第二話
まだログインしませぬ……
二人で興奮しながらなんだかんだ言っていると流石に徐々に落ち着いてきた。そしてキャラメイクにも時間が掛かるだろうが早くプレイしたいとログインを七時に決めて部屋に戻った。
「ついに……ついに《New Life》がプレイできる」
俺は斜め上を向き、感動のあまりうっすらと出てきた涙を流しながら両拳を握りしめた。きっとこれが男泣きだろう。
そんな阿保なことを考えていたが許してほしいと誰にでもなく謝った。
半年前、βテストの抽選に漏れ、公正を期すための初期発売の抽選に漏れ、正式オープン記念のプレゼント抽選に漏れ……。機器のヘッドセット化に伴うソフトアップデータの配信を兼ねた第二販売予約抽選に当選し漸く手に入れたのだ。感動せずには居られない。きっと健次も同じ気持ちのはずだ。
βテストに当選し、半年早く始めたもう一人の幼馴染、知香が自慢してきた時には本気で殺意を抱きそうになったものだ。
「さってと。時間までにアバ作らないとな」
予定時刻まであと五十分少々しかない。
最近のVRゲームで性別は基本変更不能なので悩む必要はない。これは年齢によっては体調や生育に悪影響が出るという研究報告があるからだ。ネカマプレイでホルモンバランスが崩れた症例もある。
更にはこのゲーム、十五禁指定と十八禁指定がされている。
そして購入登録時に身分証明書のコピー送付義務がある。
何故そこまでするのか。一つは痛覚のフィートバック。最低でも50%と言う高いフィートバック率である。もう一つは購入時、あるいは購入後に十八歳を迎えると制限解除され、性行為、つまりsexが可能なのだ。
開発者は何を考えて居るのか……リアリティー求めすぎだろと突っ込みたい。
勿論お互いの同意がないと犯罪である。
その為セクハラ行為、痴漢、過度なナンパ行為など女性が嫌がる行為を行うとセキュリティシステムによりペナルティーを受ける。そしてそれはネット上の犯罪掲示板にも掲載され警察にも個人情報が流れる。
そこまでするか、とも思うが実はVRが普及し始めた当初は、そういった目的のVRなどで欲望が発散されていたのだが、他のゲームやMMOなどでのマナーの悪化や徐々に現実と仮想の区別があいまいになる者が増えてきた。そのため、仮想の中でも一定の犯罪は取り締まろうという動きが出てきているのだ。PKや盗賊プレイなどはゲーム内でも犯罪者扱いだが、今のところロールプレイとして受け入れられている。しかし性犯罪の部類は取り締まり対象にしているゲームも増えてきている。垢バンだけでなく捕まるので流石に性犯罪は減っている。≪New Life≫も類にもれずで、そのお陰か公式発表の女性プレイヤー数が他のタイトルより多い。
さらに人気があるのは登録時に診断書などを提出すると性別変更可能だからだ。そのため性同一性障害の人たちにも人気なのである。まさに|新しい人生(New Life)の名に相応しいとの声が多い。
ヘッドセットをネット回線へつなぎ電源を入れる。ソフトをインストールして再起動するとシェード部分に事前登録した個人情報が表示されその確認があり、その後キャラネームの入力があった。
「さてさて名前は……《ユル》でいいか」
これはいつも俺がバイト先で呼ばれる名前だ。優人の優をユウとスグルと読んで最初と最後を合わせてユル。例の店長さんが付けた。
ヘッドセットを操作して登録すると次のステップへ進んだ。
『スキャンしますか?Y/N』
「勿論イエス!」
俺は今までスキャンするゲームをしたことがなかったので実は楽しみだった。何しろスキャン機能付のハードは高いのだ。
『服を脱いでヘッドセットを装着してください』
スキャンで服を脱ぐのは抵抗があったが仕方ない。
俺は下着姿になりヘッドセットを着けenterをタッチする。
ヘッドセットからシールドが降り
