義姉様、悪役令嬢やめるってよ。
転生している事は分かっていたんだ。
前世の、日本で暮らしていた記憶があったし。
でも、まさかココが日本で発売された『乙女ゲーム』と同じ世界だと言うのには驚いたね。
確かに国名とか、”何か聞き覚えが有るな。”とは思ってたんだよ。
俺はヴァルテン公爵に背中を押され、義姉に成る、ヴィクトリア公爵令嬢の前に出される。
悪役令嬢、ヴィクトリア・エリー・ヴァルテン(10)
前世で妹にスチルコンプを手伝わされた『乙女ゲーム』の悪役令嬢。
そして俺は、ヴァルテン公爵が仕事で王宮に行った際に、行儀見習いで王宮のメイドをしていた男爵令嬢に手を出して出来た息子。
名前は、ザイオン・シド・ヴァルテン(10)ゲームの攻略対象キャラだ。
俺は母親の死を機に、第二王子の婚約者に成ったヴィクトリアの代わりに、ヴァルテン家の跡取りに成る為、養子として引き取られた。
ゲームではこれから、この、めっちゃ睨んで来ている義姉に散々虐められて、女性不信の女誑しの遊び人に育つ予定。
っつうか、虐められて女性不信なのに、女誑しの遊び人って意味が分かんねぇよ。
矛盾してんじゃねぇか?
女性不信なら、頑固で偏屈な女嫌いになるか、女性恐怖症で女を避けるかするんじゃねぇの?
自ら女に、誑し込みに近づくって、俺には良く分かんねぇわ。
ちなみに俺は、おとなしく虐めを受ける様な男じゃねぇぞ。
やられたら倍にしてやりかえす。
右の頬を打たれたら、左の頬を助走付けて跳び蹴りが信条。
そもそも、俺は妹に頼まれて、仕方なく『乙女ゲーム』なんぞやってただけで
俺自身はゾンビを撃ちまくったり、巨大なモンスターをハントしたりって言う、アクション系ゲームが好きだ。
この世界に魔法があって魔物が居て、今世の俺に魔法の才能が有ると来れば、進む道は冒険者一択だろ。
実家から勘当された母親と、今まで平民として街中で暮らしていたわけだし、貴族の身分に未練も興味も無ぇ。
義姉がゲーム通りに主人公を虐めて、断罪と婚約破棄されようが、どうでも良い。
その結果、公爵家が没落するなら望むところ。
こんな家、さっさとおさらばしてやるよ。
さぁて。義姉様よ、俺を虐めてぇなら、反撃覚悟でかかって来い。
その日からのヴァルテン公爵家は、戦場と化した。
新しく家族となる為にやって来た、妾腹のザイオンを認められず、暴言や嫌がらせ、さらに暴力を繰り返すヴィクトリア嬢と、それを上回る暴言で撃退し、嫌がらせの域を通り越した反撃を繰り返すザイオン。
愛人との旅行や、賭博といった遊びに時間を費やし、子供達に全く興味を示さず、中々帰って来ない公爵夫妻。
ヴァルテン公爵家の家庭環境は、壊れきっていた。
3ヵ月もすると、公爵家の屋敷の中は、盗賊団が襲撃したかの様な有り様に成っている。
荒れ果てた室内は2人の子供達の戦争による物だ。
ヴィクトリアがザイオンに、バケツに入った豚の血を浴びせると、
ザイオンがヴィクトリアの衣裳部屋を爆破するといった具合で、日に日に争いが激化していく。
壁紙は剥がれ、壁の所々が煤け、壁のいたる所に謎のシミが付き、窓は割れ、家具は破壊され、絨毯は裂け、調度品が砕け散っていると言う、まるで廃墟の様な惨状に、召使たちは屋敷の掃除を放棄した。
姉弟喧嘩の規模を超えた争いに、割って入り、諫められる様な存在は、もはやこの屋敷に存在しなかった。
ザイオンが来る前から、気に入らない使用人はすぐにクビにする、我儘なヴィクトリアと
使用人達には友好的だが、敵のアジトを襲撃・制圧するかの様な攻撃を自宅に向けて行う、思想や行動が過激すぎるザイオン。
