第7話 宿屋へ
すみません、ちょっと間が空いてしまいました。
続きです。
「なぁルー、あの剣なんとかできないのか?」
「なんとか、とは?」
このやり取りも何度目だろうか…
俺と同じ様に呼び出された(と思われる)少女の持つ剣は、どんな物でも切る事ができる凄まじい剣だった(見た目含む)
戦闘時には絶大な威力を発揮するんだろうが、日常生活という面で見るとただ迷惑なだけだった。
彼女にその気が無くとも、軽く振るだけで周囲に破壊と恐怖を撒き散らすのだから。
村人が恐れるのも仕方が無いだろう。むしろ恐れるだけで済んでいるのが不思議なレベルだ。
「空気切ってたり、かまいたちが飛び出したりする部分だけでも無くせないのか?」
「それはあの剣を使いこなせていないだけ。スキルのレベルと同じ。使っていれば制御できるようになる…はず。」
「そこは断言して欲しかった。」
それにしても迷惑な能力だな。寝る時とかどうしてんだろうか?
同じ境遇の者としては、できる事があるなら力を貸してあげたいが、ギフトに振り回されてるのは俺も彼女と変わらないしな…
まずは自分の事に集中するべきだろうな。
「……様。…ニ様。クロタニ様!」
「おわっ!」
思ったよりルーとの会話に熱中していたようだ。
ルーに向けていた目を下ろすと、ステアさんが心配そうにこちらを見ていた。
「……あ、すみません、ちょっとびっくりしちゃって。」
「いえ、それより大丈夫ですか?何か悩み事があるのではありませんか?私で良ければ相談に乗りますよ?」
「いや、大した事ではありません。大丈夫ですじょ。」
「とてもそうは見えませんが…」
「あ、あはは。」
困った時は、笑っとけばなんとかなる、って姉ちゃんが言ってた。
「あ、そうだ! どこか泊まれる所はありませんか?」
「宿ですか?でしたらギルド前の通りを右に進むとございます。」
「通りを右ですね。ありがとうステアさん。」
その後、買い取りカウンターで毛皮と牙を売り払うと、合計1000リア(約10万円)になった。
思ったより高くてびっくりしたんだが、本来キラーウルフは中級冒険者じゃないと倒せないレベルのモンスターらしく、その分値段も高くなるそうだ。レベル1の俺がよく倒せたよな。いや、倒したのはルーなんだが。
玉は売ろうか迷ったんだが、ひょっとしたら何かに使うかもしれないと思い、残しておくことにした。
何かレアっぽいしさ。どうしてもお金が必要になった時に考えよう。
懐も暖かくなり、やっと飯と寝床にありつけそうだ。
心が幾分軽くなり、足取り軽く玄関扉に向かった俺の前におっさん達が立ち塞がった。
「おい坊主、キラーウルフの皮なんてどこで盗んできたんだ?」
「は?盗んでなんていません。自分で倒して剥いだんです。」
「嘘付くんじゃねえよ、坊主。そんな格好でどうやってキラーウルフ倒すってんだよ。」
「あ、あはは…」
「どっから見ても村人と大差無い服装、武器の類を持ってるようにも見えねえ。それに、どう見ても成人未満のガキだ。そんなお子様に倒せるような相手じゃねえんだよ、キラーウルフってのはな。正直に言った方が身の為だぜ、坊主。もう一度聞く、盗んだ場所とどうやって盗んだかを教えな。」
「…それを聞いてどうするつもりです?」
「お前みたいなガキでもできる事なら、他にもできる奴はいるって事さ。解かるだろう?」
おっさん達のリーダーだろうか?
灰色の髪を短く刈り込んだ強面のおっさんが、ただでさえ怖い顔を更に凄ませて睨んできた。
近所のヤンキーどもと比較するのもおこがましい。もの凄い威圧感だ。今すぐこの場から逃げ出したいくらいだが、ドアはおっさんの向こう側だし、うまく逃げ出したとしても『盗んだから逃げた』と見られてしまうだろう。何とかおっさんが納得する言い訳をしないといけない。
「…森に死体が転がってたんです。そこから剥いできました。」
我ながら良い言い訳だと思う。これなら文句無いだろう。無いだろう?
「ふん、もうちっとましな嘘付きな坊主。確かにお前が倒したってのよりよっぽど納得できるがな。ナイフ1つ扱った事もなさそうなお前さんが、どうやって剥ぎ取るってんだ? そもそも何か刃物持ってるのか? 持ってるってんなら見せてみろ。」
駄目でした。
しかし、痛い所を付いてくるな、このおっさん。ぐうの音も出ないじゃないか。
確かにおっさんの指摘は正しい。
客観的に見れば、おっさんの言う通り、俺は盗人以外何者でもないだろう。
『ギフト』を持っていなければ、だが。
正直に『ギフト』持ちである事を明かすべきだろうか?
