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ピット・フォール

「シシシシッ、御契約ありがとうございます。では、取引に移りたいのですが宜しいですか?」

「ああ……」


 海賊は憔悴しきっていた。もともと、人質に対する虐待や強姦を禁じる規則書を作成するような人間たちだ。根っからの海賊気質のある者など、ほとんどいやしないのだ。


 そもそも、ソマリアがほぼ無政府状態になったのは、元々あまり豊かではない国土が旱魃(かんばつ)や外征によりさらに貧しくなり、氏族同士の対立が生じたからということもあるが、資源が少ないこの国を大国が見捨てたということも少なからず要因であった。


 そんなソマリアの無政府状態が続いているのを良いことに、ヨーロッパやアラブ諸国をはじめ、世界中の漁船がソマリアの海で不正に乱獲し、水産資源を枯らしたのだ。


 無政府状態のソマリアには、当然これらを取り締まることは出来なかった。例え、住民や漁民たちが抗議したとしても、聞き入れられることはなかった。


 そして、自衛の為に立ち上がり、有志による沿岸警備隊を結成させた。この組織こそが、現在、海賊と呼ばれている組織なのだ。


 しかし、ソマリア東北部の独立地域プントランドに油田が発見されると事態は急転した。この石油を巡り、ソマリア暫定政府、プントランド州政府、外国石油会社など利権争いをするようになったのだ。


 これまで、見向きもされなかったソマリアが、である。


 こうして、第三者により生活を追われるような形で、結果として海賊になる他無かった背景を鑑みると彼らもまたその被害者と言えるのかもしれない。しかし、それはアイリからすれば関係のないことだった。


「契約の商品を確認した後、サインを頂けますでしょうか?」


 アイリは、一枚の誓約書を取り出し海賊へと手渡した。憔悴している海賊は特に目を通すことなく、署名しアイリへと渡してしまった。取引において、何よりも重要なのが、口頭で話していた件と書類とに相違が無いことである。


 それを確認する為には、一字一句見逃さないことなど商人ならば当然のことである。しかし、精神的に負荷の掛かっている現状でそれをするのは難しかった。


「では契約通り、前金で頂きたいと思います」

「おい、ちょっと待て。そんな契約をした覚えは――」


 アイリは、契約書のある一点を指さした。そこには、確かに取引は前金で――と記載されていた。


「だ、だけど、そんな金、持ち合わせていねえ」

「その点については問題ありません。その代金は、商船に積んである商品と引き換える形で引き取らせて頂きます。あなた達は、その代金を在るところに輸送して頂きたい」

「どこだ?」

「ジブチ港に待機させている奴隷商人です」


 アイリの口から代金の輸送先を聞き、海賊は目を丸くしていた。ただの商船を襲ったつもりだったのだが、まさか奴隷貿易船だったとは思いもしなかったからだ。



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