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第4話 初めての戦闘

今回『女神の加護』のデメリットを明かすって言ったよな。

あれは嘘だ。


すみません、なんかしっくりこなかったので明言しない事にしました。

ヒントは出してますので、すぐわかるとは思います。

「流石はルー、やってくれる…」


俺はひざと手を地面に付いた状態から、なんとか体を起こした。

スキルのレベルが低いからなのか、そもそもそういうスキルなのか、

『女神の加護』というスキルは常時発動系のスキルではなく、

自分で必要と思った時に、発動させる必要の有るスキルだった。


なら必要に応じて発動させればいんじゃね?、と思うかもしれないが、

発動させる隙が無い場合等、常時発動と比べ、困る場合が出てくるだろう。


事前に聞いとけば良かったんだが、『加護』と聞いた時、常時発動で

低確率でダメージを下げてくれる様なイメージがあった為、うっかりしていた。

ちなみに俺は、余ってたらとりあえず『加護』派だ。何がとは言わないが。


まぁ、切羽詰まった時じゃなく、こういう余裕がある時に気付けただけでも、

まだマシかもしれない。と、前向きに考えていこう。

文句を言うべき相手もいないしな。


さて、まだ日が高いとはいえ、時間は有限だ。

せめて暗くなる前に町とか村とかに着きたいな。

となると問題はやはり、右へ行くか、左へ行くかだ。


調度いい、スキルの練習に『女神の加護』で遠くを見てみよう。

俺は再度、脳内で『女神の加護』と念じた。


 *「『女神の加護』を発動しますか?」

「その一々確認するのやめてくれない?」

 *「仕様です。」


仕様じゃ、しょうがないな。

とりあえず、<はい>を脳内で選択した。


 *「付加する行動を宣言してください。」

「『遠くを見る』」

 *「『女神の加護』が発動致しました。」


どうやら無事、発動したようだな。

俺は再度、目を細め左右の道の先を見てみた。


「…ん~、…気のせいかさっきより見えているような…、気がしなくも」

「ん」


唐突に、横から双眼鏡を手渡された。


「あ、すみません。あ~良く見える双眼鏡だ。お、右の道はなんか壁みたいなのが見えるじゃないか!良かった良かった、これで人の居る所へ行けそうだ。わあい…って、そうじゃねえんだよ!」


俺は双眼鏡を地面に叩き付けた。


「なんでいるんだよ、ルー!」


そう、そこにはまるで一仕事終えたみたいな、いい笑顔のルーが立っていた。


*************************************************


俺は今、右の道をてくてく歩いている。

さっきまでと違うのは、肩に手のひらサイズのルーが乗っている事くらいだ。

そう、手のひらサイズだ。


あの後、ルーから色々説明を受けた。

予想外の事が多すぎるからだ。


まず、ルーだが、俺が目を覚ました時からすでに一緒にいたらしい。

どこにか?、ポケットの中にだ。

この手のひらサイズのルーは、分かりやすく言えば『省エネモード』なんだそうだ。

『女神の加護』発動中のみ通常サイズに戻り、俺の行動に補正を付与する。

らしいんだが…


「あれが……、あの双眼鏡が…、『スキル補正』分だと…そう言うんだな?」

「役に立ったでしょ?」


そう言ってルーは、無い胸を張った。


役に立ったかどうかなら、間違いなく役に立った。

それは間違いない。間違いないんだが…

こう、なんか、予想と違うと言うか、釈然としないと言うか…

モヤっとするのだ。


「もうちょっと、なんとかならないのか?」

「なんとか、とは?」

「例えばさ、道具に頼るんじゃなくて、俺の視力そのものが良くなるとかさ?」

「神様にもできない事はある。」

「どっからともなく双眼鏡出す方が難易度高いんじゃねえか?」

「神様にも得手不得手がある。」

「ルーは不得手が多すぎるんだよ!」


っとに!、ああ言えばこう言うな、このジャージは。


さて、『女神の加護』というスキルについて、もう1つ分かった事がある。

それは、女神そのものが常に俺のそばにいる、という事だ。

つまり、今のルーは俺のスキルそのものであり、俺のオプションのような存在なのだ。

オプションの方が強いじゃないか、と思うだろ?

