第9話 ステアさんが見てる
間が開いてしまいました。すみません。
続きをどうぞ。
「ステアさん、おはよう」
「おはようございます、クロタニ様」
爽やかな朝の挨拶が、閉め切ったギルドにこだまする。
ステア様の前(の休憩所)に集うおっさん達が、今日も鬼のような邪悪な笑顔で、背の高くもない俺達をにやにやと見ている。
汚れを知らない俺を包むのは、黒い色の制服(まだ着てますが何か?)
第一ボタンははずさないように、襟のカラーは取らないように、堂々と歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、よだれを垂らして眠るなどといった、はしたない女神など存在していようはずもない(願望)
マイッカ村立冒険者ギルド。ここは、冒険者の組合。
**********
「セーイチ、タイが曲がっ「アウト!それ以上はアウト!」」
適当に改変したプロローグの元ネタを理解した上で乗ってくるとは、なんて恐ろしい女神だ。
そういう訳で、俺とレイア先輩(とおまけでルー)の2人と1柱は冒険者ギルドへやってきた。
とりあえず簡単なクエストをやってみようという訳だ。
ギルドのでっかい掲示板には今日もたくさんの依頼が張り出されており、よく見ると3種類に分かれているようだ。
1つ目はお使い系クエスト。
どこどこの屋根を直せ、だとか、なになにをどこそこへ運べ、だとかの村の中で出来るクエスト。
2つ目は採取系クエスト。
村の外へ出て、薬草とか鉱石とかを取って来い、というクエストだ。
3つ目は狩猟系クエスト。
獣や魔物を倒して、特定の部位を剥ぎ取って来い、というクエストだな。
この内1つ目は、現時点ではパス。
手先が器用でもなければ、腕力があるわけでもないからだ。勿論、ステータス的な意味で。
条件が整ったらいずれ…とは思ってる。
3つ目はおいおい挑戦しようと思っている。
が、慣れるまでは後回しでいいだろう。
今回は2つ目、採取系クエストに挑戦しようと思う。
採取と言えばレイア先輩の出番だ。
彼女は採取のエキスパート。
腕力が無いからお使い系が出来ず、攻撃力が無いから狩猟系も出来ず、1人で採取ばかりやってたらしい。
つまり採取のサラブレット。純血種だ。ぼっちではなく孤高だ、と、思っていただこう。
なんという頼もしさ。一生ついていこう。ついてこられても困るだろうが。
「先輩、とりあえず最初だから、簡単なの頼むよ」
「先輩……ふふ…ま、まかせてよ!ぴったりなの選んじゃうから!」
さすが採取の匠。空間の魔術師。
レイア先輩にまかせておけば万事解決だ。
「よし、これにしようか。これなら北の平原で簡単に見つかるよ」
「おお、さすが先輩、目の付け所がシャープだな」
「そ、そう?ふふ、これくらい朝飯前だよ!」
「なんという余裕発言、さすが先輩だ」
さっき食べたのにまだ朝飯を食えるとは。
ちなみに依頼の内容はレイアが言ったようにとても単純な内容だ。
マイッカ村の北、歩いて3時間程の距離にある平原へ行き、プラスユリと呼ばれる花を根っこごと採取するだけの簡単なお仕事。
この花は、回復薬を作る際良く使われる薬草の一種で、需要が多い為ほぼ常時依頼が張り出されているらしい。
報酬は20本単位で100リア。
20本単位だから、仮に100本採取できたなら500リアになる、という感じだ。
依頼書を持った俺達は、依頼を承認してもらう為、ステアさんのいる受付へ移動した。
「ステアさん、これお願いします」
「承りました、所でお二人はパーティーを組んでいるのですか?」
「ええ、今朝ばったり再会しまして」
「でしたら、パーティー登録をお願い致します」
「パーティー登録?」
ステアさん曰く、パーティーとして登録しておくと経験値の均等分配やパーティーでしか受けられない依頼がある等、メリットが大きいそうだ。
また、ギルドとしても個人ではなくパーティーで管理できるため、業務の負担が軽減されるらしい。
折角だから、俺はこのパーティーを登録するぜ。上から来るぞ、気を付けろ。
「では、パーティー名はどうしますか?」
「パーティー名か…先輩、何かいい名前ある?」
「え?え?そ、そうだね…」
そう言ってレイアはうんうん唸りだした。
よく考えればレイアはずっとぼっちだったんだから、パーティー名なんて思い浮かぶのかしらん。
よし、ここは俺が考えてみよう。
どうせなら、かっちょいいパーティー名がいいよな。
そうだな、レイア…レイア…レウス……
「『天空の覇者』とかどうだ?」
「セーイチ、リオ○ウス好きなの?」
「嫌いだ」
「嫌いなんだ…」
当然だが、わかるのはルーくらいだな。
いや、ルーがわかるのもどうかとは思うが。
「へ、へぇ、なかなか、かっこ、いいね…」
なぜか先輩がへこんでいるが、どうしたんだろうか。
まぁいいや、先輩がこれでいいならこれでいこう。
「先輩、他に何かある?」
「え?あの、無いよ…」
「じゃ、これでいっていいかな?」
「あ、うん、どうぞ…」
許可も貰ったし、まっすぐゴー!
