第二十四話
長らくお久しぶりです。
「そういえば馬はどうなったの?」
「ん? 泉の反対側の森にいるみたいだ。動いてはないね」
姿は見えないが、戦闘中に気配を察知できるギリギリのところに移動してそこで止まっていた。
「どうするの? すぐ捕まえる?」
「いや、先にこいつから採れるものを採っておこうか。結構硬かったから皮はいい素材になると思うし。あ、任せていいか? 俺は先に汚れを落としたい」
全身血まみれだし、何より臭い。
「ああ、ドロドロだもんね。私もちょっと洗いたい。二人に頼んでもいい?」
「いいわよ。なるべく早くね」
了承も得たし、泉に向かう。いやぁ、水源があってよかった。
装備もドロドロなので着たままトプン、と浸かる。あっと言う間に水が紅くなった。顔がカピカピして髪もバリバリしているので潜り、息の続く限り水の中でごしごしガシガシと洗った。
「っぷぁ、やれやれだ」
頭などは綺麗になったが、やはり浸かっただけでは血は落ちない。コートを脱いで、ざぶざぶと洗う。インナーもカピカピになっているので脱いでゴシゴシ洗って一応落ちた。上半身も臍の上まで血まみれだったのでゴシゴシ洗った。ああ、お風呂に入りたい。
ズボンとブーツは着けたまま擦ったら何とか落ちた。水から上がるとズボンが纏わりついて気持ち悪い。コートとインナーは樹に掛けておく。大分さっぱりしたけど、乾燥魔法欲しいな。エルファに聞いてみよう。
ふと視線を流すとティアも水から上がっていた。視線が合った。
滴る水滴と濡れた服が少し、いやかなりエロい。
「な、なんでもない」
何も聞かれてもないけど、つい言い訳をして視線を外してしまった。
外した視線の先ではエリザとエルファがこちらを見ていた。
「な、何?」
「「いや、別に」」
一瞬ティアを見ていたことを咎められるかと思ったがそんなこともなく、解体作業に戻っていた。
心の中で変態認定されてたらショックだな。
「これからどうするのよ」
エルファは馬が気になるようで、ちらちらと視線を泉の向こうへやっている。
「戦闘があったばかりだし、しばらく放置かな? 落ち着いてこっちに来るまで少し待とう」
きっとまだ興奮状態だろうから近づいても逃げるだろうし。
そう説明して、時間を潰すために先の戦闘での感覚を慣らそうと座禅を組んで集中した。
徐々に集中していきまたうっすらと周りを気で把握できるようになったときにシステムアナウンスが流れた。
《ピンポン。アビリティ《瞑想》を習得。アビリティ《イメージトレーニング》を習得》
久しぶりにアナウンスを聞いた気がするわ。
えーと何々……。
『瞑想:物事に集中する方法の一つ。熟練度が上がることによって常時集中力が上がってゆく。精神成長値補正。気功による回復力上昇。エーテル循環速度強化。エーテル操作熟練度率上昇。練気熟練度上昇率上昇。』
『イメージトレーニング:思考内でのエーテル操作。エーテルを思考の中で使用し、発動速度、発動強度を鍛える。熟練度が上がると体外でのエーテル操作が出来るようになる』
ほほう。エーテル関係のアビリティか。あれ、でも今までもイメージトレーニングみたいなことはしてるはずだけど。《瞑想》が取得条件か何かなのかな? そうだとすると、今まで修得できなかったアビリティも何かあるはずだな。エルファは多く取ると鍛えるのは大変って言ってたけど、そうも言っていられなくなったな。
そう思ってアビリティを見てると、見慣れないものを発見。
《小周天》
『小周天:体内のエーテルを体外に放出、同化させ、万物のエーテルを感じる。そしてそのエーテルを再び取り込み自分の物とする。仙術、仙気の初歩。完全習得すると大周天へと変化する。索敵能力上昇。練気強度上昇。エーテル回復力上昇。エーテル濃度上昇』
いつの間に覚えたのやら。可能性としてはさっきの戦闘中に覚えたってとこか。
などと考えてたら、いつの間にか泉の傍まで馬達が移動していた。三十頭はいるのかな? 周りを警戒する様子の馬が十頭ばかり。他は水を飲んでいる。
「ユル、ユル。どうしたらいい?」
そりゃ捕まえるしかないでしょ。と思ったが皆は《フェロモン》とか《獣達の相棒》を持ってるのだろうか。
「その前に聞きたいんだけど、動物捕まえたりするアビリティ持ってるか?」
聞くと、やはり三人とも首を振る。ふむ、予想通りだが面倒が増えた。
「じゃあ、俺が捕まえてくるよ。どの馬がいいとか要望ある?」
「私、白。白がいい。白ければどんなのでもいい」
とエルファ。
「んー、あ、あの青いのがいいな。青いの一頭だけだし」
これはティア。
「黒、ですかね。いや、でも白も捨てがたい。……やっぱり黒でお願いします」
エリザの希望も出た。じゃあ早速捕まえますか。……逃げられないよな?
