第二十三話
言い訳なしです
申し訳ございません
段々反応が良くなった。どうやらなんとかなっているらしい。
最初はやっぱりスピードになれなくて、反撃も受けたけど今はもう反撃も受けない。スピードもブレーキをかけたりして止まるんじゃなく身体を上手く使ってベクトルを変えてやれば、そのまま速度を殺さずに攻撃力に変えられた。
「よし、このままっぐぁ。目が……」
しまった。返り血で前が見えない。くっそ、ティアはまだか!
「っち、くそ!」
後ろからの気配に右に跳び、刀を振る。手応えはなし。外れた。今度は右から。
「また、っぐ」
大きく後ろに跳んだら樹に突っ込んでしまった。これじゃ安易に動けないぞ。
「落ち着け、落ち着け」
焦るが《自制心》のおかげなのか段々と落ち着いてくる。
「落ち着け、気配を読め……感じろ……」
気配はわかる。無駄に気功の訓練をしたわけじゃない。だけどもっと正確に読まなきゃ。
正確に感じないと。
「く、もっと正確に」
正面から来るのを左に躱す。もっと全体をしっかり見ないと避けたときに危ない。もっと感覚を研ぎ澄ませ。
上から来た奴を転がって避け、そこに飛び込んできた奴を何とか斬り伏せる。頭から返り血を浴びてぬるぬるだ。
もっと、もっと集中しろ。だんだん気配がわかる様になってきたぞ。
右に、左に、後ろに前に。徐々に避ける動作が小さくなっていく。気配がはっきり見えてくる。バンデットやグラットンだけじゃなく、周りの木々や泉、泉で泳ぐ魚まで。うっすらとだが確実にわかるような気もする。
これならやれる。
そこからは今まで以上にスムーズな戦闘になった。目で見て反応するのではなく、全身で感じたまま体を動かせばいいのだ。相手の呼吸や筋肉の動きさえわかるような気になる。
感じるのは周りの生命すべて。自分の動きさえ手に取るようにわかる。
ティアが来たのを感じたが、動く気配がない。どうしたんだろう?
「ユル君!」
動かないと思ったら声をかけてきた。ほんとにどうしたんだろうか。とりあえず少し疲れたし、奴らも警戒してるのか少し動かなくなっている。一旦、休憩も兼ねて情報交換しようかな。
そう思ってティアと話し始めたけど思ったほど待ってくれないらしい。
「ティア、次がくるよ。いい?」
「う、うん。大丈夫、まかせて」
さて、第二ラウンドだ。
ティアにグラットン用に罠をかけてもらって、その間にバンデットを狩り、グラットンを攪乱する。
グラットンはバンデットを狩る程の相手で、流石に硬かった。肉が硬いのか毛が硬いのか、斬り落とすことが出来なかったのだ。突きは刃先が少し埋まる程度。むぅ、修行不足を感じる。
「ユル君、いつでも」
どうやら準備が終わった様だ。こっちも後少し。
「こっちも…………これで、終わり!」
敵の数がなくなってグラットンが馬を襲いに行こうとするから、こちらに気を引きつつバンデットを狩るのはさすがに骨が折れる。
馬は脅威が減ったからだろうか? 少し離れているが、逃げようとはしていない。いや、助かるけどさ。
「こっちの樹の前に誘い出して。ユル君がかからないようにね」
何とかうっすら見えるようになった視界で罠に気をつけるって結構厳しいんですけど。
たぶんティアの横に立てば何もないはず。どんな罠なのかわからないので周りの樹に飛び移り、そこからティアの横に立つ。うん、何もなくてよかった。
グラットンは馬の方をチラッと見たが、周りにバンデットの死骸があるのでそれを食べるのに夢中のようだ。
誘うって言ってもどうすりゃいいのやら。
とりあえず食事中のグラットンに弓を射掛ける。一応刺さってはいるけど効果はほとんどないんだろうなぁ。何本か撃っていると鬱陶しそうにこっちを見る。これは効果ありかな? そう思ってさらに射掛ける。さらに十数本撃ち込むとようやくこっちに向かってきた。
ティアがどんな罠を仕掛けたのかわからないが、とりあえず見てるしかないのでかなりどきどきする。
一応弓を射続けたが三メートルくらいまで近づいたときに罠が発動した。簡易な落とし穴がグラットンの足を捕らえ、それと同時に輪になった縄が体を締め付ける。どうやら穴に何か仕掛けたようで、苦悶の悲鳴を上げる。すると横合いからしならせて反動をつけた樹とその先にくくられた槍がグラットンに突き立った。さすがにこれは刺さった様で、脇から刺さり腹に穂先が飛び出ていた。
一際大きな咆哮があがる。
「さすがに貫通特化槍だね。お、毒も効いてきたかな?」
うんうんと頷いて近づいていくティア。
「おい、危ないぞ」
「大丈夫。毒と一緒に麻痺薬も塗ってあるから。準備に手間かかったけど、うまい具合に発動してよかったよ」
そういって近づいた時にグラットンの咆哮と腕が伸びた。が、それだけだった。
グラットンの腕は斬れて落ち、頭上に現れた氷塊がグラットンを押しつぶしたのだ。
「ティア、いつも言ってるけど不用意に近づきすぎ」
「大丈夫。あれくらいなら避けれるし、エルファが何とかしてくれる、でしょ?」
漸く追いついたエルファの魔法が発動したのだ。
「間に合ったから良かったものの……」
ぶちぶちと文句を言いながら近づいてくるが、エリザが少し暗い。どうかしたのだろうか?
「エリザ? 何かあったか?」
「……私、今回何もしてないです」
そう言って落ち込んだのだった。