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ハウ・トゥ・ビルド・スクール

「慈悲あまねく慈愛深きアラーの御名において。国王、王妃両陛下、皇太子、皇太子妃両殿下並びに親愛なる姉妹兄弟のみな様。本日、この場に来られたことは、私にとって大変素晴らしく――そして、幸せな日です」


 ルクサーナの演説は、静寂の中、ゆっくりと始まった。


 その頃、リタへと一通の通信が入っていた。


「リタ、聞こえる?」

「アイリ、ですか?」


 守秘回線を通じて連絡をしてきたのは、アイリだった。


「今そこに、誰か居る?」

「いえ、別れてルクサーナの警護へ当たっています」

「それなら、丁度良いわ。今直ぐに、二階の突き当たりの会議室へ一人で来て。良いわね?」


 リタは、その口振りを不審に思った。


「分かりましたが、急用ですか?」

「詳しく説明している時間が無いのだよ。誰にも悟られずに、速やかに行動に移して頂戴」

「了解。直ぐに向かいます」


 リタは、その回線が切れたのと同時、周囲を確認し、迅速に指定された部屋へと向かった。恐らくこれは罠であろうと感じ取っていた。声色を変え、アイリの振りをして、何か行動を起こそうとしている、と。


 しかし、不用意にクロエがアイリに化けているとは、他の隊員には連絡が取れなかった。そう連絡を入れてしまえば、その先入観から他の人間を疑えなくなる可能性があったからだ。


 勿論、先程の通信がアイリ本人である可能性もあった。アイリ自身が、何らかの事情であまり余裕の無い状況で、リタへと真っ先に連絡をしてきたと言う可能性もあった。


 ここまで考えさせられてしまっている時点で、クロエの術中に嵌まっているのかもしれないが、それでもリタはその真相を自身の目で確認する必要があった。自分がそうする事で、最も被害が少なく済むと考えていたからだ。


 曲がる角の死界に警戒しながら、指定された会議室へと向かう。ものの数分で、その場所へと辿り着いた。問題は、この扉の先に爆圧物などが仕掛けられている可能性だが、クロエのやり口を考えるとその可能性は低いと言えた。


 警戒を緩めることなく、リタはそのドアノブへと手を掛けた。そして、リタは扉を開けて直ぐ様に銃口を向けると、相対するかのようにシャルルからリタへと銃口が向けられていた。


「どうして、シャルルがここに居る」

「それはこちらの台詞よ」


 互いに、銃口を下げぬまま睨み合いが続く。しかし、何かが可笑しいことにシャルルが気付いた。


「ねえ、リタ。最後に私と一緒に居たのって、一体いつ?」

「何を言っている。ルクサーナの演説が始まる寸前まで一緒に居たはずだ」


 リタのその返答に、シャルルは目を見開いた。そして、小さく首を左右に振り、リタのその言葉に誤りがあることを告げる。


「違う。私は、そもそもルクサーナの警護に当たっていないわ」

「いや、間違いなく、私とシャルルとニナとで警護に当たっていた」

「だから、それは私じゃないわ」

「シャルルじゃない……だと?」


 リタは、シャルルのその言葉に若干の動揺を示した。


「まさか、あの時一緒に居たのがクロエだったって言うのか?」

「だから、そうだって言ってるでしょ」


 そして、シャルルはハッとして気付く。


「ちょっと待って。ルクサーナの演説が始まる前まで、私とリタとニナが一緒に居たのよね。そして、今ここにリタが居ると言うことは、今クロエと一緒に居るのは――」

「シャルルに変装したクロエ……」

「だとしたら、ニナが危険だわ」


 状況が急転し、二人は慌てて会議室を飛び出したその刹那のことだった。


「があっ……」


 鈍い呻き声を上げて、その場にリタは倒れ込んだ。背後から撃たれたリタは、なんとか驚異的な反射神経で寸での所で急所こそ避けたが、それでも利き腕を使えなくなる程の重傷を負っていた。


 リタは、身を反転させ、その顔を確認する。


「……お前が、クロエ」


 リタの瞳には、シャルルの顔をして笑みを浮かべるシャゼル・クロエの姿が映し出されていた。




 オルガ商会の状況とは関係なしに、ルクサーナの演説は続く。演説が続くと言うことは、オルガ商会の隊員がどんな状況であれ、ルクサーナの護衛が為されていることを示していた。


「私は以前、エチオピアの外れにある小さなソトリと言う村へと訪れました。その村の入り口にある物に真っ先に目が行きました。皆さんは、それが何か分かるでしょうか?」


 ルクサーナのその問い掛けに答える者はいない。


「訪れて真っ先に目に入った物――それは、無数のお墓でした。ソトリと言う村は、もともとハンセン病の患者や、回復した人達が移り住んで出来た場所なのです。現在では、ハンセン病はかつての不治の病では無く、治る病気です。しかし、かつての印象がそのまま残っている性か、治ったとしてもその差別と偏見はなくなることはありませんでした。そうした移民の人達によって造られたのがソトリと言う村でした」


 ハンセン病とは感染病の一種で、当時は原因不明の不知の病であるとされていた為、人々から天刑病や業病として恐れられていたが、現在では治療法も確立しており、適切な治療を受けられれば、回復するとされる。


 しかし、それは適切な治療を受けられた時の話だった。治療を受けられるような環境では無い場合、皮膚に病変が生じることもあった。過去の統計では、世界におけるハンセン病の新規患者総数は年間約25万人とされていた。


 更に、ルクサーナの話は進む。


「このソトリ村の子供は、多くの子供が学校へ通えていませんでした。それは、先程述べたように、差別と偏見に加え、経済的な貧しさからそんな余裕がないのです。そして、子供たちはワタシにこんな質問をしたのです」


 ルクサーナは、会場に居る本当の意味で、経済的に()()()()()()()()()()()()へ、視線を合わせるかのように、会場内を見渡した。


「どうして、鉄砲は簡単に造れるのに学校は造れないの、と」


 ルクサーナは、一人一人に問い掛けるかの様な口調で、子供達の代弁をしていた。子供達は、どうしてしたくないのに勉強をしなければならないのか――ではなく、どうして勉強がしたいのに出来ないのか――をルクサーナへと問い掛けたのだ。


「私にもその答えは分かりません。だれか、代わりに私に教えてくれませんか?」


 ルクサーナのその問い掛けに答える者は誰も居ない。皆が見て見ぬ振りをしてきた――若しくわ、そもそもそんなことなど、今の今まで気にも留めたことの無い者しか、この場にはいないからだ。


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