なるべくゆっくり近づいてみた。少し警戒してるのかこっちを見るが逃げようとはしない。助かるね。
「まぁ落ち着けよ。頼みがあるんだけどさ。俺達の仲間になってくれないか? 四頭程付いてきて欲しいんだけどどう?」
そう言いながら近づく。ついに手が触れるとこまで来たが、どの馬も逃げようとはしない。とりあえずは成功か。
「そこの青っぽい毛色の君……そうそう、君だよ。こっちに来て」
水を飲んでた一頭がゆっくりと近づいてきた。鼻を近づけてフンフン言っている。
「ん、ありがとう。君を欲しがってる子が居るからさ。一緒に来てよ」
首をガシガシ掻いてやりながら言うと、クルッと向きを変えて群れに戻って行った。
(あちゃ~、ダメだったかな)
そう思ったが杞憂の様で、群れの中の一頭に首を擦りつけると、またこちらに戻ってきた。
「来てくれるか?」
そう聞くと「ブフン」と首を振った。いい子だ。
とりあえず一頭確保したのでティアの元へ連れていく。
三人とも驚いた顔をしてるが、今はスルー。
「はい、ティア。名前付けてあげなよ。それと、彼は乗り物じゃなくてティアの戦友だ。そのつもりで接してあげないダメだよ」
「わ、わかったよ。ありがとね」
青毛君をティアに渡してから、白と黒も同じように連れてくる。
さて、最後は自分の馬だがどの子にしようか。
そう思いながら探していると、群れの中から一頭進んでくる奴がいた。ズンズンと進んできて俺の目の前で止まる。
「どうした、何か用か?」
そう問うと、身体を横に向けて首だけをこちらに向けて、「ブフフン」と鳴きながら首を背中に向けて振る。
「俺に乗れって?」
そういうことだろうか。まだ鞍も何も付けてないが「よっ」とまたがってみると「ヒーヒヒン」と鳴き、なんだかご機嫌そうだ。
「何だ、俺の事が気に入ったのか」
「ブフルン」
なるほど。こいつに選ばれたのか。どちらにしろ馬の良し悪しなぞわかるはずもない。それに好かれているのは悪い気がしない。
「よし、じゃあお前が俺の相棒だ。よろしく頼むぞ」
馬の背に乗って村への帰り道。一応出発前に鞍やら馬銜やらを準備しておいたので早速馬に装着してある。
他の三人も同様に騎乗の人となっているが、馬の気がそぞろで気を抜くとはぐれてしまうようだ。現にティアが何度かはぐれそうになっていた。
「お前も名前を決めておかないと不便だよな」
馬の名前、といわれて思い浮かぶのは『赤兎』とか『松風』とかか? 有名どこだし。でもコイツは鹿毛では無いので『赤兎』はないな。
俺の乗っている馬は全身真っ黒。色だけで言うとエリザの馬と一緒だが、エリザの馬より少し大きい気がする。
黒くて大きいとは……やるな。口に出しては言えないけどね。女性陣に何を言われるか分かったもんじゃないし。ギャグって言っても通じないだろうしね。
冗談はさておき、中々に格好いいお馬さんなのだ。いい名前をつけたい。
ちなみにエルファの馬は「シルバ」。白いし馬と行ったらこれでしょ、だそうだ。別に文句は無いよ。ほんとに。
ティアの馬は「ブラオ」で、エリザの馬は「ゲルゲラ」となった。
「そうだな……カイザー、でどうだ?」
馬は首を上下に何度か揺らした。了承、だと思う。
「よし。よろしく、カイザー」
またしばらく間が空くとは思いますが、一応続きます