第8話 「えへへ」と笑う、少女達
なんだこのサブタイトルは。
続きです。どうぞ。
・前回までのあらすじ
おっす、おらセーイチ。
異世界に来た俺は、実は変態だった。以上。
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「ルー、勝手に変なあらすじ作らないでくれ。特に2行目。」
「大体合ってる。」
「全部間違っとるわ!特に2行目!」
ルーの作ったあらすじはともかく、宿屋兼酒場「2羽の鶏亭」の意外と美味い夕飯を堪能した後、俺達は部屋に戻ってきていた。
暗闇の中、蝋燭に火を点けるのに少し手間取ったが、それ以外は特に問題も無く、椅子に座ってまったりしている。
「お腹一杯になったか?」
「ん、満足。」
「そか。良かったな。」
ルーは食事が終わると同時に省エネサイズに戻り、今はテーブルの上で仰向けに寝そべっている。
勢い良く寝そべったせいか、服の裾が捲れ上がり、白く細いお腹が見えていた。
「へそが見えてるぞ、はしたない。」
「大丈夫、セーイチしかいないから。無問題。」
まるで風呂上りにパンツ一丁でうろつきまわる我が家の姉のようだ。
目の毒だから止めろと何度も言ったんだが、聞く耳持ちやしない。
俺は溜め息をひとつ吐くと、部屋に備え付けてあった水差しから木製のマグカップに水を注ぎ、一口飲んだ。
「ふぅ…」
「そういえばセーイチ、気付いてる?」
「ん?なにがだ?」
「セーイチ、レベル上ってる。」
「は!? マジで?」
俺は慌てて『ステータス』と念じてみた。
脳内に文字が浮かび上がる。
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名前:黒谷 誠一(Lv6)
年齢:17
称号:学生?・女神の相方・つっこみ担当・キラーウルフキラー・変態?・下級冒険者
装備:布の服
革の靴
体力:一般人に毛が生えた程度
魔力:そこらの子供には勝てる
攻撃力:成人女性といい勝負ができる、が勝てない
防御力:そこらの子供よりはまし
素早さ:そこらの子供には勝てる…かも?
幸運 :水難の相有り
スキル:女神の加護(Lv2)
弓術(Lv1)
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「なぁ、ルー。ステータスに関する苦情ってどこに言えばいいんだ?」
「…ボクじゃないよ?」
なら、なんで目が泳いでんだよ。
それにしてもこれは…
「なんで5つもレベル上ってんだ?」
「キラーウルフ倒したから。」
「倒したのはルーだろう?」
「ボクはセーイチのスキルだよ。だから、倒したのはセーイチになる。」
それは…、ありがたいのは確かなんだが。
…なんか申し訳なくなるな。
だって俺…、1回石投げただけなんだぜ…
それだけで5レベルアップとか、なんというチート。マジでスマン。
「他には…、お、『女神の加護』のレベルが上がってるな。」
脳内で選択してみると、簡単な説明文が出てきた。
『宣言した行動に補正を付与する。レベルが2に上がった為、1度に宣言できる行動が2個に増えた。』
「おおお!これはありがたい!2個宣言できるって事は、例えば回避しながら攻撃したりとかできるって事だよな?」
「そう。最終的には歌って踊れてベタまで塗れるようになる。」
「ガ○ディーンかよ。また懐かしい…」
「わかるセーイチも異常だと思う。」
俺達がそんな会話をしていると、部屋のドアがノックされた。
「はい、どなたですか?」
「お客様、お湯をお持ちしましたです!」
「ああ、ありがとう。今開けるよ。」
ドアを開けると、店員の少女が重そうに桶を持っていた。
「重かったろうに。本当にありがとな。」
「…ううん、これもミルの仕事だから。」
そう言ってミルという少女はにっこりと笑った。
その笑顔が可愛くて、つい頭を撫でてしまう。
「あ…、えへへ…」
ミルは気持ち良さそうに撫でられている。
良かった、喜んでもらえて。
「…お湯、確かに受け取ったよ。ありがとな。」
「あ…」
頭から手を離した瞬間、少しだけ寂しそうな顔をした。
なんだろう、もっと撫でた方がいいのかな?
