第6話 冒険者ギルド
今回説明が多いです。すみません。
村入り口の売店を越えると、辺り一面畑が広がり、その畑の中にぽつぽつと建物が立っている。
田舎の農村の様な感じだ。
ここはマイッカ村。
東大陸の中でも最東端、まさに東の果てにある、辺境の村だそうだ。
最東端とはいえ海岸まではまだ距離があり、海産物などもあまり出回ってはいない。
ほぼ農業でなりたっている村のようだ。
村入り口に売店が集まっていたのは、村に入った者または出ていく者に金を落とさせる為だろう。
異世界も世知辛い。
土がむき出しの道をレイアの先導で歩いていくと、村の中心に建物が密集して建っているのが見えた。村唯一の商店街兼繁華街らしい。
周りのぽつぽつ建っている建物もそうだが、畑の海に浮かぶ小島の様に見える。
建物は全て木で作られていて、こう言ってはなんだがみすぼらしい。
隙間風が心配になるレベルだ。
売店以外にも村長の家やこれから向かうギルド等もここに建っているらしい。
ちなみに村長の家はちょっと大きいだけで他は変わらなかった。
売店も少し覗いてみたが、村入り口のに比べ種類が格段に多く、値段も心なしか安くなってるようだ。
ギルドはそう広くも無い繁華街の中心付近に建っていた。
この村では珍しい、石造りの2階建てだった。
入り口の前には、剣と杖が盾の前で交差している、という感じの絵が描かれた看板が揺れている。
レイアの説明によると、これが冒険者ギルドを意味する絵らしい。
他の村や街に行っても、冒険者ギルドにはこの絵が描かれているそうだ。
扉を潜ると入り口から5m程スペースを空けた場所にカウンターがあった。
スペース右にはいくつかのテーブルと椅子が置かれており、休憩所の様だ。
数人のおっさんが寛いでいる。
左には大きな掲示板が置かれ、恐らく依頼書だろう紙が張り出されていた。
とりあえずカウンターに向かおうとすると、おっさんが声を掛けてきた。
「お、レイアじゃねぇか。今回はちゃんと依頼こなせたんだろうな?えぇ?」
そう言うと周りのおっさん含めガハガハ笑い始めた。嫌な感じだ。
隣のレイアを伺うと、悔しそうな表情をしている。
このおっさん連中と何かあったんだろうか?
「レイア?どうした?」
「う…ううん、なんでもないよ。」
その声は明らかになんでもなくはない。が、レイアは笑い声を無視し、
カウンターへと足早に進み始めた。俺も慌てて付いていく。
何だろうな、昔クラスで有ったイジメみたいなこの雰囲気は。
カウンターの向こうには受付嬢だろうか、20歳前後で黒髪碧眼の真面目そうな女性が座っていた。
眼鏡をかければとても似合いそうだ。この世界にもあるんだろうか?まぁいいや。
「セーイチ、この人に聞けば素材の売買やその他諸々説明してくれるよ。」
「ありがとうレイア、助かったよ。」
「これもお礼の一部だから、気にしないでよ。じゃあ、あたしはそろそろ行くよ。」
「ああ、縁が有ったらまたな。」
「うん、またね!」
そう言ってレイアは走って出ていった。もうモンスターに襲われるなよ~。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。」
振り返った俺は、お姉さんの綺麗な営業スマイルに迎えられた。
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「セーイチ・クロタニ様でございますね。私、冒険者ギルド・マイッカ村支部・受付を担当しております、ステア・ハーミットと申します。お気軽にステアとお呼び下さい。」
「これはどうもご丁寧に。よろしくお願いします。」
俺とステアさんはペコペコと頭を下げ合った。この世界に名刺があればお互い交換しそうな勢いだ。
ジャパニーズサラリーマンか、俺は。
それにしても、ステアさんは日本人的な真面目さで、好感が持てる。
他にも受付を担当してる人はいるが、今後もできる限りステアさんと話す事にしよう。
決して、服の上からでも分かる程豊かな胸が目当て、とかでは無いのだ。違うのだ。
おお、少し揺れた…ごほん、話を戻そう。