「ステアさん、パーティー名『天空の覇者』でお願いします」
「承りました。素敵な名前ですね」
「ありがとうございます」
でもリオレ○スは嫌いだ。あいつ火吹くし。
**********
その後、レイア先輩の薦めで冒険者用初心者セット(小型のナイフやスコップ、ロープ等の詰め合わせ)と携帯食料を購入し、お待ちかねの武器防具屋へとやってきた。
ここで初心者用でもいいから装備を整えるつもりだ。
防具はレイア先輩と似たような、革製の部分鎧を購入し、制服の上から装備済み。
今は武器を選んでいる。
「先輩、俺もナイフ欲しいんで、よさげなの選んで欲しいんだが」
「…え?あたしが選んでいいの?」
「勿論だ。俺も先輩みたいなかっこいいナイフ欲しいしな」
「ま、まかせてよ!」
何故か先輩のテンションもMAXだ。
彼女はナイフのエキスパート。これはもういいか。
「セーイチ、これなんてどう?」
そう言ってレイアが選んでくれたのは、刃渡り35cm程の鉄製ボウイナイフだ。
革でできた鞘が付いて、今ならずばり!200リア!どうです奥さん、このときめきの色!
「ワオ!シンジラレナーイ!」
「セーイチ、なんでカタコトなの?」
「様式美だ。気にしないで欲しい」
後その胡散臭い人を見る目つきは止めようね。せっかくの美人が台無しだからね。
ともあれ、一目で気に入った俺は即購入した。
いつもニコニコ現金払いだ。
早速手に持ってみる。丁度いい重さで柄も持ちやすく、まるで手に吸い付くようだ。
これはいい買い物をした。
近距離用の装備はこれでいいとして、後は弓を買おう。
腐っても弓道部員だからな。いや、腐ってはいないんだけど。
「おやっさん、弓と矢も貰える?」
「あいよ、初心者用だと…この辺でどうだい?」
武器防具屋のおっさんが出してくれたのは、どれも木で出来た小ぶりの弓だった。
矢はただ木を尖らせたもの、石の鏃が付いたもの、金属製の鏃が付いたものがある。
勿論値段は後にいくほど高くなっていた。
出された弓の中から自分の腕力に見合う弓を選ぶ。
矢は一番安い木を尖らせたものを選択。
初心者だからというのもあるけど、それ以上に先立つ物が無いからね。
「おやっさん、試射とかできる?」
「ああいいよ。店の裏に的があるから使いな。」
「ありがとう、おやっさん」
気の良いおっさんにお礼を言い、ありがたく射らせてもらう事にする。
これでも現役弓道部員、それも主将だ。慣れない弓でもなんとかなるさ。
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そう思っていた時期が、俺にもありました。
当たらない。当たる気配すら無い。
4本射ったがかすりもしない。
気のせいかレイアの目がジトっとしている。
おかしいな、ジト目の女の子は結構好きだったはずなんだけどな。
ルーはそもそも見てすらいない。
髪型をドリルにしようと苦戦中だ。
それはお姉さまじゃなく、妹になる方だと教えてあげるべきだろうか。
それとも、そのドリルを矢として使えと言うのだろうか。
ちなみに的までの距離は、25m程度。
プールと同じくらいの距離だ。
ちょっとした壁の前面に高さ2m程まで土を盛り、その土に直径1mくらいの的が備え付けられている。
「い、いやぁ、慣れない弓は使いにくいよな!」
「…まぁほら、セーイチは冒険者になったばかりだし…」
いたたまれなくなったのか、レイアがそれとなく慰めてくれる。
が、その目は『おめー、弓使ってたって言ってたろ?』と語っていた。
止めて。そんな目で見ないで。セーイチのHPはもうゼロよ。
言い訳をさせて貰えるなら、やっぱり和弓と洋弓は全く別のものだ。
弓の引き方から狙いの付け方まで、何もかも。
でも、じゃあどこをどう直せばいいか。これがいまいちよく解らなかった。
俺が悩んでいると、ドリルな女神が助言をくれた。
「お姉さm「誠一です」………」
言ってみたかったんだな?お姉さまって言ってみたかったんだな?言わせねえよ?
「で?」
「…こほん、セーイチは弓を引きすぎだと思う」
「そっか?普通これくらい引かないか?」
「セーイチの世界の弓はよく知らないけど、ここの弓はそこまで引かない」
一瞬でいつものストレートな髪型に戻したルーは少し拗ねた顔でそう言った。拗ねるなよ。
まぁでも、言ってる事は解る。確かに何度か耳を持ってかれそうになったしな。
やっぱり和弓とは違うんだろう。
試しに顔の前辺りまで弦を引いて射ってみる。
矢は的の中心から20cm程左下にタンッと刺さった。
「おしっ!当たったぞ!」
「おめでとー」
レイアが『やっとかよ』という感じに祝福してくれる。
違うんだ。いつもの弓なら一発必中、百発百中なんだよ?
今日はちょっと、エ○カと花○が居なくてさ。
しかし、5射もして1発しか当たらないでは俺の沽券に関わるな。
ここは一つ、俺の本気を見せてやろう。
これが!僕の!本気さぁ!
(『的に矢を当てる』!)
わざわざ加護まで使って放った矢は、タンッと的の中心に突き立った。ドヤァ。
「……的、動いたよね?」
「や、やだなぁ、的が動く訳ないジャマイカ」
うん、ごめん。そう来るとはお兄さんも予想外だった。
25m先では、的を右手で持ったルーさんがサムズアップでいい笑顔をしていた。
気が付けば半年も経ってました…
エタらないよう気を付けます。
読んでくださった方、ありがとうございました。