『ヘッドセット右側のスキャナーを外し左足元に置き、enterを押してください五秒後にスキャンを開始します』
俺は言われた通りにしenterを押した。 すると足元のスキャナーが体の周りをゆっくり回りながら浮き上がる。
一分ばかりかけて元のヘッドセット右側に納まった。
「すげえ。こうやってスキャンするのか」
感心していると『ビー』と音がなった
『エラー。服を脱いで再度スキャンしてください』
「全裸かよ!!」
突っ込みながらも無事にスキャンが終わった。結果をハードに保存する。
ここからはキャラエディットサーバにログインして進めるとのことで、服を着てログインした。
ログインするとそこは薄黄緑色の線が幾重にも重なり幾何学な模様を描いた球体の中の様だ。
『ようこそ≪New Life≫キャラクターエディッターへ。まず種族を選んでください』
どこからともなく声が聞こえ目の前に半透明なスクリーンが浮かんだ。そこには種族と種族の人口グラフが表示されていたが、種族は少なく『人間』『エルフ』『ドワーフ』『獣人・犬』『獣人・猫』の五種だった。
グラフで一番多い『人間』は特色がないのが特徴で、アビリティの構成で成長が異なる。次いで多い『エルフ』は魔法関連のアビリティを取得しやすくステータスも伸びやすい。一番少数の『ドワーフ』は鍛冶などの製造系アビリティの伸び率が高くなる傾向にあるらしい。『獣人』は敏捷が関係するアビリティを得やすく『獣人・犬』は集団行動、『獣人・猫』はソロプレイ向きのアビリティを取得しやすい。
《New Life》ではアビリティを取得し、鍛えることによってスキルを取得できる。アビリティ構成によりジョブが決まるのである。
ここで《New Life》の特徴を説明すると、他のMMOなどと違いアビリティを選択して取得するということができない。このゲームではアビリティ、スキル、ジョブは取得するのではなく修得するのだ。さらにステータスも行動により上昇する。
つまり、『走る』ことを続けると敏捷と体力が上がり規定値を超えるとアビリティ『ダッシュ』を覚える。アビリティを覚えるとステータスにプラス補正がされる。戦闘などの経験値でレベルが上がるのではなく、行動によりステータスを伸ばし、自信を強化する。このゲームの人気があるシステムだ。
追求されたリアリティ。自分の行動により自分が成長する。まあゲームなので成長速度は現実よりはるかに早いが。
ジョブはステータスの上昇値にボーナスが付くのが特徴で上級職になればその分ボーナスも上がる。もちろん上級職になるほど条件は多くなる。例えば《剣士》と《騎士》。剣士は『剣術』と『体術』がのレベルが一定以上あればなれるそうだが、騎士には前提ジョブに剣士、アビリティ『剣術』『馬術』『槍術』『盾さばき』などに加え必要ステータスも決められているとのことだ。
情報があいまいなのは各ジョブに必要なアビリティ構成や要求ステータスは隠されており、それらも人気の秘密である。ちなみに各ジョブの詳細条件は未だ不明だそうだ。
ちなみにこれらの情報は公式発表およびβテスターの例の知香情報だ。
何といってもこのゲームは実は掲示板が存在しない。公式によると
『リアリティがこのゲームの醍醐味です。そのためゲーム内での情報交換と口コミ等は認めるがネット掲示板等への書き込みは認めません。書き込みを見つけ次第削除依頼を出し、最悪の場合はログ解析からIDを割り出し、アカウント削除をします』
とのことだ。ちなみに身分証明書のコピーとともにこれらの規約に同意するという同意書も送付することになっている。そこまで周知させているのに実際にアカウント削除された人が三人いるらしい。アホだ。いや、きっと興奮してしまったんだろうな。
まぁともあれキャラエディットだ。
「俺はやっぱり『人間』でいこう。……え゛」