「こちらでモンスター素材を買い取って頂けると聞きまして…」
「はい、確かに買い取りは行っております。ですが、申し訳ございませんクロタニ様。買い取りをさせて頂くのは当ギルドにて登録をされた冒険者の方のみとなっております。クロタニ様が登録をして頂けるのでしたら、登録後に買い取らせて頂きます。いかが致しますか?」
「は、はい。では、その、お願いします。」
「承りました。ありがとうございます。では、こちらの書類にご記入をお願い致します。※印が付いている箇所は必須項目となっておりますので、必ず記入をお願い致します。付いていない箇所はできる限りで結構です。こちらのペンをお使い下さい。」
「あ、は、はい。すみません。ありがとうございます。」
まるで熟練の営業職を相手にしてる気分だ。
流れるようなステアさんの美しい声は、俺の様な人間にもペンを握らせた。
そう、この世界の文字など書くどころか読む事すらできない、俺の様な人間にも、だ。
全部日本語で書いてもいいでしょうか?と、ちらっと思ったが、よく考えれば項目すら読めないので、何を書く箇所かすら分からないという為体。
「…あの、すみません、俺、字が書けないので…」
「さようでございましたか。ですがご安心下さい。僭越ながら私が代筆させて頂きます。」
「きょ…恐縮です…」
「まずお名前がセーイチ・クロタニ様で…ご住所はどちらになりますか?」
「……すみません、住所は…無いです…」
「では、マイッカ村にしておきますね。マイッカ村…と。」
ぶれないな、この人。
その後もステアさん主導のもと、サクサクと記入が続いた。
「最後にこちらへ血液を1滴お願い致します。」
「血液…ですか?」
ステアさんは名刺サイズの紙片をカウンターに置いた。
「血液を頂く事で、ギルドカードにステータスが表示されるようになります。これにより、ギルドカードを身分証明書として使用して頂く事も可能となります。ただし、個人情報となりますので、カードは大切に保管をお願い致します。再発行は可能ですが、別途費用を頂戴する事になります。」
「なるほど。わかりました。」
小さなナイフすら持っていない俺は、ステアさんに小さな針を貸してもらった。
「…これでいいですか?」
「はい結構です。ありがとうございます。ではカードを持って参りますので少々お待ち下さい。」
カードの作成にはあまり時間がかからないのか、ステアさんは1分程で戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらが下級冒険者カードとなります。」
「下級…ですか?」
「ああ、お気を悪くなさらないで下さい。クロタニ様はご自身のレベルをご存知ですか?」
「ええ、知ってます。」
ステータスで名前の右にあった数字を思い出す。
「そのレベルにより、下級・中級・上級と分けているのです。勿論、受けられる依頼の難易度もランクによって変わります。」
「なるほど、そうだったんですね。具体的にレベルいくつまでが下級なんでしょうか?」
「下級はレベル1~30となります。ちなみに中級は31~60、上級は61~90となります。」
「なるほど、90を越えたら何になるんでしょうか?」
「そうですね、滅多におられませんが、91~98が超級となり、99は廃人となります。」
「99おかしいですよね。」
「何事も程々が一番という事です。」
元の世界なら至極真っ当な意見なんだが、異世界でもそうなんだろうか…
「ちなみにカードの色ですが、下級が銅色、中級が銀色、上級が金色、超級が七色となります。」
「廃人は?」
「真っ黒です。」
レベル99の人に何か言いたい事でもあるんだろうか、この人は。
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無事、冒険者ギルドへの登録が完了した俺は、早速買い取りに関する説明を受けていた。
「カウンターの、クロタニ様から見て一番左端が買い取り専用カウンターとなっております。買い取りをご希望の際は、そちらのカウンターへお願い致します。ギルドカードの提示が必要となりますのでご注意下さい。尚、冒険者用の道具類を買いたい場合は一番右端となります。こちらもギルドカードの提示が必要です。」
