第9章 クリスマスプレゼント
クリスマスプレゼント
あれから何もなく、一ヶ月以上が過ぎた。
僕の足も治り、練習も再開していた。
「クリスマスどうする?」
れんちゃんがみんなに聞いた。
野暮な話しをするもんだ。
僕たちの中で、彼女が居ないのは、れんちゃんとあっくんと僕だけ。
「何もないよ」
「寂しいなぁ、高二のクリスマスに何もないなんて」
まさか男三人でクリスマスパーティーでもやろうと言うんじゃないだろなぁ。
「カラオケでも行くか」
来た!やめようよ、れんちゃん。
「よぉ、寂しい三人。」
野球部一のモテ男、斉藤が話しに入ってきた。
「別に寂しい訳やないで」
明らかな負け惜しみだった。
「男三人でクリスマス過ごそうなんて考えてへんやろなぁ」
斉藤の言葉が三人を突き刺した。
「そんな訳ないやろ」
今さっきカラオケに行こうと言っていたはずの、れんちゃんが斉藤に言いかえした。
「まぁ、17歳のクリスマス楽しめや」
こう言う時のモテ男、斉藤はむかつく!
確かに ガッツで行こうに出て以来、何人かの女の子から告白された。
でも、それに両手を上げて答える事は出来なかった。
クリスマスまであと少し、家でゆっくりかな?
そんな事を考えていると、監督が猛然とこっちに走ってきた。
「お前ら、まだおったか、今さっき電話があって、伏魔殿が小泉の一件で専門調査会を作ったそうや」
監督は興奮していた。
僕たちも最初は意味がわからなかったけど、監督の説明に改めて歓喜の雄叫びをあげた。
「こいちゃんは試合出れるんですか」
「まだや、ただしかなりの前進や!来年三月には結論を出すそうや」
何だかアドレナリンが上がってる感じだった。
七月にハガキを出して、5ヶ月足らずでここまで来たか。
まだ、試合に出れる訳ではないが、かなり前進した安堵感があった。
彼女からクリスマスプレゼントをもらえない僕にとっては、この話しはまさに、クリスマスプレゼントだった。
「うっちゃん、甲子園行くぞ。こいちゃんも一緒に」
れんちゃんの言葉に大きく頷いた。
こいちゃんも知らせを聞いて興奮気味だった。
テレビの放送があってからは、必ず誰かが、こいちゃんと一緒に帰る事にしている。
大体が僕かれんちゃんかやまちゃんだ。
「こいちゃん一歩前進やな」
「ありがとう、うっちゃんのおかげやわ」
今日はれんちゃんもやまちゃんも「どんぐり」に寄ってくので僕だけだった。
「うっちゃんクリスマスは?」
「何もあるわけないやん」
こいちゃんまでそこいじるか!
「こいちゃんこそ、どないなん?最近は彼氏のかの字もないな」
「野球やって勉強やってたら、恋愛の時間ないわ」
確かに、恋愛の時間はない。と言う事にしておこう。
中学の時にサッカー部の和田明正と付き合って以来、彼氏らしき男の影はない。
結構モテるはずなんやけど。
「うっちゃん、いつから彼女おらへんの?」
「高校入ってから」
「寂しい奴やなぁ」
それはお互い様やで。
「結構、最近モテてるやろ?」
「モテても彼女が出来るのは別やで」
僕は身長178センチ、体重75キロ
確かに男前ではないが、ブサイクでもないと思う。
中学の時に付き合ってた彼女には、「やさしすぎるだけじゃ」と言われフラれた。
「うっちゃん、イブの日に映画でも行くかい?」
「かまへんけど、こいちゃん本間に何にもないんか」
無理して寂しい17歳に愛の手を差し延べてくれてるのではないだろうか。
「買い物も行きたいねんけど、さすがクリスマスに一緒に行ってくれる女子高生は少ないから…」
あっ!そういう事ね。今や有名女子高生のこいちゃんは、なかなか一人では買い物もしにくいのは確かだ。
「OK!何見に行くか決めといてな」
今年の冬もいつもと同じ寒さになりそうだ。