種族選択後、スクリーンが一度消え、姿見の様なスクリーンとスキャンしたキャラデザインが立体表示されたのだけど、それを見たらげんなりした。
スキャンしたので俺自身と同じというのはわかるが何故全裸……。しかし、こうやって見るとかなり強烈かもしれないな、と思う。
俺は自分でいうのもなんだけど結構美人さんだ。美人というか美女? よく間違われるが俺は男である。両親ともに線が細く、童顔な父親と勝気美女の母で俺は母に似たと言われている。小学校高学年くらいのころには女男やオカマと言われてからかわれた。中学になると同じ面子だったこともあり、飽きたのか流石にからかわれることはなくなった。
高校になる前にイメチェンにと母親の勧めで男装した女性風というポジションを取ると女子が寄ってくるようになった。男装の麗人と言われたけどからかっているわけではないと分かり、最初は男物でそれっぽくしていたけどそれ以来マニッシュな女性の服をよく着るようになったのだ。割り切ると気にならなくなるし。もちろん女の子になりたいとかじゃない。
ただ、女子には良くモテたけどアイドル的な扱いらしく恋愛対象外だとはよく言われたっけ。自分より綺麗な男は嫌だとかレズになった気がして嫌とも言われたな。後、男からの告白も増えたけどね。
今ではもう慣れたもので気にも留めない。女性だと勘違いされたまま、女同士の会話やスキンシップをされると罪悪感から気になったりするけど、男だと伝えた上での接触やスキンシップは大歓迎だ。勘違いとかじゃないから向こうも確信犯のはず。つまりそういうことですよね? 性欲全開の年頃で異性に堂々と触れられるのはかなり役得だと思う。そんなときはこの容姿に感謝だ。
ただ先も言ったように強烈なものがある。
それは俺の息子のサイズ。自分では大きくて良かったと、気にもしていなかったのだけどかなり凶悪ならしい。外見と相まってギャップが激しいと。男としては羨ましいが、外見とミスマッチで気持ち悪いとの評判だ。一応女性に対しては使用済み。現在彼女無しだが、そういった関係の人が居たりいなかったり。まあそれは置いといて、サイズのせいで一歩手前までいったことはあったけどサイズでドン引きされることは結構多い。大体が初めての子だったみたいだけど、さすがに気持ち悪いはショックだった。
でも確かに、鏡ではなく立体なグラフィックで他人として見ると少しその意味が分かった気がした。
話がかなりそれた。キャラメイクだった。
色々な項目をいじっていると調整パラメータに『膨張率』というものがあって何かと思っていじってみた。
もう、なんか……なんでこんな項目作ったのか。運営の気がしれない。
膨張率を変えると大きさが変わるのだ。…………息子の。しかも膨張時。自分の分身が目の前で勃起していくのは何とも言えないものだった。
そりゃ年齢規制もかかっているし、使用することも出来るけど、ここまでいじる必要があるのかと言いたい。いや、俺のをうらやましいと言っていた奴らには嬉しいのか? でもリアルに戻った時にがっかりすると思うな。
俺は考えるのを放棄して髪色と目の色を変えるだけにとどめキャラメイクを終えた。
『《New Life》手に入れたぞ。すぐに追い付いてやる』
健次との約束時間に近づいてきたことで俺のやる気は再び燃焼を始め、テンションも上がってきた。
その勢いで例の幼馴染みに宣戦布告のメールを出した。が、その返事は
『そう、おめでとう。ご飯たべたらログインするから後で』
というもの。半年前に散々自慢してきたので今回も挑発してくるかと思ったのだが拍子抜けだ。
まあ中で会うつもりのようだからログイン時間だけ知らせておいた。
ついに来た約束の時! なんて、楽しみ過ぎてテンションがおかしい。大学生になっても心は子供。自分、アホみたいだが仕方ない。
ヘッドセットを着けてベッドに横たわり準備完了。
「さあ。第二の人生の始まりだ」
やべぇ、テンションがやべぇ。