第8章 山が動く
山が動く
敗戦の後、悔しいさはあったけど、落ち込む事はなかった。
僕たちは、あそこまで戦えた事に自信を持ち、これからもっと強くなるにはどうするかを考えていた。
一方で、衝撃的な負けをテレビで見た世間の人達は、あの時のセカンドが、こいちゃんだったらと、スポーツではありえない、たらればの話しで盛り上がっていた。
「うっちゃん、ケガ大丈夫か?」
れんちゃんが練習前に聞いた。
「幸い骨は何とも無かったから、二週間の辛抱やな」
あの時のケガは、右足首の捻挫にスパイクされた時の裂傷で、全治2〜3週間と言われた。
エラーした一年坊主は落ち込んではいたが、誰も責めるような奴はいなかった。
「全員集合!」
監督がみんなを集めた。
「今、テレビ局から電話があった。この間の試合以降、全国で署名運動が起こって20万もの署名が集まったそうだ!」
テレビの力は恐ろしい。僕たちが集めても、千人くらいが関の山。それが20万とは凄い。
「そこで、それを持ってテレビ局と我々で陳情にいく」
いよいよな感じがした。
監督とこいちゃんと僕が行く事になった。
「来たな、うっちゃんの作戦が実を結ぶ時が」
斉藤が珍しく興奮していた!
いや、みんなも何だか興奮気味だった。
「明日、放課後に行くから準備しとくように」
僕はやっとスタートラインに立てたきがした。
翌日、僕たちはテレビ局の車で伏魔殿に向かった。
山本くんは僕たち以上に興奮していた。
車内で、大学教授でもあり、スポーツライターの山之内智也さんを紹介された。
今回のオブザーバーとして参加してくれるらしい。
ディレクターさんから、色々説明があった。
20万もの署名が集まったと言う事の他に、マスコミの取上が多い事、そして、今年の春に大ニュースになった、特待生問題で少し変わりつつある今がタイミングとしていいと言う事。
タイミングどうのこうのは僕にはわからなかったが、陳情出来るだけでも大きな第一歩だと思っていた。
車が伏魔殿に近づくと、そこには、大勢の人達とマスコミが集まっていた。
「うっちゃん凄いね」
こいちゃんの言葉に僕は頷いた。
僕たちが車を降りると、大歓声が怒った。
緊張の面持ちで中に向かった。
僕は松葉杖を就いていたので、こいちゃんに支えてもらいなが階段を上がった。
中に入ると、すでに待ち構えていた、広報担当者が部屋まで案内してくれた。
そして、現れた会長だか理事長だかに、僕たちは思いをぶつけた。
ディレクターさんが経緯を説明して署名を渡した。
僕は真剣に自分の言葉でお願いし、こいちゃんは野球が好きで試合に出たい気持ちを話した。
監督はこいちゃんが本当にいい選手であることを、山之内先生は現状の女子のデーターを出し、体力面など男子と差のなく、女子が男子の中でやっていけると演説をうった。
相手の反応はまずまずだと思った。
外に出た僕たちを、多くの人達が待っていた。
来た時はそんなに思わなかったけど、やたら恥ずかしい気持ちになった。
その日のニュースで陳情の場面が流れた。
さすがに、松葉杖でこいちゃんに支えられながらの僕は痛々しく思えた。
これもテレビ局の作戦なんだろうなぁと思うとやっぱ恐ろしいと思った。
これがどうなるかはわからなかった。
ただ、検討しますと言ってくれた事を信じるしかなかった。