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第16章 健全な男子

健全な男子?


決勝戦のあくる日、僕達はその実感をより噛み締めていた。


夏休みに入っているというのに、学校には大勢の人が忙しそうにしていた。


僕達も取材だなんだと分刻みで動かされていた。


「スポーツ新聞見たか?これはお宝になるで」


れんちゃんがうれしそうに新聞を見ていた。


そこには、美香石高校の甲子園決定の見出しと僕たちの写真が踊っていた。


ただ、その中には「こいちゃんも甲子園か?」


そう、まだクエスチョンマークだった。


結論を先延ばしにしてきた伏魔殿は追い込まれいるに違いない。


県大会で敗退するだろうと高をくくっていたに違いない。


それが、優勝し甲子園出場を決めた。


おまけにこいちゃんは大活躍をしている。僕達はやれるだけの事は全てやった。


この計画を始めた時から気持ちはまったく変わっていない。

甲子園でこいちゃんと一緒に野球がしたい。


「うっちゃん、監督から甲子園までのスケジュールが出たけど、大忙しやで」


そういうとこいちゃんはスケジュール表を手渡した。


「すぐに甲子園練習やな、壮行会とかあるねんな」


甲子園までのスケジュールはかなりタイトだった。


練習もしなければいけないし、これは気を引き締めて行かないといけないと思った。


「お〜い、伏魔殿が結論出したらしいぞ?監督が集合しっろって」


そう言いながら、やまちゃんが息を切らせて走ってきた。


とうとう来たか!計画開始から11ヶ月、県大会出場は手にしたが甲子園の出場ははたして・・・


僕とこいちゃんは大急ぎで向かった。


グランドにはすでにみんなが集合していた。僕ら以外にガッツで行こうを初めとして、大勢のマスコミもいた。


僕はドキドキしていた。是か非か?


「今さっき連絡が入った。」


監督の顔をじっと見ていた。


「小泉の件だが、高校野球協定にしたがって甲子園出場は健全な男子以外は認めないとの判断がでた」


そこに居た全員が大きなため息をついた。


「どうしてなんですか?」


斉藤が怒り心頭の表情で監督に聞いた。

監督も苦虫を噛み潰した様な表情で答えた。


伏魔殿の回答は高校野球連盟の協定に元づき、プロ野球協約を参考に現時点では、健全な男子という項目を変更する事は難しいとの事


プロが変わらなければ、高校野球も変わらないというのが見解らしい。


県大会に関しては特例としてこいちゃんは認められたが、各県の規約があるので全国大会では無理だという結論にたっした。


悔しくて、悲しくて、どうしたらいいのかわからないくらいの怒りが沸いた。


その辺の何かに当り散らしたい気分をグット押さえ込んでいた。


れんちゃんもやまちゃんも斉藤もみんな同じ感情だったに違いない。


こいちゃんをそっと見た。


少し、残念そうな表情ではあったがしっかり前を向き監督の話を聞いていた。


「小泉、すまん!力不足で」


監督の言葉にこいちゃんが言った。


「ありがとうございました。皆さんのご好意は忘れません。公式戦に出れた事だけでもすっごくありがたい気持ちでいっぱいです。せっかく甲子園が決まったのに出れないは残念だけど・・・」


自分たちの無力さを痛感していた。


「みんなありがとう、甲子園はいっぱい応援するからここまできたら甲子園でも優勝目指してね」


こいちゃんの言葉に涙が出そうになった。


僕が勝手に計画して、やったことで多くに人を巻き込み、こいちゃんにもぬか喜びをさせてしまった。


蝉の鳴き声が久しぶりにうるさく感じた夏の午後だった。

甲子園


「うっちゃん、私の分まで頑張ってや」


「任しとき!打って、走ってかき回したる」


あの結論の後、大きな波紋も広がってかなりの反論、抗議など色々な事になった。


しかし、甲子園までの時間はあまりにも少なく、結論が覆ることは無かった。


こいちゃんはマネージャーとしてベンチに入る事になった。


僕達はこの息どうりを試合にぶつける事で解消しようとしていた。


一日でも長く、一試合でも多くこのメンバーで野球をやろうと誓いあった。


甲子園、高校球児の夢の舞台。5万6千人の観客の前で自分たちの高校三年間の全てをぶつける。


僕達の応援はひと際大きく、それは大きな力になった。


斉藤が投げ、僕達が打って守って、美香石らしい野球を繰り広げた。


僕たちは神がかりに試合を支配した。こいちゃんの分析データと元に相手打線を封じ込め、相手投手を打ち崩した。


僕自身も驚くほどの調子でヒットを量産し、盗塁も100%の確立で成功していた。


美香石高校は今大会の台風の目になっていた。


毎試合、途中でこいちゃんコールが起きるほど世間を見方につけた僕達は、毎試合毎試合強くなっていた。


そして、予想だにしなかった決勝までやってきた。


甲子園は今までの野球人生でやっぱり最高の舞台だった。そこで何試合も出来た事は本当に幸せだった。


夏の暑さえ心地よく思えるほど、時より吹く浜風邪は気持ちを冷静にさせ、黒土の独特な匂いは気持ちを高揚させた。


この同じ思いをこいちゃんにもさせてあげたかった。


ベンチにこいちゃんが居るだけで、みんなに勇気がみなぎった。


僕達、美香石高校野球部はまれに見る一体感のあるチームになった。


あれもこれも、こいちゃんと一緒に甲子園で4−6−3のダブルプレーを決めたいと言う気持ちから始まった事だった。


結局はダメだったが、その恩恵は甲子園決勝の舞台に僕達が立った事だろうか?


「ゲームセット」


僕達の甲子園は終わりを告げた。


美香石高校は準優勝で今年の夏、いや三年生の夏を飾った。


負けた僕達に涙は無かった。高校野球をやってる生徒で一番長く野球をやれた。


伏魔殿に反旗をひるがえし、問題定義をした。たかだか高校生が仕掛けた計画は世間を巻き込み大きな社会問題になった。


たかだか野球、甲子園、男、女、そう思うかもしれない?


でも、その当事者は大人の気持ちとは違う気持ちなんだとわかってもらえたら幸いだとおもう。


野球、甲子園、チームメイト全てが最高だ。



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