第八話
さて一通り情報を読んだらいよいよ街の外だ。
結構色々覚えたし初心者としてはまあ、そこそこの戦いが出来るだろう、と思う。ほとんど気功使ったまま走って踊っただけだけど。
と、門を出ると早速いた。解体屋だ。四つくらいテントがある。そこには女性が結構並んでいた。男性も少なくはない。なるほど。プレイヤーの女性は解体とか苦手な人が多いだろうな。解体屋の方は歳がばらばらだけど全員が男性。NPCだと思ってたらプレイヤーも混ざってる。
女性は欲しい素材と料金分の素材の条件を詰め寄っていろいろと交渉しているようだ。いろいろ条件つけられているが色仕掛けをして条件を緩めてもらおうとする人もいる。男の方は嬉しそうににやけている。……解体専門のプレイヤーってもしかして女性パーティに入りたい男だろうか。まあどうでもいいこ
とだろうけど。
そんな集団を横目に通り過ぎ、なるべく人が少ないとこを探して歩く。
さて、戦闘になるがまずは刀術を鍛えていこうと思う。道場で教わったけど剣は叩き斬る、刀は斬り裂くと使い方が違うらしい。剣の使い方で刀を使うと斬れないし、下手をすると刀が折れるとか。
教わった時に思ったのが、小学校の時にスポーツ少年団でやっていた剣道の様だった。しかもその時にいた剣術の師範の動きに似ている。俺にはよくわからなかったけど、剣道と剣術は違うとよく二つの違いを実際にさせられたことが何度かあった。正直その違いはあまりわからなかったが、俺の動きは剣道より剣術に近いなと師範に言われたことがある。
相変わらずよくわからないけど基本は足を止めないらしい。動きながら斬り、斬りながら動くと。攻撃は受けず、避ける。どうしても避けられない時は受け流すそうだ。
刀術も同じなんだろう、なかなか筋がいいと言われた。刀術を選んでよかった。俺の希望のスタイルとも合うようだし。最初に刀をくれたイアンナさんにも感謝だ。
時々素振りをしつつ歩いていると、草原で餌を食べているラビィを見つけた。……結構大きいぞ。草が大体膝丈くらいだから名前的に小さそうなラビィは見つけにくいかと思ったんだけど、ラビィのサイズはゴールデンレトリバーより一回りくらい大きい。名前詐欺だ。
とりあえず、初めての戦闘だ。何があっても大丈夫なように気功を使おうと思う。用心のために何時もより多めの気を練る。素早さ重視のため脚に五割ばかり集めて強化。残りで上半身をまんべんなく強化する。
思い切り地面を蹴ってすれ違いざまに一気にラビィの首を落とす、つもりだった。
しかし刀を構えたまま、俺がしたのは体当たりだった。
結果から言うと、体当たりでバランス崩し、ラビィに倒れ込み、手に持っていた刀が背中から刺さってラビィの串刺しが出来ました。
……格好悪い。
何でそうなったのでしょう? 答えはスピードに慣れてなかったから。
ラビィとの距離は10メートルだった。それを三歩で詰めたのだ。流石にタイミングから何から全部ダメダメで、びっくりしたときには体当たりをしていました、はい。
原因は多分だけど身体強化だと思う。訓練所で走る時より数倍のエーテルを使ったからなあ。
方針変更。動きに慣れるまで強化不使用で。そんで徐々に強化をしていく。うん、そうしよう。
そういえばラビィの近くには薬草があるとのことどこだろう。
鑑定はないが、薬草学を学んだ俺にかかれば……お、あった。
『ヨモギ草:薬草の一種。濡らしてから擦り、汁が緑になると治療効果がある。ポーションの素材にもなり、ほかの薬草種との配合でポーションの品質が変わる』
なるほど。鑑定がなくても説明は出るのか。いや、薬草学で学んだことだし、知ってるから出たのか? まあとにかく今は薬草を少しずつ集めるか。しばらくはラビィ狩りだな。
そう決めて次の標的を求めて走り出した。
あれから十体近くのラビィを狩った。勿論、薬草採取や解体、剥ぎ取りも忘れてませんぜ。器用値がやや高いからなのか結構簡単にばらせた。時間もそんなにかからない。まあゲームだし。取りあえず皮と肉がたまってきた。
しかしラビィが弱いのか武器が強力過ぎるのか、刀で首を落とすという一撃で終わってしまう。二刀流とかもしてみたかったが今は一撃で終わるので意味がない。
あまりにあっけないので途中からは体術を使い、スピード乗せて殴る蹴る投げるという肉弾戦になってしまった。
まあ、今使える気功を全て脚力強化に使っても対応出来るようになったので良しとした。