この2人を止められない使用人達を、一体誰が責められるだろうか。
このままではヴァルテン公爵家が(物理的に)倒壊するのでは・・・
と思われた頃、この戦争は唐突に終結した。
それは、ある寒い日の朝だった。
朝の身支度を終えたヴィクトリアは、ホールに繋がる階段を降りていると、視界の隅に入るキラキラした光に気付いた。
光につられ視線を上へと向けると、吹き抜けの割れた窓の硝子の隙間から光が差し込み、舞い上がる埃にキラキラと反射していた。
そのキラキラ輝く埃から目を離せ無いまま、階段を降りると、踏みしめた床からチャリチャリと音がする。
ヴィクトリアは床に視線を向ける。
割れたガラスの粒や、花瓶や額縁、鏡といった物の残骸と破片が、ホール中に散らばり、砂埃が薄っすらと溜まっている。
それらすべてが、窓や壁や屋根から差し込む光を反射し、キラキラと輝いていた。
それは、打ち捨てられた廃墟の様で、それでいて幻想的で、冷たい朝の空気の中、白い息を吐きながらヴィクトリアは、ホールの真ん中に立ち尽くす。
いつしかヴィクトリアは微笑んでいた。
気の強そうな両目から、涙を零しながら、微笑んでいた。
家庭をかえりみらずに、遊び呆けて戻らない両親と、その両親に全く興味を持たれない自分。
公爵家の為に政略で結ばれた婚約と、自分に見向きもしてくれない婚約者。
貴族として振る舞う事を、厳しく言いつけながらも、何一つとして期待していない周囲の人達。
自身を取り巻く様々な環境に、怒りや不満を外に出す機会を失い続けて、重く暗くドロドロしていた心の内が、スッキリと晴れていた。
私。こんなに暴れたのね。
あぁ、なんて気持ちの良い位に、壊れているのかしら。
私の大嫌いなこの檻は、その気になればこうして壊せるんだわ。
いいえ、違うわね。一人じゃ無理ね。
きっと私ひとりじゃ、ココまで全てをぶちまける様に、全てを壊す様に、大暴れなんて出来なかったわ。
ザイオンが来なければ、私はいつまでもドロドロした気持ちを溜め込んだまま、ドロドロした気持ちを外に出せないまま、ずっと自分の内側に囚われて居た筈よ。
嫌な事全部、爆発させて、今ではこんなにスッキリしている。
まるで、今まで居た世界とは違う世界に居るみたいだわ。
生まれ変わった気分よ。
ボロボロに破壊されてしまった屋敷だけど、光を浴びてキラキラして本当に綺麗。
「あぁ・・・本当に・・・・お外は、なんて綺麗なのかしら。」
ヴィクトリアは使用人が迎えに来るまで、朝の光を浴びて輝く、荒れ果てたホールを眺め続けた。
ヴァルテン公爵家の広い敷地内で、ザイオンは毎朝魔法の練習をしていた。
「ちっ!!ゲーム通り、俺が使えるのは火と風と土か。雷とか派手な奴使いてぇんだけど、雷魔法が存在しねぇってどういう事だよ。」
ブツブツ文句を言いつつ、炎を生み出しては操って行く。
本来ならば発動したい魔法のイメージを固める為に、詠唱を行うのだが、前世でアニメやゲーム、CGを駆使したアクションムービーを見ていたザイオンは、詠唱せずとも想像力だけで魔法を発動する事が出来た。
ちなみに、ザイオンはこの世界の人間が、魔法を発動するために詠唱を行っている事を知らなかった。
そして今朝は、次々と無詠唱で、見た事も無いような使い方で魔法を発動しているザイオンを、探しに来ていたヴィクトリアと使用人達が、呆然と見ている事にも気付いていなかった。
「ん~。細かい操作は、上手く出来てんじゃねぇかなぁ・・・・。後は大技か。敷地内で大技の魔法は不味いかも知れねぇけど、こんだけ広けりゃまぁ大丈夫だろ。」
まずは、操作の簡単そうな炎の壁とかか?
