゲ男のお店が右手側に見えた。

まだ開店前なのかあのトカゲ男の姿は見えない。


そこよりも更に町の大通りを進んで行くと左手側に猫の形の看板が見えた。

看板に書いてある文字は未だに読めない。


「ここニャ、喫茶店【アンズ】。でも今日は誰かさんのせいで寝不足ニャ、夜の営業だけにするニャ。私は少し寝るニャ」

「ほんと、何から何まで申し訳ない」


僕がマタタビで目を回して倒れている間アンズはずっと起きていたのだろう。


このお店からトカゲ男の店が遠目に見える。

なるほど、アンズはここから駆け付けてくれたのか。


お店に入ると爽やかな鐘の音とともにコーヒーの匂いがした。

ああ、僕の元の世界の喫茶店の香りだ。

ひび割れた木のテーブルと椅子も趣き深い。

とは言ってられないか、これは交換するべきだろう。


「コーヒーもやってるの?水とミルクしか無いって聞いてたのに」

「コーヒー?…ああ、あの香炭の名前だったニャね。良い匂いニャ」

「飲んだりはしないの?」

「豆をどうやって飲むニャ?それにあれ苦いニャ、口に入れるものじゃ無いニャ」


なるほど、こっちの世界ではコーヒー豆は香りを楽しむものなのか。

しかしコーヒー豆があるなら飲み物のレパートリーは増やせる。

元の世界では自分で挽いて飲んでいたからやれるはずだ。

中二病をこじらせてミル買って無理して飲んでいたらいつしか好きになっていた。


「まぁ、私は寝るニャ」


アンズはそう言って奥の部屋へと消えてしまった。

喫茶店のホールでソマリと二人きり。


「…イオリさんはここ来る前は何やってた人ナァ?」

ソマリが先に喋り出す、気を遣わせてしまっただろうか。

「んー、学生かな。学校っていう所で毎日勉強するんだ」

「学者さんだったナァ!?わー、すごいナァ、良いとこのお坊ちゃんナァ」

「え、いや。僕なんて成績中の下で…」

「尊敬しちゃうナァ」

「う…、そんなキラキラした目で見ないで」


勉強なんてそっちのけで部活に専念してたし、家に帰ったら猫と遊ぶかゲームしてるか。

ちゃんと勉強してれば元の世界の智識で無双できたりしたのかもしれない。

こっちの世界には無い物を作ったりも出来たはずだ。

勉強なんて何の役に立つのか分からなかったけど、異世界に来ると知ってればもっと智識を頭に詰め込んでおいたのに。



しばらくソマリと会話してたらいつの間にか陽が真上まで昇っていた。

奥の部屋からアンズが眠そうに出てくる。


「あ、アンズ。寝れた?」

「うニャ…」

「眠そうだね」

「ニャふ…」


「ニャ!?」

しばらくボーッとしてたアンズが急に目を見開きビクッとする。

喫茶店の窓から外を見た後、僕の陰に隠れてしまう。


「アンズ?どうしたの?」

「またあいつが居るニャ…」

「あいつ?」


僕も窓の外を見て一目でそれに気付いた。

窓の外からソワソワウロウロと店内を覗いたりする不審トカゲ。

ああ、あの武器防具屋の猫好き店主だ…。


「よく来るの?」

「きっと地上げ屋ニャ、怖い顔だから間違い無いニャ」

「いやいや、近くのお店の店主さんだよ」

「ニャ!?うちの店を潰そうと偵察してるのかニャ」

「いやいや、良い人だから。知り合いだからちょっと話してくるよ」



外に出ると不審なトカゲ男は僕に気付いてビクッとする。

なんであんたがびびるんだ。


「武器防具屋の店主さんだよね?どうしたの?」

「あ、ああ!あの時の兄ちゃんじゃないか!ここの店員だったのか」

「今日からね。まだ店開けて無いけど、何の用?」

「あ、そうか…、悩んで損したわ…」

「もしかして、入りたいの?」


猫好きなトカゲ男のことだ、アンズがやってる店だってリサーチ済みだったろう。


「お、俺みたいな厳ついリザードマンが入ったら営業妨害になるんじゃねぇかと思ってよ。ずっと店の前まで来ては引き返す日々さ」

「リザードマンって怖がられるの?」

「まぁ、戦闘種族だからな。堅い鱗に覆われ、隠れた相手を熱源で索敵する。けっこうエリート種族なんだぜ?俺は落ちこぼれだがな。本当は可愛い家具とか雑貨とか売りてぇんだが…、店主がリザードマンじゃ武器防具しか売れねぇわ」

「確かに怖いもんね」

「!?…そうか、兄ちゃんも本当は怖かったんだな」

「正直怖いね」


トカゲ男は落胆しトボトボと自分の店に戻ろうとする。

サボって来てたのか、それほど猫族のお店が気になってたのか。


確か可愛い家具や雑貨を取り扱いたいとか言ってたな、それなら…。


「待って!僕の名前はイオリ。この店を猫でいっぱいにするつもりなんだけど、協力してくれないかな?報酬は…」


言い終わる前にトカゲ男は満面の笑みで僕の手を握る。

怖い…、怖いから…。


「おっと!野暮なこと言わなくて良いぜ!乗った!俺の名前はカブトだ」

「内容聞かなくて良いの?」

「良い!…その代わり、その、ちょくちょく店に顔出して良いか?近いしよう」

「まぁ、店の前でウロウロされるよりは良いと思うよ」

「いよぉっし!そうと決まればさっそくオーダーしてくれよ!」

「いや、ここの店長アンズだから、また今度ね」

「おう!いやぁ、楽しみだなぁ、気軽に声かけてくれよ!じゃあまたな!」


そう言ってさっきとはうって変わって意気揚々と立ち去るトカゲ男、もといカブト。



「ただいまー」

「イオリ!あの不審人物なんなんだニャ!?」

「んー、あしながおじさん、かな。可愛い家具が激安で手に入りそうだ」

「…ニャ?」



家畜の王、何の動物か分かりましたでしょうか。

まぁ、ひとまず忘れてください。


猫、コーヒー。

残念ながらジャコウネコは出ません。

………出ませんよ!?

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