第十四話
製造回です
珍しく長文になりました
とりあえず鍛冶屋に行って少し修理してもらうことにした。自分でも出来るが工房も工具もないので簡易なものしかできないからだ。ちなみに製造キットで出来ることは火を使わない簡単な製造と簡易修理とメンテナンス、それに加工と合成などの調合関係だ。
だが、イアンナさんの工房を訪ねた俺は予定を変更せざるを得なかった。というか何を考えてこの時の俺はイアンナさんの工房に来たのか。貸し工房に行けばよかったのに。
「イアンナさん、こんちわ」
「おや? ユルじゃないか、何か用かい」
「ええ、そろそろ武器の修理をお願い、した、い……んですが、どうかしたんですか?」
みるみる顔つきが険しくなっていった。
「アンタは私に何を教わったんだい! 私は技術は叩き込んだはずだよ」
「ええ、そうですね。叩き込まれました」
「だっだら何で私に頼むんだい! 工房と道具はここのを使って良いから修理くらい自分でやんな」
どうやら自分でやらないことにご立腹らしい。かなり怒ってらっしゃる。
「わかりました。では工房と道具をお借りしますね」
ビクビクしながらさっさと修理して出ていこうと思ったところ、襟首を捕まえられてしまった。
「待ちな。折角だ、アンタ自分の武器を作りな。私があげたのはそんなに大したモンじゃないからね。それに弟子の腕もどれほどになったか見ておきたいからね」
ニヤリと笑うイアンナ。かなり怖い。
「あの、材料をもってないんですが」
「それくらい用意してあげるわ。あんたが扱えるギリギリの最高級品をね。不抜けたもの作ったら一から鍛え直してやるからそのつもりでやりな」
≪派生クエスト:「試験」発生しました≫
そのまま工房に引きずられていく俺。アナウンスを聞きながら。……生きて出られますように。
イアンナの用意してくれた素材は日本刀作成に不可欠な玉鋼。その等級は「1級B」。今の装備は銑鉄で、不純物が多くランクが低い。鍛造が成長し切ると「1級A」の最高級玉鋼を扱って最高品質の刀ができる、らしい。ちなみに上位素材を手にかけるのに技術が足りないと出来るのは劣化品か屑。劣化品はマイナス補正がかなり掛かる。普通品質が-3~+3、+4~7で高品質、最高品質で+8~10となる。劣化品は固定でマイナス10が付く。低品質があるのかと思えば―4~―9が存在しない鬼畜仕様だった。屑はただの鈍以下で装備もできない。
ちなみに性能補正は±の数値でパーセント。例えば+6の装備品ならその元性能に+6パーセントの上乗せがある。以前造った『ウルフラップド・ボウ』は普通品質の±0で非表示になる。これは簡易製造キットを使った時の最上位品質だ。
さて、今の俺のレベルだと「2級B」で余裕をもち最高品質、「2級A」でどうにか最高品質を打てる『かもしれない』くらいで、「1級B」になると全力で打っても高品質に行くかどうか怪しい。一応「1級A」を使っても劣化品にはならないと思うがどう頑張っても高品質は打てない。下手をすると普通品質のマイナス補正かもしれない。
だがやらねばならぬ。そう、俺の後ろでは鋭い目付きで俺を見ている『鬼』がいる。
「くっ……これで、どう、で……しょうか」
燃え尽きたぜ……真っ白にな。
どうにかこうにか打上げた俺の品は「直刀 焔+3」とその過程でレベルが上がったのか「直刀 焔+4」だった。
焔が付いたのは波紋が炎のそれに見えるからだろう。だからと言って火属性とかはない。ただの名称だ。
「まぁまぁ、かな。一応合格としておこう」
「あ、ありがとう、ござい、ます」
しっかりしな、とポーションをかけてもらう。
「ユルのレベルじゃ+2がぎりぎりかと思ったが中々成長してるじゃないか。予想以上だよ」
俺もまさか高品質に手が届くとは思わなかったけど、予想以上なのに「まぁまぁ」で一応の合格かよ。何と言う鬼。でもこの鬼が見ていなかったらこの品質はまず打てていないと思う。その点は感謝?