結構、使い道の有りそうな魔法だから、試してみる価値はあるよな。
腕を横に払う様に動かしながら炎の壁を作る。
高さ1M程の炎の壁で、自分の周囲を囲む。
「おっ!!簡単に出来たな。・・・ん?あれ?この壁、どうやって消せば良いんだ?俺、水系の魔法は使えねぇしなぁ・・・。風は火力を増すし。・・・あぁ、強めの風で力押しで消せば何とかなるか?」
火を吹き消すように、渦を巻くように風を作り出す。
しかし火は消えないどころか強さを増し、炎の竜巻もどきへと姿を変えた。
ザイオンを中心に。
「うぉぉぉぉっ!!やべぇ!!閉じ込められたっ!!コレ死ぬわっ!!」
突如、炎の竜巻に飲み込まれた義弟の姿に、ヴィクトリアは悲鳴を上げる。
「いやぁぁぁぁっ!!ザイオーーーーーンっ!!!」
半狂乱で何度も水の魔法の詠唱を組み立て、炎の竜巻に水をかけ続ける。
ヴィクトリアの魔力が枯渇する頃、ようやく炎は消し止められ、蒸気の中からザイオンがひょっこり姿を現した。
「ふははははは。やっべぇ!!マジやっべぇ!!焼け死ぬかと思ったし、蒸し焼きになるかと思った。あっはっは!まじウケルっ!!」
爆笑するザイオンのその姿に、ヴィクトリアと、使用人達はその場に崩れ落ちた。
「・・・・ザイオン・・。貴方ねぇ・・・笑い事じゃ有りませんことよ。」
「おっ!!今の水の魔法、姉貴のか。超助かったっ!!まじサンキュー!!」
何処までも軽いザイオンの様子に、気が抜けたのか、ヴィクトリアの両目からボロボロと涙が零れ落ちる。
どんどん涙の量は増えて行き、最後にはしゃくり上げながらの号泣へと変わった。
「・・・・おい。どうした?姉貴何で泣いてんの?」
「うぐっ・・・・・ひっく・・・目の・・・目の前で、人が焼け死ぬかと・・・ひっく・・・思いましたわぁ・・・」
ザイオンは、指先で頬を掻く。
あぁ~。確かに10歳の女の子の目の前で、人が火だるまになって焼け死んだら、トラウマもんだわな。
そりゃ、泣くわ。
普段、気が強くて、俺の反撃をものともせずに、えぐい嫌がらせをしてくるもんだから、勝手にこの位の出来事は大丈夫だと思っていたわ。
「スマンスマン。次は気を付けて、水か何か用意しておくわ。」
「っ!?・・・まだやるつもりですのっ?!」
この日から、何故かヴィクトリアの嫌がらせはパタリと止み、その為ザイオンの反撃行為も無くなった。
使用人達は、屋敷の破壊行為が無くなった事に安堵し、屋敷も少しずつ片付けられ、修復されて行った。
毎日の日課として、ストレッチをした後、ヴァルテン公爵家敷地内を走り、筋トレを行い、敷地内の林や、屋敷周辺をパルクール。
アクロバティックな動きも出来る様に、時々フリーランニングに変えながら駆け抜ける。
流石、乙女ゲームの攻略対象。
生まれ持ったスペックが高いのか、鍛えれば鍛える程に、成長できるっ!!
ひたすら、動いて仕上げにもう一度ストレッチ。
「よし、冒険者に成るなら魔法だけじゃ無く、武器の使い方にも慣れておくべきだな。まずは短剣から練習するか。」
短剣を構えて素振りをしたり、前世で見たゲームやアニメの動きを真似てみる。
時々、無駄にアクロバティックな動きも混ぜてみる。
「な~んか、相手が居ねぇと、やる気が起きねぇな。ゴーレムでも作ってみるか。」
まずは自分と同サイズのゴーレムを、土魔法で作り、戦う。
あっさりと倒せてしまった。
次に、大人サイズを作ってみる。
これもやはり、あっさりと倒してしまう。
「ん~?俺の作るゴーレム、弱すぎじゃね?短剣初心者の10歳児に倒せる様じゃ、実践では使い物にならねぇわ。時間のある時に、要改良だな。」
次に3M程のゴーレムを作ってみる。
巨大な割に、今までのゴーレムと同じくらいの速さで動く。
そのスピードは驚異的な物が有るのだが、そんな事などザイオンは知らない。
そして、一撃が一撃が重く、なおかつ硬い。
「おっ!!良い感じの訓練相手が出来たんじゃねぇの?やりがいが有るなっ!!」
流石に10歳児の体格で、ゴーレムの攻撃をモロに受けると怪我では済まない。
チョロチョロとすばしっこく動き回り、ゴーレムにまとわりつくように短剣や拳、蹴りで砕いて行く。
ゴーレムがザイオンを叩き潰そうと暴れ、地面を打ち付けるたびに、轟音が響く。
その轟音を聞きつけ、何事かと使用人とヴィクトリアが駆けつけた。
