とうダイよるノかいぶツ
夜が来るのが怖い
正体不明の声が聞こえる
そんな夜が怖い
もう、いく夜、眠っていないだろう
ふときがつけば、僕は布団の中で目が覚めている
外の壁を、ガリガリと何かが掻いている音がする
しかし目にすることはできない
いくら外に出ても
その正体を見ることはできなかったのだ
私はそんな中で、ただ目を瞑り
ひたすら何も考えないようにする
そうしてようやく、眠気が襲ってこようとすると
必ず脳裏に、正体不明の怪物の姿が浮かぶのだ
それは黒いもやのようで
それは夜の闇のようで
正体らしくものは見えない
しかし、僕はそれを見ているしかない
そんなもの無いと思っても
また外で音がする
「ガリ、ガリ、ガリ、ガリ」
今夜も外が白くなり始めた
薄い青が、外に見える
燈台の朝だ
「教授、本当に行くんですか」
助手の橙君が、何処で買ってくるのかは知らないが、ハンチング帽と言う
時代錯覚なものをかぶって、僕の後に付いてこようとする
「その教授というのはやめたまえ」
橙は、教授の数年前の教え子であり、それからしばらくは会わなかったのであるが、数日前、ひょんなことから会ってしまったが故に、教授の悩みの腫瘍となっている
「そうは言っても、ほかに呼び名を知りません」
「別に何でもいいではないか」と、教授が、愛用のパイプをすいながら、そんなことを言う
「そうは行きません、せんせいが、いろいろと言われ続けるあだ名の中で
何一つお気に召さないではありませんか」
教授という男は、体は寸胴のように太く、目が小さい、一見その威圧的な大きさから、強面にも思われるが、実に小心的で心優しい分類だろう
その容姿から、別名がサイなどと呼ばれているが、本人は気に入っていない「そんなことはない、ただ君たちのネーミングセンスがいただくにはいただけないんだよ」
「それを気に入らないって言うんです」
「所でそんなことは良いが、君は何でついてきたんだね」
「・・それはもちろん先生の助けになろうと」
もちろん嘘なのが教授はおろか、彼女本人もまるでわざとのように言う
「・・またくだらん記事かね」
それを聞いて、怒っているのかふざけているのか、橙は、酷く頬を膨らませて、しかめっ面で教授に言った
「これは歴史的文献を紐解けるかも知れない、貴重なフィールドワークだと思うんです、先生の言葉だけではなく、他者がそれを記すことで、より良い」
「ああ・・分かった分かった」なんと言ってもついてこようとする彼女に先生は、手を振ってもういいと、しめすと、そのままタクシーにのりこむ
「・・君も来るのかね」
「おじゃまします」
彼女は悪ぶれることもなく、
後ろに乗り込む
「はあ・・・飯代はださんぞ」
それが唯一の教授の反撃であった
この近辺には、「魔物の塔」と言うものがある
しかしそれは至って普通の灯台なのであるが
問題は二つある
一つは、その塔が、何時出来たか誰も知らないのだ
これはおかしなことで、どんな文献を読んでも、その塔に関するものが出てこない、そして住民も、子供の頃からあった、とそう言うのだ
そしてもう一つは、この塔には怪物が出るという
詳しい話は
その塔で寝ていると
壁を引っかくようなおとが聞こえる
と言うものだった
その噂は古く、戦後からここら辺に少なくとも伝わっているから
都市伝説としては古参に分類されるだろう
まあ、あくまでも最近のものと比べたら古いというわけであるが
今回教授がこの灯台に来るきっかけにあったのが
1人の青年の手紙であった
彼は昔世話になった恩師の助手で、実家の都合で、地元に戻ったが
そこの仕事というのが、あの灯台なのだ
そして彼の記した手紙には、確かに音が聞こえる
しかし正体がつかめない
そのような内容が、詳細にかかれていて、とても幻覚を見たようには思えないのである、そんなことがあり、朝一番で付くように、届いた夕方には出発したのである
しかし、それを何処で知ったのか、このハンチング帽の橙
もしかして、盗聴器でも仕掛けているんじゃないか
そう思って、聞いて見るも、猫のようなほほえみを浮かべて