俺もそう思う。なんの否定もできん。オプションがメインみたいなもんだ。


だが、選択し、行動を起こすのは間違いなく俺なんだ。

そういった意味で俺がメインという事だ。


「あ~、そっか、だからああいったデメリットになるんだな。」

「納得できるでしょ?」

「ああ、確かに納得できる。」


あの時はなぜそんな内容になるか、理解できなかったが、そういうスキルなら仕方がないだろう。

そして、ルーが言った『これ以上強力なスキルは無い』というのも納得だ。

女神そのものが付いてるんだから、当然だな。


そうやって、だべりながら歩いていると、前方やや上方から切羽詰った声が聞こえてきた。


「誰かーー!、お願いします!誰か助けて!」


声から察するに、恐らく女性かな?

少し中性的だが、綺麗な声だった。


「って、考察してる場合じゃねえな。」


俺は周囲の様子を伺いながら、ゆっくり声に近づいていった。

果たして、ステータス平均がほぼ『話にならない』の俺に、

人助けなんかできるんだろうか?、と思いつつ。

まぁ、困った時の神頼みが肩にいるんだし、やるだけやってみる事にしよう。


周囲を警戒しながら道を進んでいくと、右手の森に生えている1本の木の周りを、

黒い犬の様な生き物が囲んでいた。数は3匹のようだ。


「あ!そこのお兄さん!助けて!」


声に上を見上げると、15歳前後に見える女の子が枝の上に座り込んでいた。

恐らくこの犬っぽいのに追いかけられて、木の上に逃げたんじゃないかな。


「感付かれるから、話しかけないで!、あっ…」


感付かれました。


3匹の犬っぽいのは、木の上からなかなか降りてこない獲物より、

地面にいる俺の方が狩りやすいと思ったようだ。

3匹全てこちらを振り返った。


「…あっ…どうもお楽しみの所…、俺の事はお気になさらずに…」


お気にされました。


3匹とも、ゆっくりこっちに向かって来た。

一気にこないのは、突然現れた俺を警戒してるんだろう。

犬のような、でも犬とは絶対に違う唸り声をあげ、こちらを睨みつけている。

正面の奴が俺の前方10mくらいで足を止めると、残りの2匹はそれぞれ、

俺を囲むように左右に広がった。


「…やばい、詰んでるだろこれ…俺、レベル1なんだぞ?…」


初めて感じる圧迫感と緊張に、鼓動が早まっていく。

と、同時に嫌な汗が額や腋の下を濡らしていった。


「はぁっはぁっ…、や、止めろ、止めてくれ…」


落ち着いてよく考えれば、死んでもルーの部屋に戻るだけだ。

だが、そんな事を考える余裕すら、俺にはなかった。

奴らが少しずつ距離を詰めてきていたからだ。


(もうだめだ、異世界に来て初日だってのに…)


そう諦めかけたその時、救いの女神が話しかけてきた。


「セーイチ、お腹すいた。」

「やかましいわ!、もうちょっと空気読めよ!、今こっちが食べられそうになってんだぞ!」


(っとに、ルーはこれだから!)

だが、下がった血が頭に上ったからか、少し落ち着いてきた。


「よし、落ち着け俺クールになれ、落ち着いて現状を把握するんだ…」


まず奴らだが、俺が大声を出したからか、少し距離が広がっている。

警戒心が強い生き物なんだろう。少し時間を稼げそうだ。


次に俺だが、はっきり言って手ぶらだ。

武器になりそうな物どころか、何一つ持っていない。

つまり、攻撃手段は無い、という事だ。


攻撃ができないのなら、取れる手段は2つ。『防御』か『回避』だ。


防御から考えてみよう。

まず俺の装備だが、布の服、革の靴、以上だ。

この装備で防御を固めたとして、意味は無いだろうな…

死ぬのが数十秒遅くなる、くらいだろうか。

ステータス的にはどうか。

俺の防御力は『話にならない』だ。

…おっけー、防御は無しだ。ありえない。


最後の希望、『回避』はどうだ。

現状、3匹に囲まれている。全部かわすのは無理だろう。

だが、1匹くらいなら避けられるんじゃないか?