そこで彼らが見たのは、敷地内に突如として現れた3M超えの、有り得ない速さで動くゴーレム。
そして、そのゴーレムと戦う、驚くべき速さで動き回るザイオンの姿だった。
加勢に入るべきか悩むが、正直、B級冒険者でも太刀打ち出来るのか分からない、恐ろしい性能を持ったゴーレムと、ザイオンの戦いに踏み込んで、無事に済む訳が無い。
「何故、こんな恐ろしいゴーレムが、我が屋敷の敷地内にっ?!」
衛兵に助けを呼びに行くか、という時、決着が付いた。
ザイオンがゴーレムの懐に入り、胴体部分を打ち砕いたのだ。
そして、力尽きたゴーレムは土へと戻り、崩れて行き・・・・・
うっかり、ザイオンは生き埋めに成った。
「いやぁぁぁぁっ!!ザイオーーーーーンっ!!!」
慌ててヴィクトリアは、ゴーレムだった土の山に駆け寄ると、号泣しながら跪き、素手で土を掘り返す。
呆然としていた使用人達も、我に返り、土を掘り返していく。
無事、土の中から救出されたザイオンは、軽い感じで手を挙げる。
「よぉ、姉貴。まじ助かったわ。今回マジで死ぬかと思った。あれ?何で泣いてんの?」
「うぐっ・・・・・ひっく・・・目の・・・目の前で、人が生き埋めに成って死ぬかと・・・ひっく・・・思いましたわぁ・・・」
ザイオンは、指先で頬を掻く。
あぁ~。確かに10歳の女の子の目の前で、人が生き埋めに成って死んだら、トラウマもんだわな。
そりゃ、泣くわ。
「スマンスマン。次は気を付けて、誰かに見守りを頼んでからゴーレム作るわ。」
「っ!?・・・貴方が作ったゴーレムでしたのっ?!」
この日から、何故かヴィクトリアはザイオンの傍に常に居る様に成り、ザイオンの行動に目を光らせる事に成った。
その日々は、ヴィクトリアにとって苦難の毎日だった
ある時は、ザイオンが土魔法で地下の秘密基地を作ろうと、10M程の深い縦穴を掘り、途中で飽きて放置し、穴の存在を忘れていたザイオンが転げ落ちる。
「いやぁぁぁぁっ!!ザイオーーーーーンっ!!!」
ある時は、ザイオンが風魔法で空を飛ぼうと、空高く舞い上がたまま、制御不能になり木の葉の様に舞う。
「いやぁぁぁぁっ!!ザイオーーーーーンっ!!!」
ある時は、ザイオンが火の魔法の応用を行い、敷地内の林を吹き飛ばし、その衝撃波で吹っ飛んでいく。
「ザイオーーーーーンっ!!!」
始めの頃は、ザイオンの身を案じる様なヴィクトリアの叫びだったが、1年もすると、怒りを帯びた叫びへと変わって行った。
更にヴィクトリアは、驚異的な速さで走り回り、敷地内や街中でフリーランニングを行うザイオンを追い駆けるために、ザイオンと一緒に毎日魔法の練習や、パルクール、戦闘訓練を行うようになった。
すっかり駄目な義弟の面倒を見る、しっかり者の義姉に成ったヴィクトリアは、今までの傲慢さは無くなり、使用人との関係も良くなって来た。
遊び呆けて、家庭に全く興味の無い両親との関係は、何も変わらなかったが。
ザイオンの方も、公爵夫妻には何の興味も無く、どうでも良い存在で有るのは変わらなかったが
ヴィクトリアについては、唯一の家族の様に思えて来た。
いや、家族と言うよりも戦友に近いかも知れない。
最近のヴィクトリアは、自分の出来る事が増えて楽しいのか、ザイオンの実験や悪ふざけに付き合い、悪乗りもする様にもなって来ていた。
「なぁ、姉貴。もうすぐ学園に入学だな。」
15歳に成った、ザイオンとヴィクトリアは、来月にはゲームの舞台となる学園の入学を控えていた。
入学と同時に、ゲームが開始される。
だが、ゲームのヴィクトリアと、今のヴィクトリアは性格が全く変わっている。
性格だけでは無く、見た目も変わっていた。
縦ロールの髪、濃い化粧に、豪華なドレスに身を包む、ゲームの悪役令嬢の姿とは違い
今のヴィクトリアは長い髪が邪魔に成らない様、頭のてっぺんから、きっちり編み込み一本の三つ編みにし、顔も美容液で整える程度で、スッピンだ。
衣装に至っては、走り回ると汚れるし動きにくいからと、ドレスは止め、俺のお下がりの男物を着ている。
「そうね、一時的とはいえ、この家から離れられるのは良い気分だわ。」
「姉貴、卒業したら、第二王子と結婚予定だろ?準備とか無ぇのか?」
まぁ、婚約破棄される可能性が有るから、無駄な準備に成るかも知れ無ぇけどな。