でも、彼女は仕事中だ。あまり邪魔するのも気が引けるし…
「…では、失礼しますです。」
俺が迷っていると、ミルはぺこりとおじぎをし、1階へ降りていった。
やっぱりもっと撫でた方が良かったか?
次の機会があれば、もっと長く撫でてあげる事にしよう。
それにしても、まだ幼いのに、自分の仕事をしっかりがんばっている。いい子だな。
ミルががんばって持ってきてくれたお湯の桶は結構な大きさだった。
男の俺でも、片手だとふらつく程の重さだ。
…これはミルが凄いのか。それとも俺がへなちょこなのか…
なんにせよ、桶を部屋の床に置き、扉を閉めて鍵を掛けた。
「ルー、お湯来たけど使うか?」
「ん~、じゃあこれにちょうだい。」
そう言ってルーは部屋にあった木のマグカップを差し出した。
確かに今のルーの大きさなら、調度いいサイズだな。
渡されたマグカップを桶に沈め、適当な量を掬い取ると机の上に置いた。
次にサーシャ婆ちゃんの店で買ったタオルを1枚ルーに渡す。
「ほらルー、タオルだ。」
「ん、ありがと。」
そのままだとルーには大きすぎるが、手渡した瞬間、ルーに丁度いいサイズに縮んだ。
まぁ、自分のサイズを自由にできるルーだ。タオルくらいどうとでもなるだろう。
「んじゃ、そっち見ないようにするから、ルーもあんまりこっち見ないでくれな。」
「なんで?」
「なんでって…恥ずかしいだろ、お互いに。」
「恥ずかしい?セーイチ恥ずかしいの?」
「そりゃ~恥ずかしいさ。異性に裸見られるのって普通恥ずかしいだろう?」
「ふ~ん?それよりセーイチ、もうちょっとお湯欲しい。」
「ああ悪い、少なかったか?」
マグカップを取る為、振り返った俺の目に入ったのは…
紅と白のストライプに包まれた、可愛らしいお尻だった。
「…って、何で下から脱ぐんだよ!」
「ん?」
ルーはジャージのズボンだけ脱いだ状態で不思議そうに首を傾けている。
そして、そのままパンツに手をかけ…
「ストップ!待って!更に下からいくの!?…じゃなくて!お湯汲むからちょっと待てって!いいな!」
「ん?うん。」
ふぅ、やれやれだぜ。
普通上着から脱がないか?俺が変なのか?
……しかしルー、足綺麗だな。
待て。落ち着こう。女性のパン一なんて風呂上りの姉で見飽きてるじゃないか。
思い出せ。はしたない姉の姿を…
…うん。よし。落ち着いた。
でも縞パンはいいよな。姉貴は黒が多かったからさ。
違う。もういい。さっさとお湯を渡そう。
「…ほらルー、ここに置くぞ。」
「ん、ありがと。」
その後、ルーはド○フの『いい湯だな』を口ずさみだしたが、突っ込む気力も沸かなかった。
そしてようやく冷静さを取り戻した頃、ルーが更なる爆弾を投下した。
「セーイチ、背中洗って。」
「………は?」
「背中、洗って。」
「じ、自分でやれよ……それくらい……」
「洗ってくれないの?ボク今日一杯がんばったのに……ぐすっ…」
「うぅ!わ、わかった!洗う! 洗うから泣くなよ。な?」
「ん。よろしく。」
ちょろいな、俺…
溜め息を吐きつつ振り向くと、ルーはこちらに背中を向けて座っていた。
長い銀髪はタオルで纏められている。
白いうなじ、細い肩、ほっそりとした背中、そして、腋から覗く僅かな膨らみ…
顔が赤くなるのが自分でもわかる。
やっぱりこいつ、すごい美少女だな…
タオルをお湯に漬け、軽くしぼってから指先に巻き、ゆっくりと、いたわるようにルーの小さな背中を拭いていく。
「…痛くないか?」
「ん、気持ちいい。」
「そっか……その、今日はありがとな、ルー。これからも頼りにしてる。」
