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第14章 夏本番


夏本番



予選が始まった。僕たちは完全武装で試合に望んだ。

斎藤をはじめ、レギュラー組は春から大きく成長していた。


もちろん、こいちゃんもだ。


春同様に県大会には出場が許されている。


予選までには結論を出すと言った伏魔殿はいまだに何の解答も示さなかった。


ガッツで行こうとも一年の付き合いになり、僕たちも取材だからと緊張せずに自然体でいられようになった。


山本君と尾形君が激励に来てくれ、みんなの夢を必ず実現しょうと強く言ってくれた。


美香石高校はシードなので二回戦からの登場だった。

さすがに昨年とは違い、1番の注目を集め、かなりマークされていた。


しかし、エース斎藤は今や今年のドラフトの目玉になったその実力は群を抜いていた。


打線も井上やれんちゃんに長打力が付き、1番の僕が出て2番のこいちゃんが送り、クリーンアップが帰す。


このパターンで勝ち上がった。


周りの期待通りに予選を勝ち進んだ。


ガッツで行こうも特集番組で盛り上げてくれた。


すでに準決勝までコマを進めていたが、問題は全く何も進展していなかった。


「一体何時になったら答えがでるんや!」


「れんちゃんの言う通りやで、予選までに結論出すって言うたんちゃうか」


チームのみんなはイライラしていた。


「多分俺らが負けるの待ってるんやろ」


斎藤の言葉にみんな奮起した。


「負ける?俺らが負けるってか?絶対負けたらへん!こいちゃんと甲子園行くまでわな。」


山ちゃんの言葉にみんなは賛同し、団結はより強固になった。


「みんなありがとう、今で十分幸せやけど、ここまで来たら甲子園で野球がしたい。」


こいちゃんが初めて素直に気持ちを言った。


世論の風当たりもきつくなりはじめ、負けると思った僕たちは準決勝まで来ている。


何だかのアクションを起こさなければかなりのマイナスイメージに成り兼ねない。


決勝に進んだらいやがおうでも何かするだろう。


僕たちはただ甲子園を勝ち取る為、少しでも長くこのメンバーと野球をする為に全力で行くしかなかった。

準決勝はさすがに苦戦した。試合をするたびに観客は増えていた。


斎藤も連投の疲れがでてきていた。


試合は相手のペースで進み2対0で美香石を向かえていた。最後の攻撃を


八番の二年生前田からの打順、気負った前田はキャチャーフライ。


続くあっくんは必死の形相で相手に挑み、フォアボールを選んで塁に出た。


そして僕も何とか繋ごうと策を巡らし、ゲッツーだけは避けたい所なので、一塁ランナーのあっくんとアイコンタクトでエンドランを選んだ。


スタートを切ったあっくんに釣られてショートが動いた。


僕は得意の流し打ちで三遊間を抜いた。


ワンアウト一三塁、バッターはこいちゃん!


満塁策をとってきてもおかしくはない場面だが、後の井上は当たっている。


一三塁でのスクイズは難しい。


ベンチからのサインは盗塁、三塁ランナーが足の早いあっくんだったのであわよくばダブルスチールの考えだった。


僕は初球からスタートを切った。


さすがにキャッチーは投げて来なかった。


セオリーなら塁を埋めてダブルプレイ狙いが得策かもしれない。


九回の裏ワンアウト二三塁、バッターは非力なこいちゃん。


相手はこいちゃんとの勝負に出た。スクイズのサインは出ない!


僕もあっくんもピッチャーを揺さぶるべく大きくリードをとった。


こいちゃんの緊張は二塁ベース上の僕まで届いていた。まだ、スクイズのサインが出た方がましだろう。


監督のサインは“打て!”


ここまで来れたのはこいちゃんと言う存在が大きかった事は間違いない。


全てをこいちゃんに賭けた!


練習試合だけでは味わえないこの公式戦ならではの感覚を初めて味わっているだろう。


頑張れ、負けるな、甲子園はすぐこまで来てるんだから!


初球ボールの後は、ストライクでワンエンドワン。


一点でも取れれば、次は井上だから同点のチャンスは大きくなる。


相手も一点で抑えればいいと思っているだろう。


三球目、カーブだった。


こいちゃんはバットを思いっきり振った。


快音と共に打球はレフトの上がった。


俺はハーフウェイで打球の行方を追った。


大きいぞ!


まさか!


レフトの選手がさがって行く。


「入れ〜!」


ベンチかられんちゃんが叫んだ!


ボールはレフトスタンドに吸い込まれた。


逆転さよならスリーランホームラン!


「やった!」


目をうたがう様な光景だった。こいちゃんがホームランを打った!


小学校から10年以上も一緒に野球をやってきたけど、初めて見た!


ホームインした僕はあっくんと抱き合い、振り向いてこいちゃんを見ると、まさに放心状態で三塁を周ってきた。


みんなはホームベース上で帰ってくるのを待った。


「ホームイン、ゲームセット」


スタンドの大歓声の中、僕達はこいちゃんを祝福すべく頭を叩いた。


「こいちゃん、ナイバッテイング!すごい!」


「よう、打った!最高や」


「かっこよすぎやで」


みんなが次々に声をかけた


最後の挨拶に並んだ僕達の顔はみんな満面の笑みだった。


あとひとつ。ドラマティックな夏やね。


試合後、山本君と尾形君が興奮してやってきた。


「凄いよ、こいちゃん、感動した。」


山本君はそう言うとこいちゃんの頭を何度も何度もなでた。


こいちゃんも恥ずかしがりながらも、うれしさはその顔を見ればわかった。


「これだけ活躍して、甲子園出れませんは絶対に無いと思うよ」


尾形君が力強く言ってくれた。


確かに、これだけ頑張ってダメだなんて考えられなかった。


僕達の興奮は試合後収まることはなかった。



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