「わかりました。では早速買い取りカウンターへ行ってみます。ありがとうございました。」
「いえ、今後ともよろしくお願い致します。何かありましたらお近くの職員にお聞き下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
でも、話しかけるならステアさんがいいです。眼福眼福。
お辞儀する度に微かにフルフル揺れるのがまた堪らない。あなたが女神か。
俺がステアさんの前から離れようとしたその時、入り口扉の向こうから声が聞こえた。
「ごめんください!京子です!入ってもいいでしょうか!」
かなり大きな声だ。扉を挟んで5mは離れている俺にも十分聞こえるんだから。
俺は、律儀な人だな~くらいの感想だったんだが、周りの人達は違うようだ。
全員計ったように同じタイミングで、扉から離れたのだ。
おっさん達も椅子から立ち上がり、壁に引っ付くような体制で扉から離れようともがいている。
その表情はどう見ても恐怖だった。
「キ、キョーコだ!キョーコが来たぞ!」
「落ち着けてめぇら!できるだけ扉から離れるんだ!間違っても近づくんじゃねーぞ!」
「…あの、ステアさん?」
「クロタニ様、落ち着いて壁際へ避難して下さい。さぁ、お早く!」
「は、はい!」
ステアさんの表情は語っていた。俺の屍を越えていけ!…と。
俺が壁際に避難したと同時にステアさんが声を張り上げた。
「お待たせ致しました!キョーコ様どうぞお入り下さい!」
「失礼します!」
恐る恐るという感じで、ゆっくり扉を開けて入ってきたのは、俺と同じ黒髪黒目の少女だった。
恐らく同年代だろう。長い髪をポニーテールにし、レイアと同じ様な部分鎧に身を包んでいた。
ここまでなら『あ、同郷かも』で済むんだが…
周りの連中がここまで彼女を恐れる理由…何となくだが俺にも解った。
原因は彼女が右手に持つ抜き身の片手剣だ。
何故抜き身で持っているのかは分からないが、その片手剣は白く発光し、
『ヒュイィィィィィ』という甲高い音を鳴らし続けている。
正直、剣とは思えない。剣の形状をした何かだ。何あれ怖い。
少女はステアさんの前までゆっくり進むと話し始めた。
「突然ごめんなさい、ステアさん。」
「いえ、何も問題はございません。ようこそ、キョーコ様。」
「あの、依頼の品物持って来ました。これです。」
「タング木の枝ですね。…確かに受け取りました。こちらが報酬の3千Lとなります。お確かめ下さい。」
「…はい、確かに。またこんな依頼があれば教えて下さい。」
「かしこまりました。優先的にキョーコ様へ依頼させて頂きます。どうもありがとうございました。」
「いえ、こちらこそありがとう、ステアさん。では失礼します。」
少女は来た時と同じ様にゆっくりと扉に向かい、そして叫んだ。
「京子です!外に出ますよ!出ますからね!離れて下さいね!」
そして恐る恐る扉を開き、出ていった。
その途端、周囲の張り詰めた空気が弛緩していく。
ステアさんもどことなくホッとしているようだ。
それにしても、ずっと営業スマイル崩さなかったな。すげえな、あの人。
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その後、さっきの『キョーコ』という少女が気になった俺は、ステアさんに詳しく聞いてみる事にした。
まぁ、十中八九『ルー関連』だとは思うけれども。
ちなみにルーは今、俺の頭の上で垂れパンダの如く垂れている。ステアさんの話が長かったからだろう。
他にも何か垂れてるような気がするが、俺の精神安定上、極力気にしない事にする。
「ステアさん、彼女は一体なんだったんですか?」
「ああ、すみませんクロタニ様。驚かれたでしょう? あの方はキョーコ・カグラザカ様。このマイッカ村で一番…有名な冒険者の方です。」
オブラートに包もうとして、微妙に失敗してる気がするな。
その『有名』って、絶対『悪い意味で』が頭に付くよね?