【直刀 焔:品質+3 耐久C+3% 斬力C+3% 貫通力C+3% 出血補正C+3%】
【直刀 焔:品質+4 耐久C+4% 斬力C+4% 貫通力C+4% 出血補正C+4%】
斬力は切れ味だそうで。D~Cは普通でSが名刀、Gが鈍となる。貫通力は突いた時の鋭さ? 威力? らしい。いまいち分かり難い。
ちなみに防具の修理と回復薬の購入も同じことになりました。
疲れた。イアンナさんに行けと言われ、デイル防具店とアルト雑貨屋にも行かされ、イアンナさんと同じことを命令された。二人とも無茶苦茶でした。デイルさんは下位防具でなく、上位防具を、しかも一式造れとおっしゃったのですよ。どんなイジメかと思う。ちなみに下位と上位の違いは、前にも言ったが武器ならバスターソードやカットラス等、防具ではレザージャケットやナイトメイル等、既に形の出来た、性能やデザインが一律の量産可能製品を下位と呼ぶ。上位は生産者のオリジナルで、デザインや性能は生産者の腕次第で決まるのだ。
そんなものをインナー、コート、パンツ、ブーツと造らされた。正直イアンナさんよりキツイ。
アルトさんも腕輪とイヤーカフス、ネックレスと各種回復アイテムを二十種類と造らされ、イアンナさんが優しく思えた。
更に予定外のことに細工・彫金をさせられた時、アルトさんに《装飾付加》を教えられることになった。これは細工や彫金時に特殊な素材を使うことで装備に特殊効果を付加するものだった。
作業にはエーテルを使うということで、以前教えてもらえなかったのはエーテル操作が出来なかったからだろう。ただ作業はまた今度来て教えてもらうことになった。ログアウト時間が近いから時間がないと言ったらそうなった。正直助かった。
そんなこんなで精根尽き果てた俺は燻製など作る気力も時間もなく、その日を終えたのだ。
ログアウト予定が狂った。結構前から制限時間のタイムカウントが始まっている。今は後四分しか猶予がない。本当にギリギリだった。ログアウトして寝よう。
『メンバーは集まったわ。でも予定とか合わせることを考えると今度の連休を使った方がいいってことになったわ。だから週末、金曜日の夕方からログインして出発。可能ならカヴァーロの往復を三日間で終わらせる予定』
知香からのメールでカヴァーロに行くのは週末と決まった。それまで何をするかだけど、一つはもう決まっている。《装飾付与》だ。これで装備を強化して、それが終わったら保存食作り。別に買ってもいいんだけど、これからのことを考えると作れた方がいい。と言っても干物を作る程度だと思っている。あとは修行? かな。
今日のバイトはいつも以上に猫まみれになった気がする。やたらウニャウニャと寄ってきた。ふふん、愛い奴らめ。
講義も終えて帰ると思った以上に早く帰れた。まだ十五時と少し。今ログインするとゲームではまだ夜が明けないはず。十六時まで待ってログインしよう。軽く食事を取って、ん~……二十時ログアウト、かな。と、予定を立てたところで何か食べよう。と言っても時間が少ないから……インスタントにラーメンで。
ログインしたら朝です。ちょうどいいタイミングだ。なので早速アルトさんの所に行こう。
「おはようございます」
「やあ、おはようございます。ユル君、早いですね。ちょっと待ってくださいね」
店に入るとアルトさんは店員さんに何やら指示を出していた。軽く手をあげて挨拶するとまた指示をする。
「……ではよろしくお願いしますね。さて、お待たせしました。工房に行きましょう」
この優しげな人が作業になると口調が変わる。二重人格もいいところだ。
工房に入るとまずは口頭指導になる。
「さて、以前は軽く説明しましたが、《装飾付与》にはエーテルもしくは魔素を使います。これはどちらでも構いません。効率で言えば魔素ですが効果で言えばエーテルです。なので使いやすい方で結構です。重要なのは媒体で、これにエーテルもしくは魔素を定着させます。なので定着率の良いものを使います。もちろん金属加工品には金属、布や革製品には糸を使います」
そう言って、工房にあった二つの素材を手に取る。
「決まりはないですが、金属はこの魔銀か少し高価ですがミスリルを使います。糸なら魔蚕の絹糸が一般的です。ところでユル君はエーテルと魔素のどちらの扱いが得意です?」
「エーテルの方が得意ですね」
「では《外気功》と《内気功》は使えますね?」
俺が頷くとすぐに作業モードに入った。
「なら始めるぞ。さっさと準備しろ」
鬼アルトモードだ。
「まずこの魔銀を使う。これを握ってエーテルを込めろ。感覚は《外気功》と《内気功》を同時発動だ」
投げてよこされた魔銀の塊をお手玉しながら受け取り意味不明なこと言うアルトさんに聞きかえした。
「ど、ど、どういう事?」
「馬鹿か。いいか? 魔銀に向かってエーテルを放出する。そして魔銀を自身の一部だと思い放出したエーテルを受け取れ。その時、魔銀をお前のエーテルで満たしておけよ。でないと反発するぞ。そして受けたエーテルを魔銀に取り込ませるんだ」
説明されたけど、よくわからん。取りあえずやってみよう。