外を眺めることで曖昧にごまかす
「・・・・・」教授はと言えば、たいしてきにもしていないのか
すぐに前に向き直り、持ってきたワイルドボトルを煽り始めた
「つきましたよ」
運転手に言われて外に出ると
そこは波の高い海の真ん中に
まるで取り残されたかのように建っている白い灯台だった
「あれが、怪物の灯台と言われている灯台ですか」
運転手に聞く教授
「ええ・・名前もなくただ灯台と言われてます・・まあお客さんの言うような噂もありますし、あえて言うなれば、ここら辺の地名をとって砂浜灯台とでも言うんでしょうが」
しかし教授はたいしてきにもせず
「君の意見はいいんだ・・でも一つ、ここら辺に砂浜なんてあるのかい」
「まあ、地名と言うだけで、ここら辺はみな岩と崖でそんな感じのものはここから10キロもしないとないんですけどね」
「そうか・・・ご苦労だった」
料金を払うと、運転手は、このへんな一行から離れるべく
スピードを出してどんどんと離れていく
そんな一向に
近づく人間がいた
「いや、教授じゃないですか」
「いや、岩城君じゃないか」
「ええ・・ご無沙汰しております、今回は本当に来ていただき」
「いやいや、そう言うのは良いんだ・・それで早速行きたいんだが
この波で向かうことは出来るのかね」
「ええ・・これくらいなら」
そう言うと、三人をつれて、そのまま崖の横に設置された
わずかばかりの船の停留所にあったモーターボートに案内した
「これは沈まないかね」
「ええ、ご心配なさらずに」
「教授は心配性ですね」
横から橙が茶々を入れるが
「これは理論的に安全ではないかも知れないなら・・」
「それでは出発しますのでしっかり捕まっていてください」
岩城はそう言うと、エンジンをかけて、波の高い海にそのボートを発進させる
「教授すごいですね」
橙が、ハンチング帽を押さえながらもう片方で船に捕まってそう叫ぶ
しかし教授は、必死に捕まるだけで、無言を貫いていた
「いやーお疲れさまです」
ようやく付いた頃には
「教授、無視するなんて酷いじゃないですか」
なんて言う橙と
「・・・今日の夕食は何だね」と、先ほどの情けないことなど忘れたようにそんなことを訪ねる教授
果たしてあの謎を解き明かしてくれるのか
岩城はそのときになり
いささか遅すぎる心配を始めたのである
「それで、どうしますか教授」
私は、夕食は、夕食は、と、先ほどから繰り返して五月蠅い教授に
そう叫んだ
「え・・何が」
「・・何がではなくて、怪物の調査ですよ」
「ああ・・適当に君がやっておけばいいのではないか
怪物などしょせんは、居ても居なくても同じ事
たとえ謎が解けなくても、何かしらの理由を付ければ
それで事なきを終える
それよりも、僕は、確実に食べることの可能な
夕食の方が余程心配だ」
「教授、それには心配及びません岩城さんが、腕によりをかけて、作るから、教授をよろしくと言っていました
あの人は、怠けると駄目であるが
食い物となると、目の前に人参をぶら下げた馬のさんぶんのいちほどの脳内馬力を発揮すると」
「・・うむ・・・あいつは料理がうまかったからな」
この暴言に対して
あまり気にとめることもなく
舌なめずりをする教授は
そう言うと
「ではいこうか助手君」
などと言って、どこから持ってきたのかステッキを片手に
燈台に向かった
しかし、その燈台には行る前に
教授は
その建物をぐるりと回る
すると、おもしろいことに
「これを見てみた前」
教授はそう言って
明らかに人の毛ではない
黒くそして短い
なにやら、脂ぎった
毛の束を私に示す
「何でしょうか」
「さあな、ここら辺に、水性のほ乳類が居るとはきかん
そして、これは犬でも猫でもないな」
「分かるんですかさすがです」
「わからん方がおかしい、君は飼ったことがないのかね」
「ええ、どっちかと言えば、見ると怖いのです」
「まあ、そうだろう、だべられると分かれば、怖がらない方がおかしい
そんな愛は実におかしいからな」
「どういう事ですか」
「どうもこうも、君は食べたことがないかね
