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サクラキ  作者: ニコ
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キンカビョウ




『だれも、まもってくれないよ。みんな、わたしをころそうと、するの。きっと、生きてちゃ、いけないの。だから、もうどうでも、いいや。つかれちゃったよ、』


ざあっ、と耳触りな音を立てながら雨が体温を奪っていく。まるで少女の存在を消すかのような雨が視界を悪くする。

でももう、いいや。だから早くきえて。

どうせ、あなたもたすけてくれないんでしょう?


無表情な少女に目の前の影が動いた。

姿は覚えてない。少女を助けたのもどうせ気まぐれだろう。他の大人のように、少女の息を止めるだろう。

だが目の前の影は一向に動かない。

不思議そうに顔を上げると、特徴的な瞳と目があった。


『・・・お前に、生きる術を教えてやる。だからーーーー



生きろ。』








* * * *



「ピリリリリッッ!!ピリリリリッッ!!」


けたたましい音。耳障りなバイブ。

思わず舌打ちしたくなる衝動に駆られるが、今日も自分はダメ人間ぷりを遺憾なく発揮している。たぶん6回目ぐらいのアラームだ。


いい加減起きよう。じゃなきゃ本当にダメ人間になる。

未だなり続けるアラームを解除し、寝間着から普段着へと着替える。

畜生、着辛い。なんでこんな着辛いものを着なきゃならん。

遥か昔はもう少し着やすい、チャック?だかボタンを留めれば着れる服があったらしい。しかし時代と共に何故かチャックは廃止。それよりもっと昔に採用されていた和服の機能性をアップした物に変わった。


たとえば、今着ている物は上は和服のノースリーブで襟を太くし、素材を丈夫にした物。丈は腰までだ。下は黒いスキニー。

履物は草履。これは鼻緒が赤い牡丹で気に入っている。


髪を無造作に江戸紐で結い、冷蔵庫を適当に漁っていると、ちりん、と呼び鈴が鳴った。

来客か。めんどくさっ。


鼠を使いにやり、冷蔵庫漁り続行。来客が誰であろうと関係ない。

チーズとマグロの刺身。まあいっか。今日の朝ごはんはこれにしよう。


九華きゅうかあー、また寝てたろ。」

二人分の足音と共に幼馴染の声がする。


「小竜寄越してもはいれなかったって言うから、わざわざ来てやったんだぜ?」

ふかふかの来客用の座布団にすとん、と腰を下す幼馴染は、ちゃっかりこの家にあったお菓子を開けていた。


「・・・今起きたばっかなの。」

マグロにチーズを載せている幼馴染に状況を察したのか、無言を貫いていたもう一人の幼馴染が口を開いた。

「作ってやるからちゃんと食え。」

溜息をついて幼馴染が台所に立ち始めた。


「あーーーー、りがとう。びゃく。じゃあ、頼むわ。」

この幼馴染、口数は少なく身長はでかいが、見た目に反して料理は上手い。

もうずっと作ってほしいくらいだ。


「それよりよう。班ごと8時に南門集合だって。」

お菓子に手をつけ、漫画を読むという最高の至福をしでかしている幼馴染、こうちの言葉に九華は眉を顰めた。

「班ごと、って干支団の仕事?」

九華の不満そうな声に、こうちはうん、と頷いた。


「なんでも、また猫叉ねこまたの一族がこのエドクニに潜伏しているらしいぜ。見つかったって。」

こうちの言葉に九華はへえ、と頷いた。


この世界、エドクニの人間は、ちょっとした能力を持っている。

それは、自分の干支の動物の能力を持っている事だ。その気になれば動物そのものに変身できる。

九華は鼠。

こうちは竜。

白は虎。

基本、この世界に朝は来ない。

偶に来る時もあるが、決まって雨だ。お天気雨。

干支は12支であるが、どういう訳か特別な日、閏年の閏日に生まれた子供は猫叉と呼ばれる、猫の能力を持つ子供になる。


たいてい、乳幼児の頃に死んでゆくが稀に大人になっても生きている者もいる。

そのような人たちは、この世界から消される。

12支に猫は入っていないからだ。それに、とてつもなく強く、他の動物(の人種)を狩って食べる場合もあるからだ。


猫叉を排除し、地域の治安を守るのが干支団。

毎年学校の「干支術」で教員に気に入られた人間のみが選出され、相性の良い干支とチームを組まされる。ちなみに強制だ。給料は高い。


「ま、すぐ排除できるっしょ。」

楽勝、と寝そべりながらスナック菓子を頬張る幼馴染の頭を蹴飛ばし、ふかふかの布団に沈み込んだ。




* * * *


「ーーー出現ポイントは、いろは町のい。見た目はーーーー」


なっげえ。話くそなげえ。

くああ、とこらえきれないあくびをする。眠い。


「それでは、解散!各班行動開始!」


「・・・うへあ。やっと終わったか。身体ガチガチ。」


こうちが身体をうーん、と伸ばす。

同感だ。必要な情報だけで良いのに。


「九華。せめてこれ羽織れ。」

白が白色の羽織を被せてきた。確かにノースリーブの和服だけじゃこの時間は寒い。


お気に入りの狐の目しか隠せない半面ーーー物心ついた時から持っていたーーを、被る。うん、やる気出る。気分が良い。


「んじゃ。行きますか。猫狩りに。」

ふわり、と風が吹き抜ける。提灯の灯に照らされる街へと繰り出した。

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