第十八話
お久しぶりです
「うおぁぁ! 来い! 雑魚共」
エリザが気合いを込め叫ぶ。それに威竦むロブラビット達と危険と見なし敵意を向けるヴィーゼヴォルフの群れ。
敵の意識を自身に向ける《咆哮》。装備と能力値の通りエリザは壁役だった。
飛び掛かるヴィーゼヴォルフを盾で受け、時には《シールドバニッシュ》で弾き飛ばす。もちろん剣も振り、確実に数を減らしていく。ロブラビットが動き回ると再び《咆哮》で動きを止める。
ティアは漏れてエルファに向かうモンスターを討ち、エルファが魔法に集中出来るようにフォロー。余裕がある時はエリザに群がる敵を減らす。
エルファは補助と回復をかけ、敵がまとまると範囲魔法で倒していく。時々余波で前衛二人がダメージを受けるが、いつものことなのだろう。お互い慌てず、回復している。
その間、俺が何をしているかと言うと。
――せっせと解体をしている。
いや、馬鹿にしないで欲しいが結構大変なんだよこれ。
エリザとティアが倒したのを敵の群から引っ張ってきて解体。魔法で倒れた奴の中から解体できそうな状態のいいのを選って解体。
何故そんなことをしてるのか。答えは倒してから時間が経てば経つほど、剥ぎ取れる部位も質も無くなるからだ。ちなみに俺がじいちゃんに聞いた話だと血抜きも完全ではない状態だと十分も経つと肉が臭くなるそうだ。
それと戦闘に参加しないのは俺がパーティー組んでの戦闘が初めてだからで、大体の動きを見ろとのこと。
程無くして戦闘は終わった。
「お疲れ様」
「いやー、錬気? 気功? スゴいね。楽チンだわ」
「受けるダメージもいつもより少ないですね。アビリティスキルも強化されてるみたいです。これなら今まで中々進めなかったダンジョンも攻略出来そうです」
錬気と気功の恩恵が分かりやすい二人は、能力の上昇が嬉しいのだろう。それに引き換え差異が出にくい魔法を使うエルファは少し不機嫌そうだ。
「エルファ? 大丈夫だよ。錬気をがんばれば、魔法の威力とか効果も上がるはずだから。頑張ろ?」
「……うん」
少し顔を除き込みながら励ますとわりと大人しく頷いた。
もっと拗ねたりするかと思ってたので拍子抜けしたくらいだ。
実は《フェロモン》の効果も少しあったりもするがユルは気付かない。
「でもさ、これとかって結構重要な情報だよね? 何か対価を払ったほうがいい気がするなぁ」
ティアがそんなことを言っている。
「んー……、でもみんながもっとNPCと会話したりすると簡単にわかることだしなぁ」
「ですがただで教えてもらっていい情報ではないと思います」
「そうかぁ。なら先行組ならではの情報と交換でいいよ。瓦版で分かるようなやつでいいから」
いちいち情報を探す手間が省けるしね。
それから暫く戦闘は無く順調に旅は進んでいく。初めての旅でもっと疲れるかとも思ったけど戦闘に参加してないからか、それほど疲れは無い。
「そろそろお昼にしよう。ここなら見晴らしもいいから警戒もしやすいし」
少し丘の様になったところでエルファが言った。たしかに、茂みや木立などもなく危険を察知しやすい。
ロブラビットの肉の耐久値が低かったので早速お昼に調理して美味しく頂いた。一人じゃないので協力してテキパキと準備が終わり、昼食後の休憩時間が若干増えた。
「ティア、気になってたんだけど」
「ん? 何?」
「その尻尾ってどうなってるんだ? 自分で動かせたりするの?」
ティアの尻尾が気になって仕方がない。いや、尻尾だけじゃなく、猫好きな俺としては獣人の猫族が気になる。どんなもふもふなのか……。バイトで猫まみれになって色々な猫に触れているといろんな手触りの毛があるのに気付いた。なので非常に気になる。
「ん~、自分で動かそうとして動いたことはないかな。動かし方わからないし」
そう言うティアの尻尾は左右にユラユラしている。
「……触ってもいい?」
一応許可を得て触ってみる。
フサフサ、もふもふ……
「ん~、気持ちいい……たまらんね」
「にゃふ~」
尻尾気持ち良いよ~。
「……ねぇ、耳も触らせて」
「え? にゃ」
むにゅむにゅ……猫耳だ。癒される~。
「ああ、猫最高」
満足いくまでティアを味わった俺はホクホクだ。やらしい意味じゃないですよ?
「癒された~。満足です」
「……アンタ昔から猫好きだったもんね。バイトも猫まみれだし」
ジト目で見られて少し居心地が悪いけど、俺の傍には猫が、いやティアがいる。何時でも癒されますよ。
「猫最高です。ティア、ありがとね」
猫にするみたいに耳の付け根をカシカシと掻く。とろんとした表情のティアが誘っているように見える。……いや、勘違いってわかってるけどね?
「しかし、初めて旅してみたけど、案外戦闘少ないね」
ちょっと強引かな、と思ったけど話題転換。少しティアから意識を外そう。
「まぁね。平原とかは比較的戦闘少ないよ。隠れるとこないから」
「隠れるとこ? 近づきにくいとか?」
たしかに強襲とかするのには向いてないけど。
「そうじゃなくて。このゲームはリアリティがかなり高いわよね」
「そうだね」
「普通のゲームではモンスター同士って戦わないよね」
「……そうだね」
「このゲームはですね、必ず捕食する側とされる側が存在するんですよ」
「つまり、平原はモンスターも他のモンスターの標的になりやすいから数が少ないってこと?」
「そうです。だから平原や荒野などのモンスターはかなりの群れで行動し、一箇所にとどまらず獲物を探します。先ほどの戦闘のように二種族が遭遇戦をしているところに出くわして巻き込まれるのは流石に稀ですが」
なるほど。あれ? ちょっと待って。
「ってことは、さっきの奴らより強いモンスターが居るって事?」
「そうよ。森とかなら縄張りが有るみたいで強い敵と言っても近づかなければ大丈夫だけど、平原は縄張りとか殆ど無いのよ」
「なので運が悪いとかなりの強敵にあったりします」
「だね~。聞いた話だとワイバーン二匹に襲われて全滅したパーティがあるって」
げげ。ワイバーンってあれだろ? ドラゴンの下級位。まだ全マップの一割も明らかになってないのにドラゴンとエンカウントてどんだけ運がないんだろうか。
そこまで考えてふと思った。
「……あのさ」
「なによ」
「だいたいこう云う話してるとさ」
「……フラグってやつが立ったりしますよね」
「……」
「……」
黙り込むエルファとティア。不安になるから黙らないで欲しい。
「大、丈夫よ。きっと」
キェアー……
「……今の声は?」
「……空耳。そう、きっと空耳よ」
ギェァー!
「ぜってー違う! 誰だフラグ立てた奴!」
「知らないわよそんなの」
「二人とも、来ます!」
視線の先には、黒いシルエットが月の中に浮かぶだけだった。