だけど、明かした場合必ず『どんなギフトだ?』という話になるよな…
デメリットの事もあるからできれば話したくなかったんだけど…しょうがないか。
「…分かりました、正直に話します。」
「最初からそうしな、坊主。それで?どこでパクったんだ?早く言えよ。」
「盗んでいません。俺が倒しました。」
「殴られてえのか、糞ガキ! それとも俺を舐めてんのか?」
あっと言う間に胸倉を掴まれ持ち上げられた。
50キロはある俺を片腕かよ。バケモンか、このおっさん。
しかも胸倉掴まれたせいで、呼吸も碌にできない。
「…待って……最後まで……聞いて下さい。」
「…いいだろう。最後の機会だ。次は無いからな。」
そう言っておっさんは手を離した。
迂闊な事を言えば、あの腕力だ。俺の首なんて小枝のようにへし折れるだろう。
…って言ってもさ、『ギフト』持ってます、で納得してくれるもんだろうか?
俺が迷っていると、後から声が掛けられた。
「クロタニ様?何事ですか?」
「げほっ…ステアさん?いえ、ちょっと…」
「ちっ、何でもねえよ。新人冒険者に挨拶しただけさ。」
「そうですか?同じ冒険者なんですから、仲良くお願いします。それと、ギルド内での暴力行為は厳禁ですからね?」
「わ、わかってるさ、なぁ?坊主。」
「え?え、ええ…」
なんだろう。ステアさんの威圧感が半端無いんですが…
心なしかおっさんもびびってるような…
こ、ここは逃げるが勝ちだな。
「あ、あの、じゃあ俺、そろそろ行きますね。またその内来ますんで。」
「…おう、またな坊主。」
「お待ちしております。クロタニ様」
おっさん達とステアさんの(表面上は)にこやかな見送りを受け、何とかギルドから出る事ができた。
「ふぅ、あのギルドは化け物ばっかりか。」
見た目真面目そうなステアさんも、一癖ありそうな感じがした。
あのおっさん達も見かけたらまた難癖付けてきそうだな。
「まぁいいや。ともかく今は飯と布団が最優先だな。」
ふと空を見上げると、茜色から夜の闇へと移ろい始めていた。
恐らくだが18時前後あたりだろうか。
通り沿いの家屋では要所要所に松明を掛け始めていた。
電気が有る現代人から見ればそれでも暗く感じるが、これはこれで風情があっていいな。
ステアさんの教え通り、宿への道を辿っていると、途中で小さな商店街を見つけた。
もう営業時間を過ぎたのか半分くらいの店は店じまいを始めていたが、小さなお店が開いていたので覗いてみる事にした。
「こんばんわー、まだやってますか?」
「ああ、いらっしゃい。まだ大丈夫じゃよ。」
店番をしていたのは、70歳くらいの優しそうなお婆ちゃんだった。
モンペの様なズボンに暖かそうな上着をはおり、その背中は大きく曲がっている。
「お兄さん、この辺りじゃ見ない顔じゃね?」
「はい、今日この村に付いたばかりなんですよ。」
正確には『この世界に』だけどね。
「黒谷誠一と言います。冒険者ですよ。しばらくこの村にいますんで、よろしくお願いします。」
「おやまぁ、これはご丁寧に。あたしゃサーシャって名前じゃよ。好きに呼んでおくれ。」
思ったよりかわいい名前だな。若い頃はかわいい系美少女だったのかね。
ともかく、サーシャ婆ちゃんのお店は衣類屋だった。
売っているのは村の皆が着ているような普通の上下が大半だ。後は下着やタオルなど。
何か考えがあって入った訳じゃないけど、よく考えれば下着とかはいるよな。俺、着替えとか無いし。
「ルー、お前も着替えとかいるか?」
「ボク汚れたりとかしないけど、くれるなら貰う。」
「汚れないのか… そういえば女神だったもんなお前。」
「そういえば? 今そういえばって言った?」
「い、言ってない言ってない。ルー程女神な女神はいないって。ルー様マジ女神。」
結局、サーシャ婆ちゃんの店で、下着や肌着にタオル等をいくつか買う事にした。ちなみに下着は男女の差は無いようだ。普通にトランクス型だった。
「こんなもんかな、ああそうだ、お婆ちゃん何かカバン無いかな?」
「リュックサックでいいかい?種類はあんまり無いんじゃが。」
「ああ、リュックあるんだ。じゃあ大きいサイズの一番安いの貰おうかな。」
「まいどあり。合計100リア(約1万円)でいいよ。」
安いな。こんだけ買って1万円か。
ただ現代日本で売られている物程しっかり作られている訳でもないし、なによりこの世界にはゴムが無いようだ。
パンツ等も紐で縛るようになっている。
まぁ、無いものねだりしてもしょうがないし、その内慣れるだろう。
リュックサックに買った衣類(ルーの分も含む)を入れ、背中に背負った。
「お婆ちゃん、ありがとな。また来るよ。」
「ああまた来とくれ。待ってるよ。」
********************
サーシャ婆ちゃんの店を出ると、すっかり夜の帳が降りていた。
夕飯に間に合わないかもしれないので早足で進むと、5分ほどで宿屋兼酒場が見えてきた。
「ここがステアさんの言ってた宿屋かな?」
木造2階建てで、1階が酒場、2階が宿屋のようだ。
酒場だけあって1階部分は周りより明るく、外にまで喧騒が聞こえてくる程賑やかだった。
軒先に吊るされた看板には『2羽の鶏亭』と書かれている(ルーに聞いた)
「何か裏庭の有無が気になる名前だな…まぁいいや、入ろうか。腹減ったしな。」
「ん、もう限界。」
微かに漂ってくるおいしそうな匂いに、食欲を刺激された俺達は急いで中に入る事にした。
思ったより頑丈な扉を開けると、酔っ払いどもの喚き声が溢れてくる。実にうるさい。
異世界でも酔っ払いは酔っ払いだな。
玄関を開けると6人が座れそうなくらいの丸テーブルが6個あり、その奥にカウンター席が見える。
カウンターの中には40前後くらいだろうか? ふくよかなおばさんがカウンター席の客に酒を注いでいた。
「いらっしゃいませです!」
店内を見渡していた俺に、店員だろうか? 10台前半程の少女が話しかけてきた。
身長はレイアよりも低く、140前後だろうか?