ペルシャ猫やダルメシアン、柴犬なんてなかなか」
「食べたんですか」
「ああ、僕が食べたのは食用種だったが、友達がそう言う下手物が好きで
良く食べている奴がいた、そいつはおもしろくてね、雪山で雪男を捕まえて食べようとしていたんだ
しかし、自分が遭難して、自分の右手を食べることになった
それからだな」
「・・・妙な話ですが、雪男を食べようとしている時点で、
教授ほどおかしく
そしてはじめから狂っています」
「そうだろうか、道の味を求めるのは男なら誰しも」
「私にはさっぱりです」
「君は女だな」
「男です」
「・・・・・」
「まあいい、とにかくこれは、見たことがない、もしかすると
新種の生物か、もしくは」
「もしくは」
「もしくは、悪戯に偽造したものかも知れない」
「どういう事ですか」
「まあ、観光資源とかに良くあるだろう
なあ」
「何がなあなんですか、それより、これからどうするんです
とりあえず、一周しましたけど
何も手がかりが無いじゃないですか」
「・・・それじゃあ、晩飯か」
「・・探索の続きですよ」
「ああ、しかし、発見したとして、それが本当に
良くわからん怪物のようなものだとしたら
君は対処できるのかね
今のところ岩城君は、死んではいない
死んでからで良いはずだ」
「いいわけが無いじゃないですか、それにもしなにか合ったら」
「あったらなんだ、君は拳銃でも使えるというのかね
それなら頼もしいが、もし免許が無いというのなら
警察に一緒に撃った後つれてってあげるよ」
「・・教授を餌にして私はボートで逃げます
教授は常々食い意地がはっています
ですから、ここら辺で、喰われた方がいいと思います」
「君は偉大なる先制者に、なんと言うことを」
「それじゃあ日頃からいっている
喰っているからには喰われる覚悟はするように
と言うのは、真っ赤なおおぼらふきと言うことで良いのですね
ちなみに私は今ボイスレコーダーでこれを録音して
大学の私の秘密の部室に、送っています
もし私の身体が生命活動を止めれば
直ちに全世界に、あなたの下劣きわまる蛸踊り&恐ろしき腐食食癖が
全世界へとばらまかれるであろう」
「・・・しかし、君はボイスレコーダーなんて神秘的かつ最新鋭の物を所有しているのか」
「どちらかと言えば、もう時代遅れと言っても良いかも知れません」
「いや、僕は携帯を持っていないからね」
「その割には、大学にあるパソコンは、良いものですよね
あれ三十万円位する」
「・・・それはまあ、桃色夜空にさようなら探検いざ行かん・・と言うことだよ」
「・・・・それで何の話でしたっけ」
「ああ・・夕食前に、軽く怪物を狩って
そのまま夕食の一品に花を添えようと言うわけだな」
「・・まあ、狩れるのであればいいんじゃないですか
私はボートで逃げますけど」
「卑怯ではないか、私に黙って研究室のミートボールハンバーグサッカーボールを、食すつもりだな」
「あんな気色の悪い物食べませんよ
大体あれ何年前からあるんですか」
「・・まあ、八年は立っているだろう」
「何で腐らないんですか」
「それは色々とある
あれは確か八年前の夏
あまり覚えていないが
私の研究室にいたという人間から
海で、白い肉を発見したと行ってな
送られてきた物は
赤黒い
腐ったようなにおいのする
肉片だった
それはまるで生きているようにうごめき
私はついいつもの癖で
ハンバーグにして、焼いてしまった」
「・・・それ歴史的発見じゃないですか、そんなサイボウだけで
生きているなんて・・いや動いているなんて」
「まあそんな褒めるな、私は科学するより食べるのだ」
「・・・・それ単なる食い意地が這っているだけです」
「褒めるな」
「褒めてねーよ」
「・・・まあそう言うものだから、くわんように」
「・・食べません、それじゃあ、夕食を見るのもかねて
塔の中を探索しますか」
「ああ、気をつけて行ってきなさい」
「教授も行くんですよ」
「いや、僕はもうおなかがぺこぺこペコりんこで
もう、ひっついてはなれないんだよ、背中とお腹が
だから、ここまで食材を運ぶか
