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コイン・シデンス

 クロエの銃口は、リタの顔面を捉えていた。


「本当はさ、リタ・イルムガルドは最後のデザートにでも取っておこうかと思ってたんだけど、やっぱり我慢出来なくなったから、食べることにしちゃった」


 そして、クロエは嘲笑う。


「でも、思ってたよりお腹一杯にならないね、正直がっかりだよ。じゃあ――ッ」


 クロエが人差し指に掛かった弾き金を弾こうとした時のことだった。些細な足音が聞こえて来る。クロエは、その音に対して敏感に反応する。音に敏感になると言うことは、クロエにとって生死そのものを分かつ。


「……まさか?」


 半信半疑ではあったが、クロエは耳へと意識を集中させた。確かに、その足音は上手く殺されていた。しかし、僅かながらその音を殺し切れていない詰めの甘さが残っていた。距離にして、十数メートル。その僅かな足音から、ここまでの距離と方向――大凡の体格を把握した。


 つまり、ここへ向かっているのがニナ・エカテリーナであると。


「……だが、どうやってここを」


 クロエは、心の中で三つカウントを取る。三、二、一。そのカウントが終わるのと同時に、リタの右手に掛けられていた拳銃を蹴り飛ばし、その拳銃に飛びつき身を低くする。それと同時に、クロエの自作の拳銃でニナへと発砲する。


 ニナは、透かさず反応し、物陰へと身を隠す。クロエは、その隙に拳銃を拾い上げ、威嚇射撃をしつつ、ニナの居る側とは反対側へと逃亡し、この場を後にした。


 ニナはクロエを追い掛けるが、逃げた通路には既にクロエの姿は無く、これ以上の深追いは危険だと判断し、倒れているリタの元へと駆け寄る。


「大丈夫?」

「問題ない――ッ」


 リタは、苦痛で顔を歪めている。


「待ってて」


 そう言い、ニナはカーテンをナイフで引き裂き、リタの腕へと応急処置を手際よく施す。


「すまない。私としたことが。銃まで奪われてしまった」

「起きたことは、仕方が無いから」

「だが、どうやってここへ来た? ニナの警護はここでは無いだろう?」

「それは、少し前にアイリから守秘回線を使って連絡が来たから」

「アイリからの守秘回線だとっ!?」


 リタは、驚きを隠せないでいた。


「私がここへ来たのも守秘回線だ。だとしたら、二人まとめてここで始末しようとして、ここへ呼ばれたと言うことか」

「それは、違うと思う。多分、クロエからしたら、私がここへやって来たのは予定外だったと思うから」

「予定外?」


 リタは、その言葉が引っ掛かった。


「リタは、部屋を指定されてここまで来たんでしょ?」

「ああ、そうだが。ニナもそうじゃ無いのか?」

「私は、階段から一番遠い部屋を順々に調べて回れって、アイリに指示された。もしも、クロエからの通信だったら、こんなに回りくどくて意味の無いことさせないと思う。何より、殺される可能性を考えると非効率」


 そう言い、ニナは左手を差出し、リタの立ち上がるのを手助けする。


「助かる」


 リタは、腕の状態を確認するがやはり右腕は使い物になら無そうであった。


「非効率の殺し、か。子供の言う言葉じゃないが、確かにそうだな。だが、クロエに限っては、そう言う殺しを好むのだろう? だとしたら、全て奴の掌で動かされている可能性があるんじゃないのか?」

「流石に、疑い始めたらキリがないから分からない」

「そうだな。ちなみに、他の指示は何も受けてはいないのか?」


 リタにそう聞かれるが、ニナは首を左右に振る。


「そうか」

「ただ、自由に動けるのはニナだけだから頼むって」

「そうか、そうだな」


 そして、二人はその部屋を後にする。




「さて、どうしたものかね」


 クロエは雑誌編集者へと変装し、一旦作戦を考え直していた。


「ヤン・フェイルのハッキングしたデータをハッキングし直し、こちらにも連絡が入る様にして、ヤン・フェイルは事実上死んだも同然だと思ってたんだけど、、気付かれたのか? それとも、アイリ・オルガにしてやられたか?」


 クロエには、突然ニナがあの場に現れたことの理由が分からないでいた。しかし、少なくとも、あれが偶然出会ったとは考えにくかった。他の隊員からではないと考えるならば、やはりアイリ以外に考えられはしなかった。


「さすがは、アイリ・オルガの銃なだけあるね。だけど、どうして分かったのかね」


 クロエには、それが分からないでいたが、事実、アイリにもあの部屋だと言うことは分かっていなかった。クロエがリタを呼び出し、その呼び出しに応じ、クロエがリタを追い詰めた。


 そして、タイミングを見計らったかのようにニナが登場する。それらには、まるで把握していたかのような一連であるが、それらは全てが偶然で折り重なって出来ていた。しかし、その当事者であるクロエも、リタも、ニナも、それを知る由も無かった。


 運命に悪戯された両者は、些かな疑問を抱えることとなった。


「まあ、いっか。そっちの方が面白いし」


 しかし、クロエは差ほど気にする様子も無く、小さく笑みを溢し、それを楽しむ余裕さえも見せていた。


「さて、次はどこに行こうかな」


 クロエは、腕を組み目を瞑って考える。頭の中で、誰が何処に居て、誰を始末することが有効的か、それらを幾重にも頭の中でシュミレーションをし、結論が出ると、ゆっくりと瞼を開けた。


「暇潰しに、人が多いとこに行くとするかな」


 そう呟くと、リタから奪い取った拳銃から銃弾の弾薬を数え、その弾数を把握し、ターゲットの一番多くいる議事堂へと足を運ぶのであった。



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