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インデペンデンス・デイ

「シシシシッ」


 アイリは、不敵に笑みを浮かべる。


「何が可笑しい?」

「いやいや、その言い草だとあたかも一商人である私が、一国を動かしたみたいな言い方をするものでね」

「事実、動いてんじゃねえか」


 互いに睨み合う。その空間は異常なまでに張り詰めていた。


「もう一度聞く。何が目的だった」

「そんなに面倒臭い聞き方じゃなくて率直に聞きたいことを聞けば良いのだよ、ドン・ボルサリーノ。イギリスの核置き場であるスコットランドを狙ったんじゃないだろうなってね」


 その空気を壊すように、軽快な口調でアイリはそう返答した。


「これには、条件がある。その大前提として今回のスコットランド独立選挙に過半数以上の独立票が必要となるのだが、それがまず不可能なのだよ」

「何故、そう言い切れる」

「そもそもの話。今回の選挙は、独立をするかしないかと言うことはあくまで題目でしかない」

「題目だと?」

「ええ、そうよ。本当の目的は、三つだけ。一つ、数日前に発表されたイギリス側からの医療サービスの予算や税金の徴収などに関する自治権の拡大などを記された誓約書。これを世界中が注目する独立選挙と言う公の場でイギリス側から譲歩を引き出せたと言う事実。二つ、これに伴いスコットランドの発言権が強まったと言うこと。三つ、スコットランドの独立が交渉の切り札に為り得るということ」


 すると、アルトゥーロは怪訝な顔をした。それを問いただそうとするよりも先に、アイリが口を開く。


「今回の独立選挙は一度きりでは無いのか――恐らくはそうはならない。時期や取り巻く環境により動く可能性は無くは無いでしょうね。そもそも、今回の選挙が公平に行われる保証なんてどこにもないことを考えると、独立が過半数を超えなくても再選挙要求される可能性もあるわけだし」

「おい」


 アルトゥーロは、アイリの言葉を遮る様に声を掛けた。


「いや、俺が聞きたいのはそう言うことじゃねえ。これが、最後だ。何が目的だ」

「だから、それは――」

「お前は、ワザと本当の狙いである核のことについて真っ先に触れた。俺が疑っていたのは、スコットランドをイギリスから独立させることで、ヨーロッパへの独立運動の飛び火。イギリスも加盟しているEU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)を弱体化させ、お前の祖国であるロシアに対する軍事戦略に影響を及ぼさせようとしてるんじゃねえかってことだ」


 このスコットランド独立は、ただイギリスからスコットランドが独立すると言うだけの簡単な話では無かった。


 現在、イギリスを除けば、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、デンマーク、グルジア、ウクライナと欧州だけでこれだけもの国で独立の機会を伺っている。もし、スコットランドの独立が成功するような事があれば、様々な地域に飛び火しかねないのである。


 また、東西冷戦時代にソ連の軍事的脅威に対抗するために、アメリカが西欧諸国と共に立ち上げた統合体こそNATOだが、冷戦が終結しても尚NATOは存在している――それは、ロシアに対しての対抗手段として今も尚機能しているからだった。


 つまり、もし仮にスコットランドが独立するようなことがあれば、EUやNATOは機能しなくなり、世界規模で影響を及ぼすのは当然のこと、経済や軍事などその影響を真っ先に受けることになるのが欧州なのである。


 更にこの時、ロシアはウクライナ情勢への対応を迫られており、ウクライナへと加担しているEUとNATOの弱体化は願っても無いことだったのだ。


 そうなると、今回の騒動に関係しているであろうアイリの祖国であるロシア連邦がこの恩恵を受けるものと考えるのは、極めて自然だった。アイリが何を目的に動いていたのか――その答えはアルトゥーロの中では既に存在しており、その答え合わせの様なものだった。


 スコットランドがイギリスから独立すると言う綻びは、じわりじわりと広がりを見せ、気付けば手におえないような大きな穴となる。アイリは、直接手を出さずに絡まり合う無数の糸の中から一本切り取るだけで崩れ落ちる世界の脆弱を突いていたのだ。


「……クククク」


 アイリは、含み堪える様に笑い、そして――それを爆発させるかのように大声で笑い上げた。


「シシシシッ」


 アイリは、手で額を覆う様にして声高らかに笑う。その様子に、誰もが何が起こったのかそれを理解出来ないでいた。当然、それはアイリの他知る由も無いことだった。


「なるほど、なるほど、面白い。良い、良いよ傑作だ。ドン・ボルサリーノ、ミリオンセラーの作家になれる。だが、私の口からはそれが正解かどうかと言うことは控えさせて貰おう。ポーカーで降りた時、どんな手を作ろうとしていたかなんてことを相手にわざわざ見せる必要は無いだろう?」

「面白れえことが言えるようになったもんだな」


 アイリのその返答で自分の解釈で正しかったと納得したのか、将又思惑とは違っていたのか――それでも、アルトゥーロはそれ以上を言及することは無く、吹かしていた葉巻をその足元へそのまま落とした。


「それじゃあ、あの男の情報を」


 アイリは、手を差し出す。


「いや、タダで渡せるほど安い情報じゃない。そんなことはお前自身が一番分かってんだろう。あいつの存在は、アメリカ政府を揺るがすものだ。それ相応の見返りはきっちり貰う、それが出来なきゃ、この話は無しだ」


 そして、差し出した手を握り潰した。


「だろうとは思っていたよ。時間が無い、さっさと話を始めようか」


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