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パブリック・スピーキング


 男性は、そのままモンテチトーリオ宮殿内の男性用トイレへと向かう。そして、仕事を終えてトイレから出て来たヤンとすれ違う様に、個室トイレへと入り込んで行く。


 その男性は、装着していたカツラや髭を取り外し、着用していたスーツを脱ぎ去ると、タイトスカート姿となった。その姿は先程モンテチトーリオ宮殿へやって来た男性では無く、まるで別人の女性となっていた。


「やっぱ、女の方が居心地良いね」


 その女性こそが――シャゼル・クロエに違いなかった。


 クロエは、鼻歌交じりにトランクケースを開けると、様々な日用雑貨品を取り出した。そして、それらを分解し、様々な形へと変形させ、組み立てることで一丁の拳銃を造り上げてしまった。クロエは、拳銃に使用する部品を様々な日用雑貨に擬態させることで、警備員の眼を欺いたのだ。


 筆記用具だと思われていたペン先は銃弾へと変わり、プラスチック製品や樹脂製品と言った非金属製品のみを使用することで、誰にも悟られることも無く、金属探知機を悠々と突破していたのだ。


 プラスチックで作られた拳銃は、正規の拳銃に比べその威力は大幅に落ちるのではないかと思われがちだが、その殺傷性は差して変わらない。ただ、素材によっては耐久性が脆く、十数発しか耐えられないものもある。


 しかし、プロの殺し屋からすれば十数発はむしろ多過ぎる位だった――ただ、その相手がオルガ商会でなければ。


「ちょっと、足りないかな――でも、ギリギリの方がスリリングだから良いよね」


 クロエは、これからオルガ商会とたった一人で戦うと言うのにも関わらず、楽観的でいた。それどころか、この状況を楽しんでいるようであった。まるで、やっと対等に戦うことの出来る相手を見つけたかのように。


 そして、ポリカーボネイト製のナイフをトランクケースの中から取り出し、それを懐へと忍ばせた。このナイフも樹脂で出来ている為、金属探知機には引っ掛かることはなかったと言うわけだった。


 こうして、クロエは人を殺すのに必要な道具を、不自由することなく堂々と持ち込んだのだ。


「さて、誰から会いに行こうかな。出来れば、最初からリタ・イルムガルドに遭遇することは避けたいな」


 クロエはそう言いながら、スマートデバイスの画面をスライドさせ、キーボードを出す。そして、モンテチトーリオ宮殿の監視カメラのセキュリティへ侵入したパソコンの形跡を調べ始めた。


「さすがに形跡は残してないね。でも、そっちが見れるなら、こっちも見られるんだよね」


 クロエは、ヤンがハッキングを仕掛けて見ている映像と同じ映像をスマートデバイスに映し出した。そして、オルガ商会の各隊員がどこへ配置されているのかを確認する。


 すると、在ることに気が付いた。


「一人、足らないな。やっぱり、モンテチトーリオ宮殿前ですれ違ったのアイリ・オルガだったか。失敗したな――でも、最後に殺れるから良っか。メインディッシュは、最後に取っておかないとだしね」


 そして、クロエはスマートデバイスを閉じた。


「作戦、決ーめた」


 そう呟き、不敵な笑みを浮かべるのだった。




 一方、その頃。


 ルクサーナ達は、演説を目前に控え、やや緊張感のある面持ちで、その時を待っていた。しかし、緊張に縛られていると言った様子は見られず、その緊張感が程良く高揚感を煽っていた。


「大丈夫?」


 ニナからルクサーナへと声を掛ける。


「はい、問題ありません。ただ少し、わくわくしているだけです」

「わくわく?」

「私は、これまでも様々な国で演説をしてきました。私の意見を聞き入れて貰えず、死に掛けることもありました。それらを覚悟していたつもりだったんですが、いつも心のどこかでは、恐怖していました」


 ルクサーナは、小さく俯いた。


「けれど、私は――ニナさんの様に歳の近い人がこうして戦っている、アイリさんの様に確固たる信念に基づいて行動している、そんな人達に出会えて――私は、本当に良かったと、そう思っています」


 そして、ルクサーナは笑みを浮かべ顔を上げた。その様を遠目で見ていたシャルルやリタも小さく笑みを浮かべていた。


「皆さんの武器が銃であるように、私の武器は一本のこのペンです。そして、これから向かう場所が、私にとっての戦場です。けれど、私はこれで世界を変えられると――いや、これから変えてみせるんですから」


 その表情からは、ルクサーナの確固たる決意を伺わせた。


「ルクサーナなら、きっと出来る」


 ニナは、ルクサーナへと優しくハグをし、抱きしめた。これまでのニナからは想像も出来ない行動であった。近しい歳の子供がこうして勇ましく向かって行く姿に感化されたのだろう――しかし、今のニナにはこの気持ちを上手く表現することは出来なかった。


 それが、ハグと言う行動だったのだろう。


「時間になりました。お願いします」


 そして、控室の扉がノックされ、その時はやって来た。


「では、行ってきます」


 ルクサーナは力強くそう言い放ち――今、演説が始まろうとしていた。


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