避けられれば、体制を整える時間も稼げるんじゃないか?

仮定に仮定を重ねるくらいの希望だが、これが一番現実的だろうか。

しかし、俺の素早さは『話にならない』だ。


「…だめだ、ルーすまん、俺はここまでみたいだ。」

「諦めんなよ!」

「だから!どこでそういう知識仕入れてくんだよ!」


(…って、ルー?、そっかルーがいるじゃないか!)


その瞬間、犬達が襲い掛かってきた。


「くそっ、きやがった!『女神の加護』!『回避』!」


とっさに回避を選んだのは、最後の希望だったからだ。

すぐに激しく後悔する事になるのだが。


*************************************************


戦闘が始まったとたん、某有名RPG(竜の方)の戦闘BGMを

鼻歌でやり始めたルーが非常にうっとうしいが、今は突っ込む時間も惜しい。


まず正面の奴が飛び掛って来た。

俺はそれを左側へ体を倒しながら避けようとした。

しかし、流石素早さ『話にならない』。本当に話にならない。

倒れこむより奴が俺に噛み付く方が圧倒的に早そうだ。

 

噛まれるか?と思った瞬間、俺は右脇腹に衝撃を受け、左側へ1m程吹っ飛んだ。


「ぐほっ!?」


予想外の痛みに意識が途切れかけたが、さっきまで俺がいた位置を犬が通り過ぎていくのが見えた。

しかし、左側に回り込んでいた1匹がまだ空中にいる俺に飛び掛って来ていた。


「がはっ!?」


今度は地面側から衝撃を受け、真上に向けて1m程吹っ飛ばされる。

吹っ飛んだ俺の下を左にいた犬が通り過ぎていった。


しかし、最後の1匹が落下中の俺に飛び掛っていた。


「ひぎゃっ!!」


俺は上方からの衝撃で地面に叩き付けられた。

その上を最後の1匹が通り過ぎていった。


「ぐおおぉ……」


痛いなんてもんじゃない。

具体的に言うと、まるで誰かに3回蹴り飛ばされたような痛さだった。


痛みを堪え、何とか振り返ってみると、最初の1匹が踵を返す所だった。

このまま横たわっている訳にはいかないだろう。また蹴られる。


「今度はこっちの番だ!『女神の加護』!『攻撃』!」


地面に転がっていた小石を掴めるだけ掴み、一番近い奴に投げつけてやった。

しかし、奴は素早くサイドステップし、ほとんどの小石を避けやがった。

そう、ほとんど、だ。1個だけ背中のあたりに「ぽふっ」っと当たった。

その瞬間、小石が当たった場所に凄まじい勢いで何かが突き刺さり、突き抜け、

地面にめり込んでいった。


犬は横たわりピクリとも動かない。一瞬で絶命したようだ。

その様子をみた残り2匹は怯えたように逃げていった。


「…な、…何したんだ?…ルー?」


今度は某最後の幻想の戦闘終了BGMを鼻歌でやりだした女神に聞いてみた。

後、やるならどっちかに統一してくれ。


「大した事じゃない。これを投げただけ。」


そう言って、片割れになった割り箸を見せてくれた。

すげえな割り箸。


*************************************************


「お兄さんありがとう!、助かったよ!」

「いや、大した事してないから。」


俺がやったのは、3回蹴られて石投げただけだ。

…本当に大した事してないな。びっくりした。


「そんな事ないよ!お兄さん強いんだね、びっくりしたよ!」

「へっ?…いやいや、俺弱いよ?レベルだって1だしさ。」

「ええ!?、ほんとすごいよ!レベル1なのにキラーウルフを1撃で倒しちゃうなんて!」


