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エクイティ・インベストメント

「皆さんは、見ず知らずの誰かの為に、何かを与える行動を行ったことはありますか?」


 ルクサーナは、会場の皆へと問い掛ける。


「イギリスのとあるチャリティー団体が、過去1カ月以内に金銭的な寄付を行ったか、ボランティア団体の活動に参加したか、見ず知らずの他人を援助したか――と言うアンケート調査を行いました。すると、非常に興味深い結果となりました。寄付指数でアメリカと同率で世界1位になった国が在ります。それは、ミャンマーです」


 ルクサーナの発表に会場は、どよめきを上げる。恐らく、各々の中で予想をしていた国があったのだが、その予想を大きく裏切ったのであろう。


「ミャンマーは、実に国民の91%が金銭的な寄付を行っており、さらに、ボランティア指数の結果も51%で世界1位となっているのです」


 会場からは、感嘆の声が漏れていた。


「それだけではありません。マレーシアやスリランカ、トリニダード・トバゴと言った、発展途上国や所得水準の低い国々の一部も、上位20カ国に入っているのです」


 このアンケートでは、情勢が不安定な国々であっても、見ず知らずの人であれ、困っているのなら助けようとする傾向が強く現れたのだ。


 そして、世界の経済大国であるG20の中で、寄付指数の上位20カ国に入った国は、僅か5カ国しかないと言う結果になった。


「しかし、これは慈善事業ではありません。あくまでビジネスとしての提案です。募金活動では、募金をして下さった人々の善意としてで終わってしまいます。しかし、未来ある若者達への投資として頂ければ、配当と言う形で社会へ循環させることが可能だと考えています」


 ルクサーナの提案は、株式投資の様なものであった。


 本来、株式投資とは株式会社が発行した株式を購入することである。そうして集めた資金で会社設立をする流れになる。一方、株を購入した投資家は株主となり、株主権を取得することで、様々な権利を受けることが出来るのだ。


 つまり、将来性のある企業の株を購入し、価値の上昇した株価を売却することで、その差額分の利益を得ることが株式投資の基本となる。


 しかし、ルクサーナの提案の最大の脆弱なところは、その将来性が見込めない事であった。投資家は、投資する相手を選ぶことが出来るが、この投資には投資先が不明瞭であった。


「その配当とやらは、一体誰が支払うんだ!」


 野次の様な声が、どこからか飛んで来る。

 それは、当然の声であった。結局のところ、配当が貰える見込みが無いのであれば、行っていることは募金と何ら変わらないからだ。


「今まで、私達にはチャンスすら与えられてきませんでした。それは、生き方が初めから決められていたからです。私達には、ただの一本のペンとノートすら与えられないのです。しかし、皆様の投資がこの先、多くの人々にチャンスを与えるでしょう。そして、きっと偉大なる功績を残す者が現れます。その時、あなた達は、胸を張ってこう言えるでしょう」


 ルクサーナは、笑みを浮かべる。


「あいつは私が育てようなものだ――と」


 一瞬の静寂――そして。


「そりゃあ、確かに何にも得難い報酬に違いねえや」


 誰かがそう言い大笑いをした後、観客総立ちの盛大な拍手が送られた。


 ルクサーナの描いていたシナリオとは、他人同士でありながらも助け合い――そして、助けられた人々がまた誰かを助けると言う循環の輪、それら一連の流れとして企業の様に形成することであった。


 当然、大雑把な構想であるが為、見直しの必要な提案ではあったが、慈善事業団体には大きな衝撃を与えることとなった。


 ▶ ▶ ▶


 ニナの銃声は、廊下の静けさを伝っていた。


「……ぐっ」


 ニナの銃はクロエでは無く、シャルルを貫抜いていた。

 右肩を損傷したシャルルは、膝から崩れ落ちる。


「助かったわ、ニナ」


 クロエは、内心でほくそ笑んでいた。最も理想に等しい展開でシャルルを先頭不能にすることが出来たからだ。後はこのままニナへ接触し、任務を遂行すれば良いだけであった。


 しかし、次の瞬間、銃声はもう一度鳴り響く。


「……え?」


 クロエは、今し方何が起こったのか、それを理解が出来ていないようであった。疼いている右肩に触れてみると、何やら朱い液体が溢れ出ていることに気付くと、一気に襲い掛かるように痛みが増す。


「うああああああああああ。何をしてるの、ニナ。クロエは、あいつよ。私を撃ってどうするのよ!」


 クロエは、苛立ちを隠せないでいた。


「どちらかだけを撃つなら確率は50%だけど、どっちも撃てば確率は100%でしょ」


 ニナは、冷徹な瞳でそう言ってのけた。


 年端も行かぬ子供が、常人には理解し難いことをさらっと言ってのけたのだ。その返答は、自分が如何に戦うと言うことが日常的であり、慣れてしまっているのか――そのものであった。


「は?」


 予想もしていなかったその返答に、クロエも素の反応を思わず示してしまう。それをニナが逃すはずも無く、瞬時に二発目をクロエへ発砲するが、即座に反応したクロエは、かわすのではなく、銃口を向けたニナへ前進して来る。


 そして、脚部を狙っていた弾道を脇腹へと流すことで、動けなくなることを強引に回避してのけたのだ。


「もっと遊んであげたかったけど、ごめんよ。時間切れ」


 クロエは、怪我を負っていない左手を大きく弧を描く様に振り被る。ニナは、しっかりとガードを固めるが、体の小さいニナの体はその身ごと激しく壁へと弾き飛ばされる。


「……うっ」


 ニナは、思わず小さく呻き声を挙げる。


「それじゃあ、会ったばかりだけどお別れだね。バイバイ、ニナ・エカテリーナ」


 そう別れを告げた次の瞬間、クロエの弾丸はニナへと向かって発砲された。


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