泣き真似だったと解かってはいるが、念の為フォローはいれておく。
「セーイチ…うん、がんばる。」
効果はバツグンだ。
ルーは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て、俺まで嬉しくなる。
でも、こっちを向くのは止めてください。
見えるから。見えちゃうから。
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ルーの背中を拭いた後、2人ともサーシャ婆ちゃんの店で買ったパンツとシャツに着替えた。
「お揃い。」
「ああ、そうだな。」
「えへへ…」
「?…そろそろ寝るぞ。火消すからな。」
手早く使ったタオルを干し、蝋燭の火を吹き消す。
一瞬で部屋の中が真っ暗になるが、所詮狭い部屋の中だ。
ベッドまで手探りで移動すると、布団の中に潜り込む。
と同時に、ルーが俺のシャツの襟元へ入り込んできた。
「うわっ、お、おいルー?」
「…ん?」
ルーの声は既に半分以上、夢の国へ旅だっていた。
「…なにもそんなとこで寝なくても…」
「………だめ?」
「…いや、だめじゃないよ。」
かろうじて受け答えはしてるが、ルーの声はほとんど眠っている。
起こすのもかわいそうだし、このまま寝かせてあげたほうがいいだろう。
ルーに引きずられるように、俺の瞼も重くなってくる。
ルーから微かに香る、花のようないい香りに誘われるように、ゆっくりと意識を手放そうとした瞬間、ルーが寝返りを打った。
長い銀髪がさらさらと流れ、細くすべすべの手足が優しく俺の胸を撫でる。
そして最後に、温かい液体で濡れる感触……濡れる?
教授!これは!?
よだれだよ。
「せっかくお湯で拭いたのに…、まったくこいつは…」
普段なら怒る所だが、なぜか笑いが込み上げてきた。
「ふふっ…、まったくこいつは…、しょうがない奴だな…。」
明日起きたら、まず胸を拭こう。
それまでは…、やりたいようにやらせておこう。
その後、再度訪れた睡魔に抗わず、瞼を閉じた。
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翌朝、目が覚めると見知らぬ天井だった。テンプレ乙。
辺りを見渡すと、6畳くらいの広さにテーブルと椅子とベットだけの部屋。
「…ああ、宿屋に泊まったんだったな。…ふぁああ、…良く寝た。」
部屋唯一の窓からは、朝の柔らかい日差しが差し込んでいる。今日もいい天気だ。
俺は上体を起こそうとして、止めた。
「すぅ……すぅ………へくちっ…………すぅ……」
…もうちょっと、寝かせてあげよう。
くしゃみしてるって事は、寒いのかな?
もう少し布団を上にあげて…こんなもんかな。
あれだ。座ったら猫が膝の上で寝はじめて、動けなくなった人に近いものがあるな。
丸くなって寝ている所もそっくりだ。
ともかく、ルーが起きるまで動けないし、せっかくだからこれからどう行動するかを考えておこう。
俺にはこの世界でやるべき事がある。
ルーや勇者(笑)達と協力し、魔王を倒す事だ。
だけど、それは最終目標だ。今の俺では話にならない。
とりあえずの目標として、ギルドに現れた『キョーコ』と名乗る少女と協力関係を築こう。
あの剣なら、魔王討伐にも役立つに違いないからな。
デメリットも多そうだけど…、それはその時考えよう。
『女神の加護』のデメリットを伝えるかどうかも、おいおい考える事にする。
よし、とりあえずの目標はそれでいいとして、何から手を付ければいいだろう?