ああ…やっぱ犬じゃなかったか。どうりですごい威圧感だと思ったよ。

それにしてもキラーウルフか。かっけー名前だな。ちょっと中二臭いけどさ。


「攻撃も全部かわしてたし!……動きは変だったけど…」

「いや、それは全部こいつがやった事だよ。キラーウルフ倒したのもこいつ。」


そういってルーの方を見ると、さっと顔をそらし口笛の物まねを始めた。

吹けないならやるなよ。後、3回も蹴った事は後で話しあおうな。


「え?、こいつ?、誰かいるの?」

「いや、だから俺の肩に座ってるこいつが…」

「セーイチ」

「ん?どうしたルー?」

「これは言わない方がおもしろい、と思って黙ってた事がある。」

「嘘でも言い訳ぐらいしろよ!…まぁいい、先が気になるから今回は見逃してやる。…で?」


「ボクの姿はセーイチにしか見えない。」

「は?」

「ボクの声はセーイチにしか聞こえない。」

「へ?」

「ボクと触れ合えるのも、セーイチだけ。」

「……なん…だと?」

「セーイチの霊圧が…」

「そういうの今はいいから!…つまりそれは、…どういう事だってばよ?」

「説明しよう!さっきのセーイチの戦闘を客観的に見ると、こうなる!」


1.何か悲鳴上げながら謎の空中移動。

2.女神の加護を祈りながら小石をばらまく儀式を始める。

3.2に成功する。


「どう思う?」

「な…なんてこったい…」


(1、2もどうかと思うが3は致命的だ。俺なら絶対近づかんわ、そんな奴。危な過ぎる…って事は…)


俺はちらりと少女の様子を伺って見る…すると…


1.顔は笑顔だが、微かに震えている。

2.2m以内には絶対に近づかない。

3.それとなく後ろに下げた足に重心を移している。


「…手遅れじゃねえか…」


だが、諦める訳にもいかないだろう。ここで諦めたら変人確定だ。

最悪、変態扱いされる事も考えられる。

せっかく助けた美少女に変態扱いの危機ですよ?

いつ誤解をとくの?今しかないでしょ!


「あ~、…なぁ、俺、…黒谷 誠一っていうんだけど、…良かったら名前」

「いえ!名乗るほどの者ではありませんよ!大丈夫です!あなたの名前も聞かなかった事にしますよ!」

「あ…、いや、違うんだ。君は誤解している。俺は変態なんかじゃないんだ。君が何を誤解しているかは解らないけど、そんな事はちょっと腰を落ち着けて落ち着いて話し合えばすぐに誤解だってわかってもらえるよ。大丈夫、怖くないよ。ほら、怖くない。せっかく知り合ったんだし、僕らはもう少しお互いをわかり合うべきだと思うんだ。ね?君もそう思うでしょ?思うよね?できるよ?お米食べろ!」

「ひぃ!あ!あの!これ少ないですけどお礼ですよ!こ!ここ!ここに置いときますよ!じゃあそういう事で!」

「あ!待って!違うそうじゃないんだ!」


少女は皮袋を置いて脱兎のごとく走り去っていった。

とても俺の追いつける速さじゃなかった。


俺は再度、膝と手を地面につけるのだった。

現代の高校生がテンパったらこんな感じでしょうか?


誠一はまだ『女神の加護』が自分の『スキル』だという実感がありません。

なので、気付くのに結構かかっています。

また、スキルレベルが低いのもありますが、全然使いこなせてません。

スキルに振り回されている状態ですね。

少しずつ成長していく姿を書ければ、と思います。


それにしても、主人公最強物にする予定は微塵もなかったはずなんですよ。予定では。本当に。


読んでくださった方、ありがとうございました。

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