「私、王子と結婚して王宮に入るの、嫌なのよね。卒業したらそのまま旅に出てしまいたい。世界中、色々な所を見て回るの。昔の自分なら、狭い世界でも満足だったのかもしれないけど、その狭い世界を壊して、その隙間から外の世界を見てしまった”あの時”から、外の世界の美しさに心を奪われているの。狭い世界から飛び出して、広い世界が見てみたい。今の私なら出来る筈だという事が、その気持ちを諦められずに、捨てられずにいるの。」
ふ~ん。まぁ、俺も学園卒業と同時に行方をくらますつもりだったから
公爵家の跡取りが居なくなって、ひと騒動有るだろうし
両親は遊ぶ金を得るために色々やらかしているみたいだから、姉貴が断罪されなくても、そのうちそれが明るみに成って、この家が没落するのも時間の問題だ。
そしたら、実家の失態によって姉貴の結婚も無くなるだろうし、この家を出て、世界中を旅する人生が送れるように成るかも知れねぇな。
「俺卒業したらココを出て、名前も捨てて、冒険者に成るつもりだから、姉貴もそれを前提に学院に居る間、先の事を考えとけよ。」
「えっ?!何ですって?!貴方はヴァルテン公爵家の跡取りなのよ?出て行っていい訳無いじゃない。」
「姉貴、よく考えろ。俺は公爵には向いて無い。それに、あの両親見てれば分かるだろ?遊ぶ資金を得るために、何かしらの不正をしてるぞ。俺は不正の片棒を担がされるのも、不正の尻拭いもごめんだ。」
俺の言葉に、しばらく考え込んだ姉貴だったが、納得したのか頷いた。
そこに、たたみかける様に、俺は言葉を続けて行く。
「それに、あんなに派手に遊んで居るんだから、そのうち国から不審がられて調べられるぞ、不正が明るみに成って没落するのも時間の問題だ。俺は、こんな家や両親と一緒に破滅したくは無ぇよ。」
ゲームでの俺は、義姉や両親が失脚しても、王子からの信頼を得る事が出来て、側近としてとりたてて貰えるんだが、今の俺じゃ無理だし、側近にされるのはお断りだ。
更に考え込んだ姉貴は、スッキリした表情で顔を上げる。
「私も卒業したら、この家を出るっ!!王子との婚約は学園に居る間に、何とか解消して貰うわっ!!」
「ふ~ん。王子との婚約を解消するっていう事は、学園で『悪役令嬢』やらないって事?」
「『悪役令嬢』って何よ?!そんな物に成った覚えは無いわっ!!」
「ほら、王子の婚約者で有る事を笠に着て、幅を利かせたり、王子に近づく女どもを牽制したりとか。」
「しないわよっ!そんな事!私王子に興味無いから、近づく女が居るなら、私の立場なんてラッピングして差し上げるわっ!!」
なるほど、姉貴が『悪役令嬢』しないんだったら、姉貴の断罪は無くなるかな。
婚約破棄はするようだけど。
「じゃあ卒業後、旅に慣れるまで、しばらく一緒に冒険者するか?」
この5年間の間に、戦友となった姉貴となら、上手くパーティー組めそうな気がするんだよな。
「初めからそのつもりよ。貴方、目を離すと危なっかしいんだから、信頼できる人に預けられるまでは、私が監督するわ。」
「なら、学園在学中は、冒険者に成る準備に充てるか。」
「そうしましょ。」
こうして、悪役令嬢をやめた姉貴と、ゲームの舞台となる学園に入学する事に成る。
入学から、卒業するまでの2年間の間に、俺達は学園で様々な事件を巻き起こし
攻略対象者たちや、ヒロイン達の恋模様を知らぬ間に引っかき回し
濡れ衣を着せられかけたり、撃退したり、倍返ししたり、学園の一部を吹き飛ばしたりして
学園で、ヴァルテン悪鬼姉弟として語り継がれる事に成るのは、別の話だ。
※パルクール:特別な道具を使わずに、人工物や障害物によって、動きを途切れさせる事無く移動する技術。壁や地形を生かして、走る・登る・飛ぶと言った動作を組み合わせた「運動」。「競技」では無い。フランスの「ヤマカシ」と呼ばれるグループが有名。
※フリーランニング:パルクールに、宙返りといったアクロバティックな動きを組み合わせて、パフォーマンス性を持たせた物。
誤表記の指摘有難うございますっ!!
一部修正しましたっ!!
ヴィクトリアは「異母姉」に成るのですが、ザイオンが庶子から養子に入っているので、面倒なので「義姉」としています。
混乱させてしまい申し訳ないですっ!!
すみません。よく考えたら「恋愛カテゴリー」じゃありませんでした。修正してます。