まず魔銀にエーテルをまとわせるのかな? ん……むむむ、なんか違うか? えとアルトさんは体の一部と思えって言ってたから、魔銀も自分だと思って強化する感じか? ぬ~ん…………あ、なんとなく魔銀? 異物感がある気がする。
「よし、そのままエーテルを魔銀に放出するんだ」
アルトさんのオッケーも貰ったからこれが魔銀で合ってたんだな。そういえば、内気功使いながらの放出ってしたことないけど大丈夫か? とりあえず試してみるべし。
魔銀を握った反対の手で放出を。お、ジワリとだができた。
「おいおい、えらく弱弱しいな。日が暮れるぞ」
……うるさい。今から出力上げますよーだ。ぬぬぬ……おお。いい感じかも。あ、魔銀から俺のエーテルが戻ってきた。そしてそれを再び放出。おお、これぞ永久機関。
「阿保か!」
スパーン! と頭を叩かれた。痛い。かなり痛い。ちょっと涙出たさ。
「お前が自分で吸収してどうする。魔銀に受け取らせるんだよ」
いや、これ自動で返ってくるんですけど。と言うか疑問なんですが。
「これ、内功で満たしてるだけじゃダメなんですか?」
このまま使えば超絶に簡単なんだけど。
「やってみたらわかるが、内功を切った時点でエーテルが消える。それを定着させるまでとなると数年かかる。だから無理やり外功で取り込ませるんだ」
と言うので内気功切ってみた。すると魔銀の反応も消えた。えー……。
「コツとしてはエーテルが戻ってくる前に内功を切れ。そうすれば魔銀が受けたエーテルが残る」
と言うのでやってみた。けどタイミングがシビアだ。トカゲの尻尾みたいにちょろっとだけ魔銀に残ったり、完全に自分で吸収したり。切るのが早すぎて魔銀が弾かれて顔面直撃したり。と、繰り返していると。
《アビリティ《エーテル・魔素付与》を取得しました》
てことでアビリティゲット。説明を見ると、これ人にも出来るみたいだけど反発があるので短時間で切れるみたい。これが出来ないと他人へバフとか出来ないらしい。物や植物も基本的には同じだけど、今使ってる魔銀とかみたいに溜め込む性質のものとかだと付与したエーテルや魔素は消えないらしい。
とにかくこのおかげで一気にやりやすくなった。具体的にいうと今まで両手を使ってたのが片手でできるようになった。感覚的なことなので説明しにくいが、エーテルで満たしてそのまま弾き飛ばす? みたいな。実際に弾き飛ばす訳じゃないけど、握ったボールに力を入れて~パッと放す、みたいな。……言っててよくわからんからやめよう。
取りあえず効率よくエーテルを魔銀に与えることが出来た。
【魔銀:エーテル付与Cランク】
「ふ、Cランクか。このランクは質だ。ABCの三つでもちろんCは最下級だ。伝説級と言うSがあるとも聞くが見たものはいないな。もちろん俺もない。まあいい、次だ。これからが本番だからな。最初に効率は魔素がいいと言ったが、魔素は付与がすこぶる簡単だからということと、精霊たちの好きな属性の魔素を付与できる。そうなると多少細工が歪でも問題ないからだ。エーテルだと付与も難しいがさらに各精霊の好みの細工を施さないとだめだ。その代り精霊が気に入る細工なら複数属性も可能だ。魔素は複数属性の魔素付与は難しいが細工自体も気に入られれば効果は上がる。エーテルは細工の腕次第で複数属性の付与もできるが、効果の上昇率はかなり上がりにくい」
なるほど。一長一短がありますな。製造職を目指すならエーテルと魔素の両方を鍛えた方がいいのかも。ま、俺は製造職じゃないんでこのまま行くけど。
「効果を簡単に言うと火なら火属性・筋力上昇、水なら水属性・知力上昇、地なら地属性・体力上昇、風なら風属性・敏捷上昇だ。属性が付くかステータス上昇が付くか、あるいは両方付くかは運と腕だ。腕がよくなると両方付く可能性が増える。複数属性の精霊に気に入られた場合、付く属性も効果も不明だ。細工によって変わるから職人はこれを独自の技術として持ち、他人にはまず教えない。同じ細工には同じ効果が付くからな。特に腕やデザイン次第のエーテル付与の場合は一子相伝の物が多い。と言うのも大体の細工は見ればわかるが、真似をした所で全く同じものが出来る訳ではない。技量の違いもあるが付与したエーテルにはそれぞれ特徴があるからな。親子でもない限りエーテルはかなり違う」
なるほどね。となると狙った効果を付けるのはなかなか難しそうだ。
「なら基本はどんな細工でどの属性が付くんですか?」
「馬鹿め。そんなことを教えるわけないだろうが。……と言いたいところだが、一応弟子でもあるわけだからな。基本だけ教えてやる。火属性は火を感じる様な細工。水は水を感じる細工。地は大地などを感じる細工。風は風を感じる細工だ」
「……は?」
意味わかんねーですけど。
「狙った効果を目指すならその効果を感じる細工をすることだ。ただし、エーテルの質によって細工から受ける印象が変わることを覚えておけ。とは言え基本はさっき言った通りだ。以上がコツだが質問はないな?」
いや、質問しかないというか謎だらけだ。
「よし、さっさとこれにやれ」
こっちが何か言う前に俺の腰から焔を抜いて差し出してきた。素早い。ってそれよりも喉元に切っ先を当てるのはやめて! やりますんで!
