シャル・ウィ・ダンス
演説当日。
しかし、アイリ達一行は部屋に集まり、朝からテレビに耳を傾けていた。テレビの向こう側では、火災に遭った建物の消火活動を慌ただしくしている様子が報道されている。その報道に耳を傾ける一行達は、皆しんと静まり返り、ただたtだ黙々と武器のメンテナンスをしていた。
「やられたわね……」
テレビから流れる映像を見たアイリはぽつりとそう呟き、吸っていた煙草を灰皿へと押し付けた。
「では、繰り返しお伝えします。コルヴァーヤ宮殿で火災発生した模様です。原因は、未だ分かっておらず、消防団により消火活動が行われています。また、本日アイシャ・ムニル・ルクサーナ氏により、コルヴァーヤ宮殿での演説が行われる予定でしたが、その後の詳細は分かっておらず、ルクサーナ氏の演説を妨害するのが目的ではないかという見解で捜査が進められているそうです。引き続き分かり次第お伝えします。では、続いてのニュースです――」
アイリはテレビのリモコンを取り、コルヴァーヤ宮殿の火災のニュースが終わるや否やテレビを消し、一つ溜め息を付き、ソファーの背もたれにもたれ掛った。
欧州初の議会が開かれた、シチリア第一国会議事堂と呼ばれるコルヴァーヤ宮殿で、ルクサーナの演説が行われる予定であった。しかし、狙ったかのようなタイミングでそんな場所で火災が起こるはずも無く、考えられる理由はただ一つであった。
「クロエですね」
リタのその声に、アイリは深く頷く。
「シシシシッ、間違いないだろう。こちらが動く前に動かれた。ただそれだけのことだ。だが、これでまた状況が変わるのも確かなのだが問題は――」
アイリが言い掛けたところで、部屋の電話が鳴り響く。電話の近くに居たシャルルがその電話を取り、受け答え。どうやら、ルクサーナ宛ての電話らしく、シャルルはルクサーナと電話を代わる。
「はい、はい――え?」
ルクサーナは電話の内容へ頻りに頷くと、首を傾げ困惑する。ルクサーナは、通話口を手で押さえ、アイリの方へ視線をやり相談を持ち掛けた。
「あの……」
「どうした、ルクサーナ?」
言い難そうにしているルクサーナへ、アイリから問い掛ける。
「あの、今日の演説のことなんですが、どうやら場所を変更して行ってくれないかとの事で……」
「日時と場所は?」
「今日の十九時に、ローマのモンテチトーリオ宮殿です」
そう聞くと、アイリはニヤリと笑みを浮かべた。
「なるほど、段々と見えて来たな。ルクサーナ、その要望を受け入れるんだ」
「えっと、はい、分かりました」
ルクサーナは、電話の主へと問題ないとの節を伝え、電話を切った。そのタイミングで、アイリはソファーの背もたれの反動を使い、勢い良く立ち上がる。
「では、これまでの事とこれからの事を少し話そう。本日、コルヴァーヤ宮殿にて行われるはずだった演説は、何者かの手によって使用不可能となった。それに代わり、ローマのモンテチトーリオ宮殿で十九時に演説を行う事になった。これの意味を諸君等は理解出来ていると思うが、ニナどうだ?」
アイリは、ビシッとニナへ指差す。
「え、えっと、時間が無い?」
急に、名指しされたニナはビクッとし、自信なさそうにそう答える。
「半分正解。では、ルクサーナ」
ニナへ指していた指をそのままルクサーナへとずらす。
「クロエがローマに向けて動いていると言うことですか?」
「二人足して、大凡正解だ。だが、満点では無い。一つ、時間は無いようで実に計算されている」
アイリは、人差し指を立てる。
「そうだな。ここから、ローマまでなら凡そ九時間で着く。今からシチリアを出れば、何とか間に合うってことだろ、お嬢」
「その通り。カルロの言う通り、今から出ればローマへ間に合う。まるで、急かされて出て行くかのようにここを出ればね。そして、二つ」
アイリは、中指も立てる。
「いつからクロエが動いていたのかは分からないが、目に見えて動き始めたと考えて良いだろう。コルヴァーヤ宮殿の火災がなによりだ。そして、クロエはもうローマへ向かっていると考えても良いだろう」
アイリの言葉に、シャルルは疑問を抱いた。
「ちょっと、待って。どうして、私たちより先にクロエがローマへ向っているのよ? 私たちだって、連絡を受けたのはたった今の筈よ?」
「良い質問だ、シャルル。可笑しいとは思わないか? コルヴァーヤ宮殿が火災に遭い、ローマのモンテチトーリオ宮殿へ当日中に変更なんてこと出来るものだろうか――まるで、予約でもしていたかのように。それに、こんな事件があったと言うのに、ルクサーナの演説を延期しないのは何故なのだろうか。そもそも……いや、まあいい」
そして、薬指も立てる。
「どちらにせよ、我々はローマへと招待されているらしい」
アイリは、ニヤリと不敵な笑みを溢す。
「我々当てに招待状が送られて来たのだから、スーツでもビシッと着込んで、招待されてやろうじゃないか。準備は良いか、諸君。ダンスの相手は、ローマに居る。だったら、とことん付き合ってやろうじゃないか」
その言葉に答える様に、隊員全員が武器を持ち立ちあがる。
「どちらかが倒れるまでな」
そう言い、アイリはその手で握り潰すように力強く拳を作った。