「良ければ詳しく教えてもらえませんか? 有名な人の事は知っておきたいですし。」
「…かしこまりました。ですがその前に、クロタニ様は『ギフト』と呼ばれる物をご存知でしょうか?」
「……聞いた事がある…ような気が…しなくもないです…」
「なるほど、ではまずそこからご説明致します。少し長くなりますが、よろしいですか?」
「は、はい、大丈夫です。」
「こほん… クロタニ様もご存知の通り、この世界には多種多様な人間・亜人・獣人がおります。例えば魔法の奥義を会得しようとする者、生産職に命を掛ける者、剣の道を極めんとする者… そんな者達が一生を費やしても辿り着けない程の境地、それを我々冒険者ギルドの者は『神からの贈り物』と呼んでおります。とはいえ、『ギフト』と一口に申しましてもその形態は様々です。装備品であったり、道具類であったり、生活用品の時もあれば、スキルとして現れる事もございます。一貫して言える事は、人の域を超えている、という事です。人では理解できない何か。それが『ギフト』だと思って頂ければ間違いございません。ここまではよろしいですか?」
ま、まだ話の取っ掛かりだと!?
俺もルーの様に垂れてしまいそうだ。
多分、ステアさんは説明するのが好きなんだろうな。受付嬢の鏡だ。
しかし、ギフトってそんな高尚なものだったか?
俺の認識ではただのチートなんだが。
いや、これはこの世界の人達の認識だな。
いくつかルーの贈り物じゃない物も混ざってそうだ。
「大丈夫です。続けて下さい。」
「かしこまりました。…この世界には極稀に『ギフト』を持った者が現れます。その確立は数万人に1人いるかいないか、という低さです。通常、まず出会う事はありません。ですが、偶然にも当ギルドにはたった1人だけ、『ギフト』を持った方が所属しております。それがあの方、キョーコ・カグラザカ様です。お分かりになられたと思いますが、キョーコ様のギフトはあの剣です。あの剣はありとあらゆる『物』を切る事が出来る、と言われております。」
「…あれがルーの言ってた剣か…」
あれが本当に存在するという事は、壊れないまな板も焦げ付かない鍋もどっかにある、という事だ。
…良かった。初遭遇がなんでも切れる剣で。鍋だったら殴ってた。
「何か仰いましたか?」
「いえ、なぜあそこまで恐れられていたのかな?と。」
「いいご質問です。キョーコ様があそこまで恐れられる原因は2つあります。まず1つ目。『ギフト』は装備から外す事が出来ません。これは所有者の一部になるからだと言われています。」
なるほど、俺にとってのルーがこれに当たるのだろうか。
今まで特に気にならなかったが、ルーは俺から離れた事が無い。
これはルーが俺のギフトだから、という事だな。
「続いて2つ目ですが、こちらが主な原因でしょう。クロタニ様は剣が発する音をお聞きになりましたか?」
「ええ、何か甲高い音がしていました。」
「…あの剣は、剣身の周りの空気を常に切り裂き続けています。これがあの音の正体です。」
「は?…常に…ですか?」
「はい。常に、です。これが原因であの剣は鞘に収める事ができません。何で作ろうがスッパリ切れ飛びます。手に持つしか無いのです。あの剣は。そして…」
「まだあるんですか?!」
「クロタニ様は、キョーコ様が剣を動かさないようにゆっくり歩いていた事にお気付きでしょうか。」
「…言われてみれば確かにそんな歩き方でしたね。」
「あの剣は常に空気を切り裂き続けております。つまり、少しでも『剣を振った』と判定された瞬間、かまいたちが放たれます。」
「怖すぎるわ!何それバッカじゃねーの!?バーカ!!バーカ!!」
「クロタニ様!? お気を確かに!クロタニ様!」
「…ん、どしたの?セーイチ」
「どしたじゃねえよルー!あの剣は酷い!あの剣は酷いよ!どげんかせんといかんよ!」
「クロタニ様!? 誰と話してるんですか!? クロタニ様!」
冒険者ギルドは混沌と化していくのだった。
ヒロイン候補の初登場がこれでいいんだろうか?
読んでくださった方、ありがとうございます。