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アクロス・ザ・シー


 アルトゥーロは、部下たちをその場で待機させ秘書のカタリーナだけを連れ、アイリ達の前へとやって来た。


「あら、聞こえちゃったか。空港内がやけに静かだから、無理矢理に人払いをして私たちを出迎えるような馬鹿な真似はするわけないと思っていたけど、まさか本当にそんな事をするなんてね」

「俺とお前が会うってだけで、動く人間が大勢いるんだよ」

「ちょっと自惚れ過ぎじゃない? でなきゃ、そろそろ落ち目なんじゃないの?」


 その直後、カタリーナは銃を引き抜きアイリの頭部へと銃口を向けた。それと同時に、ニナは盾となるべくアイリの前へと出る。しかし、アイリの前へ出る動作の分だけ銃を取り出すのが遅くなってしまった。


「まだまだ、ですね。お嬢ちゃん」


 カタリーナは、そう言うと銃をしまった。ニナは、呆気に取られた表情をし、カタリーナにただ試されていただけだと知ると、少し恥ずかしくなり俯いた。


「あんまり、うちの子を虐めないでよカタリーナ」

「可愛いらしくてつい。その歳にしては優秀よ。でも、そこにずっといたいならもっと強くなりなさい。お姉さんからのアドバイスです」


 ニコリと笑みを浮かべるカタリーナに、ニナはコクリと頷いた。


「お姉さんって歳じゃねえだろ」


 ぼそっとカルロが呟いたその言葉をカタリーナは、聞き逃さなかった。まるでその言葉に食いつくかのようにカルロの方へと歩み出す。


「誰に言ってんのかしらね。まさか、私に言ってないでしょうね。この死にぞこないの年寄りが」

「誰が死にぞこないの年寄りだ。お前が見栄を張ってるから間違いを訂正しただけだろう」

「なんですって。だいたい、あなたはいつもいつも――」


 目の前で繰り広げられるこの光景に、事実を知らない者には違和感を覚えた。


「なんなんだ、この夫婦喧嘩みたいなやり取りは……」


 フレイの口から零れ落ちたような言葉をシャルルが拾うようにそれに答える。


「みたいじゃなくて、まさに夫婦よ」

「まじかよ! こんな美人が奥さんとか有り得ねえだろ!」


 心の底から悔しがるフレイを他所に、アイリは手をぱんぱんと叩き、二人の痴話喧嘩を仲介した。


「はいはい、そこまで。今日は、あなた達のイチゃイチャを見物にわざわざイタリアに来たわけではありませんので」


 からかう様にそう言い、シシシシッと笑って見せた。カタリーナはコホンと咳を一つして正気を取り戻し、アルトゥーロの傍へと戻った。


「先日の北アイルランドでの一件は、新聞で見させて貰った。新聞の向こう側から、玩具の銃に銃口を突き付けられているようだった」


 アルトゥールは、敢えて皮肉を言い、そのまま続ける。


「率直に聞こう。何が目的だった?」


 鋭い視線で、アイリへと睨みを利かせる。


「別に目的なんて何もない。たまたま通り掛かった結果、そうなったってだけ」

「そんなふざけた言い訳が通用するとでも思っているのか。あの一件以降、イギリスはさらに不安定になった。北アイルランドで事を起こしているのだとばかり思っていたが、その実、まさかスコットランドを動かしていたなんて事に気づく奴など居るはずも無いだろうが」


 この事実には、アイリ本人を除いて知る者はいなかった。アルトゥーロの言う通り、気付くはずが無かったのだ。海を超えた向こう側を動かすなどと言うことを考えもしないからだ。


「へえ。何故そう思ったのかね、ドン・ボルサリーノ。お聞かせ願おうか?」

「お前が、北アイルランドに渡ったことには疑問を抱かなかった。だが、イギリス国女王が弔問しに来たと知り、疑問を持った。たかが、一介の議員ならば、一言コメントを宛てるだけでも十分過ぎる程だ」


 カタリーナへと顎で合図を送り、葉巻を受け取りそれを口に咥え、火を付けさせた。


「だがしかし、自ら弔問することを選んだ。いや、選ばざるを得なかった――停滞気味だった北アイルランドとアイルランドの和平への動きを見せ、そしてその主導者が死亡した。イギリス国元首相の和平交渉から十数年、再び女王が訪問をすることで好印象を与えられる。しかし、それがスコットランド側にはこう映ってしまった。イギリスが北アイルランドへ釘を打ったかの様に」

「なるほど」

「おかげで、スコットランドは世論調査でついにイギリスから独立することに対しての賛成票が過半数を超えた。つい先月までは、20%以上も引き離されていたのにも関わらずだ」


 もともと、昔から分離を求める声は小さくはなかった。しかし、それは経済的な恩恵の放棄することを意味しており、イングランドに頼る現状では、一定以上の支持を得ることは難しかった。

 しかし、今回の北アイルランドの動きを見て例え突発的や一時的とは言え、過半数以上の支持を得られたと言う事実は、イギリス国内のみに留まらず世界的にも与える影響は大きかった。


 イギリスから離脱する場合はポンドを使ってはならないとし、通貨同盟に関する交渉や、スコットランドが一部分担しているイギリスの国家債務に関する事案など――財政危機が懸念されていた。

 そして、ポンドの価値は先週よりも2%以上下落と、その影響は表面化し始めていた。


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