せっかく自分で造った刀を強化できる、のだけども失敗したら強度と質などが落ちるそうで。最悪武器破損で消滅らしくかなり緊張する。取りあえず武器自体が『焔』と言う名で、その由来が炎の様な刃の紋様にある。ならばアルトさんが言ったのもこういう事に近いと思う、と予想して刃の紋様に沿って火をイメージして彫刻刀を入れる。『焔』って名で水属性とかだと詐欺っぽいし。
「彫刻刀の刃の種類や刃を入れる角度、深さによっても効果が変る。深く彫ればその分溝に入れる魔銀の量も増え、効果も上がりやすい。ただし装備を削りすぎると脆くなったり、彫刻中に壊れることもある。職人ならその感覚も覚えろ」
そういう情報は作業前に欲しかった。一瞬手が止まりかけたが、集中しなおして刃を入れる。ちなみにリアルでの俺の美術評価はいい方だと思う。ただ高校時代に美術の先生に言われたのが
『デザインや発想はいいけど、色付けが雑ね。見ていて思ったのだけどラフ画や下書き段階で満足して、その後に集中力が続いてないわね』
とのことだった。実際、授業で造ったニードルポイントでの版画は全国で最優秀賞を取った。その後に美術の先生に勧められて描いた作品は県で何とか入賞、佳作よりまし程度だった。評価は塗が雑で甘いといただいた。その後には合作で俺がデザインを担当で塗を他で担当してもらった作品も全国で優秀賞だった。
なのでたぶんこの彫刻する作業だけならいいものが出来ると思っている。問題は魔銀を彫った溝に入れる作業だろうと思う。
なんて考えながら作業を進め、何とか完成した。波紋の揺らめきに合わせて線を入れ、時には広く彫り抜いたりして、何とか炎に見えなくもない紋様が刀身に刻まれた。刀身の片側だけだとなんだか変なので左右対称になるように少し浅めに彫った。
「ふむ、まあまあか。これなら失敗はしないだろう。ではこれを流し入れて仕上げだ」
アルトさんは熱で赤くどろどろに溶けた魔銀の入った器を渡してきた。かなり熱い。防熱か何かの器だろうけど熱い。
「流し入れたら冷めるまでエーテルを流し続けながら余分な魔銀をこのヘラで取れ」
どうやって流し込もうかと思ってたら、余分をそぎ落とすヘラを渡されたので、そのヘラですくって塗りこむことにした。これなら多すぎたらすぐ削ぎ取れるので失敗しにくいだろう。ただしかなり熱い。
エーテルを流しつつ片面に塗って削いで塗って削いでを繰り返して冷めるまで待って、もう片面も同じように終わらせた。疲れたーと休んでいたらすかさずもう一振りの焔を引き抜き、また突きつけてきた。もう一本もやれとおっしゃるのですか。
俺は嫌そうな顔をしていたみたいでアルトさんが切先で突っついてきたので慌てて止めて作業を始めた。
作業が終わったのがゲーム時間で朝の十時半過ぎ。あの後、コートも刺繍で細工をさせられ、装備品に一通り付与させられた。とんでもない量だった。仮眠と軽食を取ってログアウト予定時刻になったのでまた今度にしようと思ったら帰らせてもらえなかった。ただ、布や革には装飾用のミシンがあり、一気に仕上げられた。これがなかったらと思うとぞっとするな。
お陰で強化は進んだけど、とりあえず今日はもう寝たいかも。効果の確認とかは明日にしてリアルでもうご飯して寝たい。
ご飯食べて一息ついたらもう少しインしてもいいかな、なんて思えてきた。でも時計を見たらもうすぐ日付替りそうだ。てことでやっぱり寝よう。