今の俺に足りないもの…、知識とお金かな。
力も足りないけど、まずはこの2つだろう。
前にも言ったが、今の俺は手ぶらすぎる。
まずは装備を整えたい。
それには、どんな装備が必要か、という知識が必要になる。
異世界人の俺には、この世界で必要な装備なんて解らないからな。
そして、装備を手に入れるにはお金もいる、という事だ。
とりあえず、今後の生活費を稼ぐためにも冒険者ギルドの依頼を受けてみるか。
この世界の知識も手に入るかもしれないしな。
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小一時間程考え事をしていると、ルーが目を覚ました。
「……んぅ…」
「おはようルー。よく眠れたか?」
「…ん。…お腹すいた。」
目覚めて最初の言葉が『腹減った』か。
昨日あれだけ食べたのに、しょうがないな。
その後、ルーのよだれを拭き取り、ついでに顔を洗って着替えた俺達は、朝食を取る為に1階へ降りた。
カウンターのおばさんに挨拶し、朝食を用意してもらう。
勿論2人分だ。スキルを発動し、ルーも通常サイズになっている。
運ばれてきた食事は、ベーコン、目玉焼き、サラダ、スープ、黒パン、という感じで、どこからどうみてもモーニングだった。
昨日の夕飯と同じく、パンだけは微妙だが他は結構美味い。
ルーと2人で食べていると、後ろから声を掛けられた。
「あ、やっぱりセーイチだった。おはよう、セーイチ。」
「ん? お、レイアじゃないか。おはよう。レイアも朝飯か?」
「うん、今降りてきた所だよ。おばさん、ご飯よろしくね。」
「あいよ。」
「セーイチ、隣座ってもいい?」
「勿論いいよ。」
レイアは俺の右隣に座った。
ちなみに左はルーが座っている。
レイアには見えないだろうが、ルーの料理が用意されているから避けたんだろう。
「レイアもここに泊まってたんだ?」
「そうだよ。まぁ、この村は宿も少ないからね。」
「ああ、確かになぁ。」
千人程度の村なら、宿の数も知れているだろうな。
「それよりセーイチ、昨日の夜すごい量の夕飯食べてなかった?」
「う、それはあれだ。お腹が空いてたんだよ。」
「軽く4人前は食べてたよね?」
「昨日は何も食べてなかったからさ。あはは。」
「ふぅん…」
その目はやめて下さい。怖いです。
ここは話題を変えるべきだな。
「そうだ、レイアに聞きたい事あったんだよ。」
「ん?あたしに?」
「そう、ギルドで依頼を受けようと思ってるんだけど。初めてだからさ、よく解らないんだよ。」
「それであたしに?」
「勿論、時間があったらでいいんだけどさ。良かったら、一緒にどうかな?と思って。」
とっさに口から出たが、いい考えだと思う。
せめてこの村にいる間だけでもレイアが仲間になってくれたら心強い。
「それは…あたしとパーティーを組もうって事?」
「ああ。駄目かな?」
「でもあたし……腕力ないし、迷惑かけるかもしれないよ?」
レイアは不安そうな顔でこちらを窺うように見てきた。
これは…、過去に何かあったのかな?
「今の俺より強いのは確かだよ。それに、レイアは冒険者として俺よりずっと先輩だろ?」
「先輩…」
「そう、先輩。頼りになる先輩と一緒に、依頼を受けてみたいんだ。」
「頼りになる…」
「そう。頼りになるレイア先輩。」
「レイア先輩……えへへ……うん、解ったよセーイチ。一緒にがんばろうね。」
ちょっとちょろすぎやしませんか?レイア先輩。
とにかく、右も左もわからないこの世界で、レイアが仲間になってくれたのは本当に心強い。
レイアは自分の攻撃力に不安を感じているみたいだけど、俺は不安を感じる必要は無いと思っている。
不安を感じたいなら、俺の攻撃力を見てからにしてもらおうじゃないか。
成人女性に勝てないんだぞ、俺は。
間が空いてしまい、すみません。
やっと小説内時間が1日経過しました。
我ながらどうかと思いますが、これからもまったりやっていきます。
読んでくださった方、ありがとうございました。