残るは弓かな。うん、弓を使おう。
まずどれくらいの距離でどの程度の精度か確認しないと。
ラビィを見つけ10メートルの距離で狙いを定める。
まずは頭を狙えるか。キリキリと弓が音をたててしなる。
狙いを定めて放した矢はラビィの額に突き刺さり、ビクッと身体を硬直させてラビィは動かなくなった。その後も同じ距離で射ったが、10メートルの距離なら必中のようだ。まあ、弓の射程は30メートル以上だし。ただ、矢が頭にめり込み、歪んでいる。ちょっと近すぎたんだろうか。ためしに木に向かって何度か撃ってみると、何本かは折れてしまった。曲がったものも多く、回収しても使えないかもしれない。
反省を込めて最低射程の30メートルから、50、100、150と距離を変えて射ったとこ、100メートルまでは80%命中、それ以降は要練習のようだ。走りながらの射撃は必中にはならないが30メートル位ならほぼ当たる。連射も50メートルなら何とか当たる様だった。最大射程はある程度の威力を保ったまま届く、という程度で命中率は期待できない。達人級なら可能かもしれないけど今の俺には無理。
弓の使用中に狙い定める過程で知らず知らずの内に、頭部にエーテルを集中させていたらしく、100メートル射撃ではいつの間にかスコープとまで行かないがよく見えた。周りの音もやたらと聞こえてうるさい。
身体能力の強化は五感にも影響するようで視力と聴力も強化されたようだった。うるさいので耳は強化せずに目だけ強化したいと思ったが中々出来なかった。まだまだ修行不足だろうか。
とりあえず準備していた矢を全部使いきってしまったのでまずは補充をすることに。持ってて良かった製造キット。
森の手前で木を集めて加工。鳥の羽を探して取り付けて、とりあえず20本ほど造ってみた。金属はないので先端は石や尖らせた骨などを使う。
ついでに拾った薬草を煎じて初級ポーションとかも作くろう。
森に入るつもりだから今のうちに作れるだけ作ろう。
まずはポーションを作ろう。作り方は教わった。薬草種を煮詰める、それだけだ。簡単すぎるが初級ならこんなものだ。初級ポーションは下級ポーションよりランクが下。回復効果のある薬草種ならどれでも単体でできる。だからかわからないけど初級ポーションに調薬などは不要だ。ただ、煮詰める前に磨り潰したりすると効果が変ったりはする。
下級以上のポーションは数種類の薬草種と他にも手順が必要だけど、ここではヨモギ草しか取れないらしくヨモギ草だけがたまった。それらを全部初級ポーションにして、ここからが調薬調剤の本領発揮かな。
まずは回復丸。これはポーションから回復要素を分離させて抽出する。すると粉末が出来、それを幾つか集めて合成すると一つの塊になる。これが回復丸。丸薬で、飲み込むと消化され徐々に回復していく。と言うよりは治癒力の上昇? これが近いかもしれない。
次は布を取り出し、ポーションに漬ける。その状態で合成すると薬布が出来る。これはいわゆる絆創膏の様なもので、回復というより傷口の修復などに使うらしい。
そして調合しているうちに不思議な感覚を覚えた
今まで製造クエストの時には調合系のスキルのいくつかはSSでの再現が出来なかった。なんか、いつの間にか出来てる、みたいな? だからファンタジーな不思議スキルだと思っていたんだけど。今、調合でいくつかスキルを発動するとエーテルに反応が……。
何やらエーテルが素材に流れ込んで何かを行っているようだ。むむ……、むむむ……。ん~、よくわからん。感覚をつかむのがかなり難しいぞこれ。多分これは調合系のスキルに何かしら魔法? 的な要素があるんだろう。これもエーテルを使えるようになった恩恵だな。今は無理でもスキルの感覚をつかんで何時かSSでの発動が出来るようになりたい。
まあそれはさて置き、今は簡単にできるこの二つをいくつか作ってポーチに入れておく。……ポーチが結構いっぱいになってきたな。このゲームの初期インベントリは各種二十個までまとめて入れられるスロットが十個ある物で小さい。それが二つある。ヨモギ草が三スロットほど埋めていて、それを消化してポーションと回復丸、薬布で同じく三スロット使った。あまり意味がなかった。ラビィを解体してるので肉と皮に分かれているが四スロット使っている。矢なども入れているのでそんなに余裕がないかもしれない。森で少し狩りをしたら一旦売りに戻ろう。