後頭部で纏めた金髪が、動くたびぴょこぴょこ揺れるのが可愛らしい。
瞳の色は緑のようだ。
「こんばんわ、一泊したいんだけど部屋はあるかな? 後何か食べたいんだけど。」
「一泊ですね!ありがとです!一人部屋でいいですか?」
「うん、一人部屋でいいよ。」
「ちょっとお待ち下さいです!お母さーん!」
カウンターのおばさんが少女の母親のようだ。しばらく話し合った後戻ってきた。
「お待たせです!料金50リアになりますです!」
「おっけー、はい50リア。」
「ありがとです!お部屋に案内しますです!こっちです!」
「うん、わかったよ。」
元気がいい娘だな。それに年の割りにしっかりしてる。
少女に案内された部屋は2階一番奥の部屋だった。
少女が机の上の蝋燭に火打石みたいなもので火を付けると、部屋の中がほのかに明るくなる。
広さは6畳程だろうか。置いてあるのはベットと机と椅子のみ。まぁ、一人には十分だな。
「お部屋はこちらです!朝食と夕食は料金に含まれるです!蝋燭の替えは1本2リアで、体を拭くお湯も桶1杯で2リアです!」
「ああ、ありがとう。じゃ、お湯もらおうかな。はい、2リア」
「ありがとです!夕食後に持ってきますです!これが部屋の鍵です!」
「ありがとう。ご飯はもう食べられる?」
「大丈夫です!荷物置いたら下に来てくださいです!」
そう言って少女は部屋を出ていった。
改めて部屋を見渡す。蝋燭とはいえ結構大きい蝋燭なので思ったよりは明るい。
俺はリュックサックを机の上に置くと、勿体無いので蝋燭を消し部屋を出て鍵を閉めた。
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1階に降りると、カウンターの中にいたおばさんに手招きされた。
「いらっしゃい、ようこそ当宿へ。お酒は飲むかい?」
「いえ、まだ未成年なので。食事だけでいいです。」
「そうかい? 待ってな、今持ってくるから。」
「あ、お腹空いてるんで2人分お願いできますか?」
「追加で5リア貰う事になるけど、いいかい?」
「いいですよ。はい、5リア。」
「まいどあり。ちょいと待ってな。」
2人分頼んだのは、当然ルーの分だ。
今日一日なんだかんだ有ったが、俺が無事でいられるのはルーのおかげだしな。
飯を奢るくらいしないと、罰が当たる。
「はいよ、2人分ね。熱いから気を付けてお食べ。」
「ありがとうございます。」
そう言っておばさんが持ってきたのは、大きめに切った野菜がごろごろ入ったスープ、チキンステーキ、黒っぽくて固いパン、そして水の入ったコップがそれぞれ2つづつだ。
こうして見ると結構質素に見えるかもしれないが、スープの野菜はどれもとろけそうな程柔らかく煮られており、チキンステーキもガーリック風味で香ばしい。パンだけは固くて微妙だが、スープに浸せば随分マシになる。カップに入った水もただの水ではなく、柑橘系の果汁が加えられており爽やかだった。
「結構美味いな、ルー?」
ふと隣を見ると、一生懸命割り箸でちまちま食べる女神がいた。
小動物みたいでめちゃくちゃかわいい。
でも、あのサイズじゃいつまでたっても食べ終わらないだろうな。
「…『女神の加護』『ルーと食事』」
こっそりスキルを発動すると、ルーが通常サイズに戻った。
「…ん?」
「そっちの方が食べやすいだろ?」
「…ん、ありがと、セーイチ。」
「…いいって。それより食おうぜ。」
ルーが浮かべた嬉しそうな笑顔につい見惚れてしまう。
その後、俺達は2人ともおかわりし、のんびりと食事を楽しむのだった。
間が空いてしまいすみません。
言い訳その①
難易度サバイバルのキノコ人間に殺されまくった。
言い訳その②
直虎ちゃんがかわいかった。
しかたないね。