僕が最後の力を振り絞り
君の夕食を食しておくから」
「・・・・・死にますか、死にましょうか、死にますか死にますか死にますか死にますか・・ますか」
「それで、その塔はどこかな」
「今ぐるりと回っていたじゃないですか」
「ああ、どうも頭に栄養が回っていないようだ
何かあったら君の腕を一本くれ
それで三百メートルはあるきながら思考が出来よう」
「もしそんなことしたら、私、死にますよ」
「あら、怖いことをいう」
「あなたの方が恐ろしいですよ」
「いやいや、あなたの方が」
「・・つきました」
「思案力が」
「いえ、塔の入り口に」
そこは、木の扉で、実にフレンドリーに見えた
その石造りの螺旋階段は
恐るべき緻密さで、一片の隙間もなく、非常に石で出来ているにも関わらず、暖かな印象があった
「それで君は上に行く下に行く」
教授は、その上としたに延びる
まるで嘗められたかのような
なめらかな階段を指さしていった
「いえ、何かあるといけませんから、二人で行きましょう」
「怖いのかい」
「怖いのではなく万が一に備えてです」
「それが怖いのだよ、それじゃあ僕はしたに行くから、君は上に行きたまえ、付いてきたら怒るよ」
「・・貯蔵庫で何か食べたら駄目ですよ」
「ははは」
「返事をプリーズです」
「へへへへへ」
「・・・・・はぃい」
私は、それを睨みを利かせて聞き返した
完全に盗食するつもりだ
「それじゃあ」
「食べたらいけませんよ」
私は幾度と注意するが、無駄だろう
蛞蝓に醤油をかけて
蛞蝓神に祟られても
まだすするような食い意地の這った奴である
何をいってもてこの際無駄だろう
大体、岩城さんも、その事については
もはや諦めていると言っていたしな
私もその言葉に半ばあきれつつ同情も隠せず
言えることは言っておいたからまあ良いであろう
私は、涎を垂れ流しながら
下へとふらりふらりと向かう
寸胴の食欲怪人を見ながら
上へと向かう
途中途中にガラス張りの窓があり、そこからは、荒れ狂った海が
一望できた
嫌な天気である
辺り一面真っ黒を含んだ雲が、滑り
どこかで稲妻が、海面に落ちている
それが近いのか遠いのかは定かでは無い
しかし、昔山奥で、暮らしていたとき
山の向こうが、一瞬明るくなることがあった
あれは一体何なのだろうと
いつも思っていたが
いつ頃か、それが雷の光だと知ったとき
こちらが天気でも
ここまで違うのかと思ったものである
私は、嘗めるようななめらかなその階段を上っていくうちに
なんだか、鯨の腹の中にいるような
酷く奇妙な感じがした
上に行くほど、徐々にだが、その幅はせばまり
まるで、私が大きくなっているようにも感じられるが
建物の方が小さくなっているのである
途中に、岩城さんが料理をしているキッチンがあり
なにやら良く分からない魚類を
適当に切り刻み
鍋に入れていた
その鍋のスープの色は
真っ赤であるが
トマトなのであろうか
少なくとも血ではないだろう
「どうです」
私はそうきいた
「ええ、ぼつぼつです」
彼は、腕のあるさかならしきものを切ると
鍋に入れた
赤い物が跳ねる
「教授が地下へ行きました」
「それはまずいな」
「まずかったですか」
「ええ、あそこには毒薬が大量にある
あれを教授にのませるのはもったいない」
「でも、大丈夫だと」
「いえ、あなたがついているから大丈夫だと思ったわけです
しかしもったいない
あれは高いのです」
「・・大丈夫でしょうか教授は」
「大丈夫だよ、アーモンドが足りないと言って
青酸カリを振りかけるような人だよ
実に高額な舌をしている」
「あれを研究すれば、ノーベル賞は間違いないでしょうね」
「・・まあ、研究するのが先か、喰われるのが先か
実に興味深い恐ろしさがある」
「止めてきましょうか」
「そうしてもらいたいが、もう手遅れだろう
探索の続きでもしてくれ」
「・・そう言うのであれば」
後に、地下室で、みょうなけと血が辺り一面血飛び散り
その中で、満足そうに、腹を膨れさせて、眠っている
教授を発見するのは、一時間ほど後であった