イタリアン・マフィア
イタリア・シチリア島・カターニャ・ファンタナロッサ空港。
「やっと、着いたわね」
アイリは、大きく伸びをする。
「と言っても、ほんの数時間ですけどね」
リタのその言葉にアイリは透かさず言う。
「リタ、刻は金なりよ。その逆は無いんだから限られた時間を有効に使う事は、どんなお金にだって勝るのだよ」
「そうですね」
アイリとリタは、軽く笑みを溢す。
「そう言えば、イタリアはカルロさんの故郷では無かったでしたか?」
ヤンは、カルロへと聞く。
「別にこれと言って何か思い入れがあるわけじゃねえからなあ」
「とか言って、昔振られた女とかいるんだろ?」
フレイの質問に呆れた様子を見せる。
「言っとくけど、カルロは既婚者よ?」
シャルルのその一言で、フレイは固まった。
「このだらしないおっさんにかッ⁉」
「お前の頭ぶち抜いてやろうか?」
「しかもその相手って言うのが――」
「おい、余計な事を言うんじゃねえ」
シャルルは言い掛けたところで、舌をぺろりと出し、この話を止めた。最後まで聞けなかったフレイだけがやきもきとした気持ちを残されたのだった。
「どうしたの、ニナ?」
辺りをやたらときょろきょろと見回すニナに、アイリは聞く。
「どうして、空港なのにこんなに静かなの?」
「あれじゃないの、イタリア人特有のボイコット」
「ボイコット?」
「ボイコットって言うのは、仕事を拒否したり、ある商品を買わないようにするとかってことよ。まあ、単純に抗議をする為の一つの手段ね。イタリアでは、それが普通。カルロを見てれば分かるでしょ?」
二人で、カルロの方を見遣る。
「なんだよ、二人して」
「いや、なんでもないわよ」
ニナもそれに同意する様に首を縦に振り、そして、顔を見つめ合わせ、思わず笑ってしまった。
「ところで、イタリアへは何をしに来たの?」
ニナのその質問でようやく本来在るべき話へと戻されたようだった。
「今回は、向こうの条件と引き換えにアメリカのとある情報とを交換して貰うのだよ」
「イタリアで、アメリカの情報を? アメリカじゃ集められないの?」
ニナの質問は、最もであった。アメリカの情報を知りたいのであれば、アメリカで集めた方がより情報が集まりそうであるからだ。しかし、今回に限ってはそれは難しかった。
「それが可能ならそうするところだけど、アメリカじゃ恐らく、今回私が欲する情報は手に入れられない。その情報が余りにもアメリカの極秘中の極秘情報だからよ」
「そんな情報をどうしてイタリアで?」
「それは、イタリアとアメリカとで共通のネットワークが形成されているのだよ。分かるかい?」
ニナは、首を横に振る。
「だろうね。その答えは、マフィア。第二次世界大戦において、アメリカを中心とした連合国にイタリアは降伏した。その時、アメリカの工作員とマフィアとの間に接触し、公的権力に食い込むようになったと言うわけ。そして、イタリアからアメリカへの移民が増え、これらの繋がりを中心として世界中に分散することで世界規模で強力なネットワークが形成された。これこそが、マフィアの最大の武器。俗に言う、無形資本ね」
「でも、そんなこと本当に出来るの?」
このネットワークには、本来であれば最大の穴がある。それは、情報の漏洩だ。いくら、強力なネットワークを構築しようとも、その情報が洩れていたり、相手に筒抜けではまるで機能しなくなる。それどころか、それを逆手に取られる危険性すらあり得る。
しかし、マフィアに限って言えば、その可能性は低かった。
「良く気付いたね、ニナ。そう、これはどこか一つにでも穴が空けば、全てが機能しなくなる。だから、マフィアにはオメルタと呼ばれる血の掟があるのだよ」
「血の掟?」
「そう、簡単に言うと裏切りは許さないぞってこと。敵に捕まって脅された時に、その捕まった人が口を割らなければ、ボスは生き残り、ネットワークにも害が及ばない。何年にも渡って取引を続けていくとなると、こうした関係が重要な機能を果たすってわけ。まあ、最近はネットワークが広がり過ぎて手に負えなくなってきている様だけどね」
アイリはそう言い、シシシシッと笑って見せた。
「随分な言い草だなあ、おい」
その時、物陰から現れたのは、アイリにドンボルサリーノと呼ばれるカスト・アルトゥーロと、その秘書シルヴィア・カタリーナ。そして、そのファミリー達の姿であった。




